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33◇クロス・クロノス=ナノランスロット、拝領ス

 



 アークレア大陸には、十一の国家がある。

 閉鎖国家――ヘケロメタン。

 大陸南端に位置し、鎖国状態にあるため、情報が流れてこない謎の国。

 情報国家――ラルークヨルド。

 識者と呼ばれる賢者達による最高議会が国の行く末を決定付ける、議会制国家。

 中立国家――ロエルビナフ。

 国としては一番若く、アークスバオナより独立して四十年しか経っていない。ダルトラとアークスバオナの中間に位置する為、小競り合いの主戦場となっている。

 宗教国家――ゲドゥンドラ。

 国家規模は最小だが、アークレア神話教会の始まりの地であり、いまだに強い権威を持つ。

 民族国家――ギボルネ。

 北方の山岳地帯に居を構え、数で劣りながらもダルトラの侵攻を耐え凌いでいる。

 幻想国家――ファカルネ。

 何らかの魔法によるものと推測されるが、其処に在ると認識出来るのに到達することの出来ない謎の領土を持つ。

 軍事国家――アークスバオナ。

 ダルトラに次ぐ戦力を有する国家。軍人によって統治がなされ、近年拡大政策を執る。

 商業国家――ファルド。

 飛び石的な領土を持ち、交易によって莫大な国益を上げる国家。彼ら独自のルートに頼る国家も多く、安易に侵攻出来ずにいるという。

 魔術国家――エルソドシャラル。

 魔法適性を持つ者とそうでないものを明確に差別する。魔法帝と呼ばれる国家元首によって治世が為される帝国。

 技術国家――メレクト。

 人工魔法具開発の聖地と呼ばれる。優れた技術者が多くおり、その発明による特許料で国の運営を賄える程。

 英雄国家――ダルトラ。

 最も多くの英雄、来訪者、兵士を抱える平地に築かれた国家。

 神話時代。

 神は眠りにつく前に、人との間に子を為していた。

 半神半人の、その子供を、英雄たちは王とし、人類と共に国家を形作ったとされている。

 そして、十一の国家の内、ダルトラとアークスバオナが、自分達こそが神話時代に築かれた国家であると主張している。

 我らが王こそが、神の子の末裔であると。

 ダルトラの王族、アークスバオナの皇族、それぞれが、その証明となる力を有していた。

 御業[みわざ]と言われる、神の力の一端だ。

 どちらもそれを使える。

 普通に考えて、どこかで血が別れたのだろう。

 しかし、そんな簡単な結論には、至らなかった。

 片方が、悪神の力を継ぐ者である。

 片方が、神の血族を僭称しているのである。

 そんな、子供の意地悪みたいな争いが始まった。

 そして今、ダルトラも、アークスバオナも、その国土を広げる為の戦争をしている。

 幸助は、つまり、国力の一種として、軍事力の塊として、認められたわけだ。

 第三王女アイン・ティファイン・マナフォル・フィフヌス・オ=フルロトセフィ。

 貴人が人前に顔や肌、姿を晒さないというのは、幸助の元いた世界でも古来、各所で見られた、よくあることだ。

 彼らの聖性、あるいは神性は、俗人の目に触れることが穢れ、損なわれると考えられたからだ。

 実際は、個人としてではなく、象徴として君臨する為に都合が良かった、ともいえる。

 超然たる存在であると思わせる為には、人間らしさというのは不純物でしかない。

 第三王女も、それに倣った姿をしていた。

「面を上げよ、クロ」

 第三王女がそう言うと、両脇に構える従者が、声を重ねて言う。

「拝謁の栄に落涙せよ、来訪者」

 そっと顔を上げる。

 ローブを纏っている。

 手袋。

 長い靴下――ストッキングのような構造かもしれない――を履いている。

 そして、仮面。

 どんな形か、見えているのに、よくわからない。

 認識阻害魔法でも、掛かっているのだろう。

 貴人と口を利く時の作法など、幸助は知らない。

 言ってしまえば中卒だし、不良の世界における敬語なんて、語尾に「ッス」と付けるだけでいいというお手軽っぷりだ。

 しかし、眼前に佇むは紛れもなく王族。

 タメ口聞いたから斬首、なんてことも有り得るのだ。

「御前を拝します」

 少し遅かったかと思ったが、どうやら問題ないようだった。

「お主の武功を称える場であるというに、父王ではなく、我が如き若輩を寄越す無礼、王室を代表して詫びるぞ」

「わたくしの方こそ、このような場を設けてくださったこと、感謝のしようもありませぬ」

「そう気を張るでない。何も取って食おうというわけでもないのだ。此度、悪神創魔法具奉上の功、見事であった。褒めて遣わす」

「光栄至極に存じます」

 そろそろ丁寧な言葉遣いのレパートリーが尽きそうだ、と幸助は内心焦る。

「ふむ。我も堅苦しいのは好みではない。ウイ」

 ウイと呼ばれた、第三王女の右側に控えた従者が、なにやら装飾過多な剣を、捧げるように第三王女に差し出す。

「クロを除く皆の者、楽にせい」

 全員が、立ち上がった。

 少し、壮観だ。

 年の頃はわからないが、おそらく、少女。

 少女が、場を支配している。

「我、アイン・ティファイン・マナフォル・フィフヌス・オ=フルロトセフィの名に於いて、お主に二物を与える。

 一、名。

 お主はこれより、ダルトラの臣民となる。それに伴い、名を用意した。

 以降、お主はクロス・クロノス=ナノランスロットと名乗れ」

 なるほど、臣民と認められるというのだから、その国の名前を貰うのは、考えてみれば不思議でもなんでもない。

「二、宝剣。

 御業によって不壊を得た国宝を、貴様に下賜する。

 銘を……異国語故、発音が幾分心許ないが容赦せよ――『黒士無双』」

 第三王女が、剣の柄と腹に手をあて、幸助に差し出す。

「クロス・クロノス=ナノランスロット、拝領します」

 剣を、受け取る。

 万雷の拍手が、構内に満ちる。

 こうして、幸助は名実ともに――英雄となった。

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