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32◇第三王女、来場ス

 



 自己嫌悪に陥る幸助に、ぽつりとクウィンが言う。

「……つまり、トワは、クロの、妹、だった?」

「だった、じゃない。妹だ」

 自分でも意外な程、語気が荒くなる。

「……いや、悪い。お前は何も悪くないのに」

「別に、大丈夫。それで、クロは、どうしたいの?」

「どうしたい、って」

 どうしたいのだろう。

 そうだ。

 プラスに言ったばかりではないか。

 目的を定め、手段の選択を行えばいい。

 新たな目的を設定せよ。

 思考が鮮明になっていく。

 余分な感情の波が落ち着いていく。

 願うのはなんだ。

 自分を思い出してもらうことか――否。

 悲劇を思い出してもらうことか――否。

 責められたくないか――是。

 責められたくないだけか――否。

 自分は兄だ。

 トワは、最愛の妹である。

 愛されたいから、愛するのではない。

 愛しているから、大切にするのだ。

 自分の弱さは、認めよう。

 認めて、向き合おう。

 彼女に責められなくて、安堵している。

 とても最低なことだ。

 でも、だからって、妹を大事に想う気持ちが、嘘になるわけではない。

 彼女にとっての最善を考えろ。

 前世を忘れたまま、幸せになることは、不幸か?

 ――否。

 要らぬ記憶は、ある。

 では、記憶を失った彼女は、他人か。

 ――否。

 変わらず妹である。

 なら、自分が望むことはなんだ。

 簡単だ。

 コウちゃんとしてではなく、クロとして、彼女と関係を構築し直すこと。

 一生忘れられたままでも、友人として、彼女の側にいること。

 可能な限りの力を賭して、この世界でこそ、彼女を幸福にすること。

 決まったら、なんて簡単なことだろう。

 迷う必要なんて、最初から無かった。

 妹が、生きている。

 生きているのだ。

 成長し、老いることが出来る。

 結婚し、子を為すことも出来る。

 人を愛し、人に愛されることが出来る。

 幸せになれる。

 なら、それでいいじゃないか。

「ありがとう、クウィン。もう、大丈夫だ」

「……そう。なら、いい、けど。わたし、クロの、役に立った、かな?」

「あぁ、すごく助かったよ」

「じゃあ、クロも、わたし、助けてくれる?」

 それは、英雄をやめる手伝いをしろということか。

「自分で考えるんじゃなかったのか?」

「……考えるの、得意じゃ、ない…………」

 落ち込むように、俯いてしまう。

「なんでもってわけには、いかないよ。俺の手で救えるものには、限度がある」

「そ、っか」

「でも、友達として出来ることなら、手伝おう。お前の言葉で、俺が助かったのと同じくらい、お前を助ける」

 クウィンは顔を上げ、何故か、クロの頬へ手を伸ばした。

「え、と。どうした?」

「……わからない、けど。急に、触りたくなった」

 彼女は手を離すと、胸のあたりを撫でた。

「変な感じする、クロの、所為?」

「………………それは、どうだろうな」

「お熱いわね~」

 エルフィは既に笑みを取り戻していた。

 新しい酒を手にとっている。

「お話は済みましたか?」

 そこへ、ルキウスがやってくる。

 笑顔にどこか、疲れが滲んでいた。

 内弁慶のトワは、どうやら英雄らを“内”に認定しているらしい。

 だとしたら、その苦労は察するに余りある。

 ルキウスが辟易とするのも、必然だった。

「クロ、もしよろしければ、トワに先程のことを謝罪していただけますか? 謝罪とはいかなくても、挨拶くらいはした方がいいと、僕も愚考致します。差し出がましい主張で、大変恐縮ですが」

「いや、ルキウスは正しいよ。謝りに行く。ついてきてくれるか?」

 ルキウスは、女性の十人に九人がそれだけで恋に落ちるような笑みを浮かべ、頷いた。

「もちろんです。さぁこちらへ、ご案内しましょう」

 と、そこへ更に、プラスがやってくる。

「クロ殿! ようやく見つけたであります」

「あぁ、プラス。どこ行ってたんだ。こういうパーティーで顔見知りに見捨てられた時の心細さを考えてくれないか」

「なにを理不尽なことを……。貴君がキルパロミデス卿との戦いを始め、小官を下がらせたのではないですか」

 その通りだった。

「そろそろ御前のいらっしゃる頃合いです、あまりフラフラせずに――」

 プラスの言葉が止まった。

 ルキウスとクウィン、そしてエルフィがその場で膝をついたのだ。

 エルフィに引っ張られ、幸助もどうにかそれを真似する。

 左膝をつき、右膝は立て、右手は敬礼の位置、左手で背へ回し、こうべを垂れる。

 ダルトラの最敬礼。

 そんなポーズを取らなければならない相手は、王族に連なる者のみ。

 独りだけその方向に背を向けていたプラスが、おそるおそる振り返る。

「既に此処におるぞ、ガンオルゲリューズ卿」

 気付けば、構内の全員が同じ体勢、同じ所作を執っていた。

 僅かに遅れて、プラスも倣う。

 第三王女が、現れた。




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◇ライドコミックスより1~4巻◇
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たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても
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