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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
天網が如き慧眼、故に並び立つ者は無く
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272◇人なるモノの悪

 



 この男が悪神の配下ならば、封印したのは善神ということ。

「でも驚いたな。僕達を介さず人の子を配下に置かれるとは、さすがはあの方だ。神殿の管理権限でも奪ったんだろうか」

「何を言っているの、わたし達は悪神の配下なんかじゃない」

 マリアはその能力を買われ、皇妃が悪神に蝕まれるまでの限界を引き伸ばしている。アークスバオナの英雄の中でも数少ない、真実を知る者。

「素直だね。確かに君からは聖なる匂いがする。あの方が見出した召喚者ではないらしい。嘘を吐けない点には好感が持てるけど、失言だ。まぁ想像出来たことだけれどね。その為の僕達だ」

 悪魔とやらは、実体がないのか。目の前の男は人間だが、悪魔でもあるという。

 天使が神域の攻略の成否に加護や呪いを付与出来ることを思えば、悪魔なる存在も人の魂に干渉する術があってもおかしくない。

 その場合、必要なものは……悪魔ということを考えれば、『契約』か。

 男はグレア、シリウス、マリア、イオを見回す。

「『黒』と……それは『黄』なのかな、初めて見るね。色つきが二人とは中々いい。『耀』の君もいいね。ローライト程ではないが。そこの小さな君は見どころがないね。現地人かい?」

 ――ローライト。神話時代に活躍した『耀の英雄』ローライトか……!

 口ぶりからするに、直接知っているようだ。千年前の人間を?

 うぅむ、と男は顎に手を当てる。

「あの御方が描こうとしている図を崩したくはない。だが障害となりうる存在を無視するわけにもいかないしな。僕はこの体を捨てるつもりはないし。どうかな、皆の方は(、、、、)

 男は先程、僕達といった。

 つまりそう、広大な大地ごと封印せざるを得なかった存在は、奴一体ではないのだ。

 襤褸を纏った人影が、気づけば三つ増えていた。

「アルマ、お前随分とその宿主を気に入ってるよな。大した器でもないだろうに。自分のガキも満足に守れなかったような男だぞ。確か二人だっけ?」

「本人がいいってんなら放っときゃいいだろ。それよりどうやって決める。俺はやっぱり『黒』持ちだな。一番強ぇのを貰う」

「私は余り物でいい……もうずっと朽ちかけの体だし、五体満足ならなんでも……取り合いなんて馬鹿らしいし、もう喋るのも疲れるし」

 最初の男は、アルマというらしい。人間としてのものか、悪魔の名前か。

「済まないね、話を聞くよりもこれが手っ取り早い」

 話の流れからするに、悪魔は宿主を変えられる。そしてグレア達を標的としている。

 人間としての記憶は残るのだろう。確かにグレアと話をするよりも、その方が無駄がない。

 体ごと乗っ取った方が早い。

「あぁでも、最後にしっかりと教えておこうか。僕らは人間であり、悪魔だ。人格を侵さずして人の身に宿り、願いの成就が為に力を貸す。願いが叶ったら、身体と魂を貰う。簡単だろう?」

「もういいか? ベルじゃないが、身体が限界なんだ」

「そうだぜアルマ。てめぇが見つけた獲物だからこっちは待ってやってんだ」

「……疲れた。ねむい……」

「あともう少し。始めたからにはちゃんとやらないと気持ち悪いからね。かつて同胞の大半は聖者共に狩り尽くされた。彼らの力が弱かったからだ。では何故僕達だけが、広大な大地ごと封印されたのだと思う?」

 大陸で閉じた世界・アークレア。大陸の外に広がる海の向こうには霧が立ち込め、その先に行った者は誰一人として帰ってこなかった。これ以上広がらない世界。

 大地が限られている中で、それでも国ごとそれを封じるを得なかったのか。

「滅し切れなかったのさ。スノーダストもハートドラックもクローズヴォートニルもジョイドもローライトもね。顕現されたあの御方の右腕を喰らった、彼のエルマーでさえ。僕ら十一体の悪魔を滅ぼすことだけは出来なかった。何故なら僕らは――不滅だから」

「……不滅、だと」

 神に深く愛された者に与えられるのが、概念を操る色彩属性だとすれば。

 悪神の手先である悪魔にもまた、概念を操る能力が与えられていてもおかしくないのか。

「多分、君が思っているのとは違うけどね。僕らは悪なる魔のモノではない。悪が魔として人格を得たモノだ。分かるかな? 悪という概念そのものが消えない限り、悪魔は完全には滅びない。だが、悪の根源は人だ。何年経っても、人は善悪という妄想を捨てられない。傲慢にも自らの中にそれを持ち、理解した気になっている。本当に理解出来るなら、己の罪深さが恥ずかしくて生きていけないだろうにね」

「罪深い存在に寄生せねば顕現も出来ぬ貴様らは、何が誇らしくて生きている」

「別に何も? 悪魔に人と同じ価値観を期待しないでくれよ。僕らはただ、あの御方に仕えるだけさ。……うん、そろそろいいかな。あぁいや、あと一つあったな」

 そして、男は言う。

「僕ら十一体は他の悪魔と区別してこう呼ばれていた――天成罪形(セフィリム)と」

 手を叩き、男は仲間へ振り向く。

「待たせてすまない。後はどうぞ、ご自由に」

 男が下がり、代わりに三人が進み出る。

 アルマと呼ばれていた男と、他の悪魔達が同格だというのなら。

 逃げるわけにはいかない。

 そして、最悪でもグレアとマリアは生き延びなければならない。

 奴らは悪神の手先。その復活を望んでいるのだろう。

 だとすれば、アークスバオナが危険だ。グレアに宿る悪神の力を感じ取ることが出来ていたように、悪神の封じられた場所も特定出来るなら、この者達はいずれ帝都に向かう。

 隔離された魔術的空間ではあるが、グレアとマリアはそこへ入る為の手順を知っている。

 悪魔共の口ぶりからするに、他者に乗り移るのは半ば強制的に可能のようだ。だが何かしらの条件があるのだろう。そうでなければ既に身体を奪われている。

 自分とマリアの肉体が奪われることは避けなければならない。だが逃げたところで何も解決しない。

 この場で無力化するしかない。

 最低でも四体。アルマの言っている通りなら、最高で十一体の悪魔を。

「さて……『黒』はマイに譲るとして、じゃあおれは『黄』にしようかな。ベルは残り物でいいって言ってたけど、『耀』でいいか?」

「……ん」

 最も大柄な者がグレア、終始気怠げな者がシリウス、最後の一人がマリアに近づく。

「……人をお菓子か何かみたいに分け合ったりして、あなたたち失礼だよ」

 マリアに睨まれた悪魔は、わざとらしく畏まってみせる。

「それはそれはご無礼を。ところでお嬢さん、願いはあるかな。おれと契約してくれたら、お嬢さんの望みを叶えてやれるんだけど」

「必要ないよ。願いは叶えてもらうものではないから」

「叶えるものだって? 強い子だな、気に入った。この器よりよっぽど人間的に面白い」

「わたしはあなたが嫌い」

「それは可哀想に。でも大丈夫、すぐに慣れるよ」

「マリア様に触んなッ!」

 主に手を伸ばした悪魔の腕を、イオが叩き落とす。

 枯れ枝のように、腕がパキッと折れた。ぽとりと、肘から先が落ちる。

 だが悪魔に気にした様子はない。

「お嬢さんはマリアって言うんだね。美しい名前だ。中に入ったら、その名前を使うことにするよ。実は自分の名前があまり好きじゃなくてね」

「させるわけねぇだろ」

「気持ちを声に出すことで、心を奮い起こしたり出来るよな。分かるよ。だけど、きみ召喚者でさえないだろ。己の分を弁えて生きろよ」

「知ったことか」

「……傲慢だな」




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◇ライドコミックスより1~4巻◇
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