280◇擯斥の英雄、転倒ス
英雄の出現頻度は時代ごとにバラバラだ。大体この程度の期間に何人か出てくる、なんてものではない。
クロが現れるまでダルトラにおいて『最も新しく認められた英雄』だったトワイライツだが、彼とクロの出現には五年の開きがある。
これを長いととるか短いととるかは人によるだろうが、超難度悪領の攻略を任せられるのが英雄規格だけということを考えると、心許ない。
クラウディアのように『無銘』となる例もあるので、五年の間に英雄規格が一切来訪しなかったとは言い切れないが……。
ともかく英雄規格がいつどのようにしてどれだけ訪れるかは、誰にも予測出来ない。
『擯斥の英雄』クラウディアは、恵まれていたといえるだろう。強い仲間に恵まれていた。
セラ、レイ、ストーン、テレサ、イクサ、ステラ。彼ら彼女らは全員が同時期に来訪したわけではない。同じ戦いで命を落とした。
超難度迷宮から這い出た魔物達から、人々を守る為に戦った。
当時その場には七人の英雄がいて。
生き残ったのはクラウディア一人だった。
生かされた、というべきだろう。
クラウディアが司るのは『薄紅』の色彩属性。『黒』『白』『紅』『蒼』『翠』を除く色彩属性保持者をダルトラが発見したのはクラウディアが初めてのことだった。
アークスバオナがそうしていたように、クラウディアの色もまた秘匿された。
今思えば、この時へと続く大きな流れの一つだったのだろう。
人類史上類を見ない数の英雄規格出現、また既存の五色に囚われない多彩な色彩属性保持者。
有り得ないと言われていた、同時代に同色保持者が複数出現するという事例。
神様はきっと、この時代の人類に何かをさせるつもりだ。
それはクロに刻まれた呪いで判明した。
悪神を滅ぼせ。
今度こそ。千年前の人類が成し得なかったことを、千年前を超える人材を束ねて成し遂げろ。
自分達は、その為の駒だ。
既に失われた命なのだから軽く見られているのか。分からないが、愉快ではない。正直不愉快極まる。
それでも、投げ出すことはしない。
神様の望みだからではない。
エルフィ。『神癒の英雄』。彼女が帝国にいる。一応あんなでも友人だ。裏切ったとは思っていないし、きっと馬鹿なことをするだろう。連れ戻して文句の一つでも言わなければ。
それが一つ。
もう一つは、十八の若さで世界を背負わされた少年・クロとの約束。
神化の防遏とやらで『擯斥』の暴走したクラウディアは現在、何物も寄せ付けない。
死なせない為か体内は例外だが、栄養摂取以外に外界と『触れ合う』ことは出来ない。
それをクロは治すと言った。
クラウディアはそれを辞退。いや、保留にした。
この戦いが終わった後で、彼の気遣いに甘えよう。
それまでは、きっとこの歪な力が役立つから。
まさか、最初の相手が彼だとは、夢にも思わなかったが。
『霹靂の英雄』リガル。
クロの前に、ダルトラの英雄を束ねていた者。
クラウディアにとっても、彼は友だ。戦いやすいとは言わないし言えない。
だが他に任せるわけにもいかなかった。
髪は垂れ、目は虚ろで、ライムイエローの毛髪も瞳も光を失っているように見える。
だがその身体と魔力は本人のそれ。
神だか悪神だか知らないが、まったく忌々しい色彩属性を生んだものだ。
自分達は一体、後何度を死を弄ばれればいい。
リガルの攻撃は迅速だった。
自身を無視して突破しようとするクロに雷撃。
それをクラウディアの『薄紅』が弾く。粒子を結合させ盾のようにしたものだ。
雷撃はそのまま『反射』されてリガルを襲う。
今の彼は宝具を装備していない。体内に雷撃を流した際のダメージを無効化する能力は働いていない。
「な――」
リガルは雷撃を回避。それはいい。いや、正直クラウディアには彼が雷撃を避けたところを目にすることが出来なかった。英雄の目を以ってしても捉えきれぬ速度。
それは彼が宝具を装備することで可能としていた、『雷』魔法による速度強化。
リガルは一瞬でクラウディアとの距離を詰めると、右足でクラウディアの手前の地面を大きく蹴りつけた。英雄の脚力に速度が乗り、地面が爆発するように抉れる。
それによって体勢を崩したクラウディアの視線が思わず天を向く。
そこに、リガルがいた。
嵐の中のような、稲妻の群れを連れて。
――疾すぎる。
屍兵となったことで人格を剥ぎ取られ、同時に痛みへの抵抗も失われた。身体の損傷などで躊躇しないのだ。壊れることを前提に治癒や再生を施せばいい。壊れた先から治せばいい。
そして地面を背にさせることで、クラウディアを逃すまいとしたのだ。
記憶は残っているのかいないのか。
どちらにしても正しい。
クラウディアは世界からの反発をその身に受けている。攻撃を受けてもダメージは負わないが、衝撃は『感じる』のだ。怪我はしないが同じだけ痛い。
クラウディアの神化の防遏を知っているのなら、『薄紅』が解けないのだからクラウディアの意識が耐えられなくなるまで攻撃を叩き込めばいい。
知らない場合でも、『薄紅』を相殺して生身に雷撃を叩き込めばいい。
己の身が傷つくことを厭わない、迅雷が如き英雄の特攻。
彼らしからぬ乱暴な戦い方。
やはりリガルは此処にいないのだ。
「あのジジイの顔で、見下さないでくれる?」
なるべく身体を覆う『薄紅』に触れぬよう、『薄紅』の盾を展開。
「く、ぅッ……!」
雷撃は一瞬の内に幾百も駆け抜ける。『反射』によって自分の魔法に襲われるリガルは無表情。
クラウディアばかりが痛みに喘ぐことになる。
なんとかしてこの状態から脱しなければ。
と、その時。
リガルの方が飛ぶようにクラウディアから離れた。
すぐさまクラウディアは立ち上がる。
すると、足元にリガルの左腕が落ちていた。
「これは楽しいことになってますわね! いつもいつもヘラヘラしてる貴方がわたくしは心底気に食わなかったのですけれど、まさかこのような機会に恵まれようとは! 敵ならば遠慮など必要なしというものでしょう! さぁ、『霹靂の英雄』が真価を見せなさいな!」
二つに分けられた髪はそれぞれ渦を巻いている。
聞かん気な内面が表情や仕草に出まくっている銀灰色の少女を、クラウディアは一応知っていた。
『斫断の英雄』パルフェンディが、そこにいた。
今日で連載三年目となります……!
もうすぐ最終章入るかなという感じですが、最後まで読んでやるかぁと思われた方は
引き続き応援していただけれるとモチベーション高まります……!
本日複数更新です




