表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
天網が如き慧眼、故に並び立つ者は無く
286/301

276◇悠久を越え再び開かれるは終末への道

 



「やっぱり賢いなぁ。『黒』持ちは生き伸びる術を見つけ出すのが上手い」

「ふざけんな、アルマ……テメェが乗せられたんだろうが」

 感心するようなアルマに、怒りを隠さないマイ。

「いやいや、それも込みでの話さ。まぁ、付け入る隙を晒したのは僕の失態だな。済まない」

「追えよ……ッ!」

「いや、追いつけないよ。『空間』だ。大分あの御方に気に入られているらしい」

「クソッ! じゃあオレに消えろってかッッ!!」

 悪魔は宿主と契約することによって顕現を維持する。人間の肉体を介することで、悪魔という存在を形象化するのだ。単体では『存在』出来ない。

 悪魔は死なない。生き物ではないから。

 悪魔は滅びない。形あるモノではないから。

 だが、悪魔は消える。人を渡り続けることが出来なければ、幾つもの人間の『魂』に取り憑いたことによって得た人格が途絶える。

 マイが司る悪も魔も滅びない。天成罪形(セフィリム)は特別だ。だが、今のマイを構成する記憶や人格は失われる。次のマイは、目の前のマイと同質だが同一ではない。

 人間を器とする弊害か、悪魔も自己の消失への忌避感がある。

「……これ、あげる」

 ベルが死にかけの少年を引きずってきた。

 『耀』の遣い手だ。

「マイが、使って。私に合った器じゃないし……」

「……いいのかよ、ベル。テメェも限界が近いだろうが」

「貴方ほどじゃない。早くしないと、死んじゃうよ」

 マイの身体は上半身が不完全な形で残っているだけ。ベルはまだ両手足が残っている。

「……テメェの器はオレが絶対に見つけてやるよ」

「そう」

 ベルがマイの傍らに『耀』の遣い手を置いた。

「……生憎と、望みなんてないデスから」

 今にも息絶えそうな少年が、勝ち誇ったように笑っている。

「オレと相性の悪い人間なんていねぇ。誰もが分不相応な願いを抱くもんだからな」

 マイが少年の首を掴む。

「確かに死の覚悟を決めてるみてぇだな。だがテメェは奴を逃した。希望を、望みを託した。その必要はねぇよ。テメェ自身で叶えりゃいい。『仲間達が笑って暮らせる世界』ね。その為なら何人殺してもいいってか! 誰に苦しみを強いてもいいわけか。欲深い奴だ、気に入ったぜ!」

 他者を害することさえ良しとする望み、欲。

 アークレアではそれを以って――強欲という。

 彼が司る、罪の名だ。

 マイの身体が震え、灰となって消える。

 代わりに、『耀』の遣い手がマイとなった。

「喋り方は気に入らないデスけど」

 悪魔の口調は器に大きく影響される。無視も出来るが、どうにも気持ち悪いのだ。だから基本的に、宿主に合わせたものになる。

「でもマイマイってあだ名の似合う感じになったよ。それともアヴィくんの方がいいかな?」

「どっちもイヤデス」

 マリアに『治癒』を施されたマイが立ち上がる。

「じゃあ、ボクはベルの器を探しマス。アルマはだんちょを追って下さい」

「グレグリさんだね」

「……結局彼の名前はグレグリでいいのかな?」

「ぐれあぐりっふぇん、だって」

 グレアグリッフェン。

「グレア……でいいか、長いものな」

「でも変だな。グレグリさんが逃げた方向、帝都の方っていうより……」

「あの御方の許へ参じる方が先ではないのかな?」

「うぅん、なんか特別な閉じ込め方をしてるみたい。知ってるのグレグリさんだけっぽいんだよねぇ。いや……多分陛下もご存知なのかな」

「皇帝?」

「うん」

「それは帝都にいるんだろう」

「うん」

「ならそちらに向かう方が確実だ。グレアが忠義に厚い男なら、放っておいても向こうからやってくるさ」

「グレグリさんは来ると思うよ。ただどこに行ったかが気になるかな」

「生き延びる術を探しているんだろう」

「『黒』らしく?」

「そう、『黒』持ちらしくね。マイが彼を欲しがる気持ちは分かるけど、まずはあの御方だ。皇帝を押さえよう」

「……デスね」

「他のみんなはどうしてるかなぁ」

「それぞれが己に合った器を探しているんじゃないか」

「マリアさん、その子のことベルにあげたらどうデス?」

 イオのことだろう。

 まだ猶予はあるが、ベルの身体も長くは保つまい。

「え~、イオちゃんを使い捨てにするなんて絶対ダメだよ」

 幼子がぬいぐるみにでもするように、マリアがイオに抱きつく。

「次の器までの繋ぎにはなるでしょう」

「だから、それがイヤなのッ!」

「……平気。それに洗脳済みは避けたい」

「『精神』が壊れているものな、僕でも入るのは躊躇うよ」 

 悪魔はどうしても器となった人間の精神に強く影響を受ける。廃人同然の人間と無理に契約するのは好ましくない。

「イオちゃんは壊れてないよ! ちょっと調整しただけだもんっ!」

 頬を膨らませるマリアに反応する者は無し。

「我が子との再会は後にとっておくとして。まずは我らが神を解き放たねばね」

「ボクとベルは、後から行きマス」

「あぁ。マリアはついてきてくれるかな」

七征(アクシオン)がいる方が何かと楽だもんね。陛下との謁見も許される立場だし」

「……道中、知識の共有も頼んだ方がよさそうだね」

 七征(アクシオン)なる語も初めて聞いた。千年で起きた変化も知りたい。

「あ、そっか。そうだね」

 アルマ以外の十体の悪魔は、各々強力な聖者の身体を乗っ取ることだろう。

 『耀の英雄』と『黄の英雄』は手に入れた。

 残り八人、世界を護る為の英雄は悪魔となる。

 そして人類が悪神と呼ぶ神と自分達によって、今度こそこの世界は一度終わりを迎えるのだ。

 ――叶うなら、今度は我が子と敵対したくはないのだけど。


 この時のアルマには知る由もないが、彼の願いはある意味で叶い、ある意味で叶わない。

 

「よし、僕らの(せいぎ)で世界を滅ぼす(すくう)としようか」


 黒野幸助は、エルマーがついぞ殺すことも救うことも出来なかった悪魔の存在を、まだ知らない。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇書籍版(GCノベルズより1~4巻)
◇書籍版特設サイト◇
i433752

◇ライドコミックスより1~4巻◇
◇コミックライド作品ページ◇
i601647

↓他連載作です。よろしければどうぞ↓ ◇朝のこない世界で兄妹が最強と太陽奪還を目指す話(オーバーラップ文庫にて書籍化予定)◇
たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても
i594161


◇勇者パーティを追い出された黒魔導士が魔王軍に入る話(GAノベルにて書籍化&コミカライズ)◇
難攻不落の魔王城へようこそ


共に連載中
応援していただけると嬉しいです……!
cont_access.php?citi_cont_id=491057629&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ