表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
天網が如き慧眼、故に並び立つ者は無く
281/301

271◇悪なる魔のモノ 

 



「……だんちょ」

 シリウスが気遣うようにグレアを見ている。失敗なのだから発動を解けと目が語っていた。

「マリア」

「はい」

「終わりだ」

「は、いっ」

 ほぼ同時に、二人は魔法を解いた。

 途端、脳を手で捏ねられるような痛みがグレアを襲った。慣れているとは言わないが、精神汚染はある段階まで対処が可能。己の芯となる想いを強く意識出来れば、記憶の断絶は回避出来る。

 過去生での過ち、失った妻子、転生後に忠誠を誓ったリオンセル、そして仲間達。

 何をしてでも、自分が大事に思う者達の未来を勝ち取るのだ。

「ど、どうなったの、かな」

 脂汗を浮かべたマリアが、苦しそうに尋ねる。その体は僅かにではあるが、先程より大きくなっているように思えた。おそらく錯覚ではないのだろう。

「……失敗だ」

「そんなぁ……」

 がっくし、と肩を落とすマリア。

「陛下に報告しないとデスね。気が重いデスケド」

 半ば予想通りだからか、シリウスに落胆した様子はない。

「それは貴様に任せる」

「? 次の任務でも入ってます?」

「あぁ、リーパーに合流し、エルソドシャラルを叩く」

 リリス・リパル=リーパー。『紺藍の英雄』。

「停戦に合意したって話でしたケド」

「終戦ではない」

「ナルホド。りょうかいデス」

 二人の会話が行われている近くで、イオの沈んだ声が。

「この組み合わせでも解放出来ないとなると、ファカルネってのは一体な……ん」

「え……」

 マリアが呆然と声を漏らした。

「だんちょ」

「これは――」

 罅、だった。

 透明な空間に亀裂が走っている。何故そう認識出来るのか。目の前には、平原が広がっていた。その景色が、歪んで見えるのだ。

「成功……した?」

 マリアの言葉に、グレアは否定を返そうとする。『併呑』は出来なかった。だがタイミングが良すぎる。


「失礼。少し尋ねたいことがあるんだが、いいかな」


 四人以外の何者かの声。落ち着いた男の声。

 それは、罅の向こうから聞こえてきた。

 その時にはもう、シリウスの『耀』が罅に向かって殺到していた。幾条もの光線が刹那を駆け抜け、対象を灼き貫く。

「判断が早い。戦士、騎士、軍人。そういった類の人間だね。迷いがなくて中々いい。ただ、僕は過去の過ちから一つ学んでいてね。次こそは徹底すると決めていることがあるんだ。それは――」

「ぅ、あっ……?」

「『やられたら、やり返す』ということ。僕がやるべきだった。そうすれば、息子まで失わずに済んだかもしれないのだから。なんて、君達に言ったところで伝わらないだろうけど」

 頭から襤褸を被った、正体不明の、おそらく男。腕も足も二本ずつ。頭もある。人型の生命体。

 その男の右腕が、シリウスの胸を貫いていた。握っているのは、心臓か。

 有り得ない。最年少で七聖(アクシオン)に認定されたシリウスが後れをとるなど。不意を打たれたわけではない。彼は状況に対応出来ていた。それでも遅すぎたというなら、敵は一体――。 

 シリウスの攻撃を受けたのか回避したのかさえ見えなかった。とにかく無傷。

「これで死なないか。だとするとあれかい? 聖なる神の加護を受けたとかいう……聖者、と言ったかな。その割には清浄な気配を感じな……あれ、君達――おっと」

 男がシリウスから離れる。

 グレアが『黒』を纏わせた剣で斬り掛かったのだ。

「マリア!」

「はいッ!」

 シリウスは意識を失っていないが、治癒魔法を組む余力があるか。マリアの助けがあれば死を回避出来る筈だ。いや、出来る。倒れたシリウスにマリアが駆け寄り、二人を守るようにイオが前に立った。

「……分かってはいたつもりだけど、これは期待薄だな。一体あれからどれだけ経っているのか」

 落ち込んだような声の、直後。

 死神の鎌がグレアの首を掠めた。

 【黒纏】を発動していなければ、確実に喉を裂かれていただろう。

 男はいつ作り出したのかも分からない剣を、用は済んだとばかりに放り捨てる。

「言ったろう。『やられたら、やり返す』だ。にしても、見間違いではないようだね。『黒』か。それに、君達、特に君からはあの御方の気配が強く感じられる」

 色彩属性を知っている。有資格者を聖者と呼ぶのは主にアークレア神教の教徒だが、それは神話英雄に対して用いられるもので、それ以降は主に修道騎士と呼ばれる。

 この男の場合、単に知っている語を口にしただけのようだった。

 あれから、というのはいつの時代を指すのか。伝承の一つは真実だったのか。

 あの御方というのは、もしや――。

「貴様は何者だ」

「あぁ、いいね。話し合い、文明的だ。情報交換といこうか」

「答えろ」

「下手には出ない、か。うん、まぁいいかな。友人を殺されかけた怒りもあるだろうし、ここは僕が折れよう。それによく考えてみれば、此処を出れたのは君のおかげだろうし」

「……なんだと」

「あの御方の祝福(のろい)を受けたんだろう? 単なる『黒』の遣い手ではなくなっている」

 何も『併呑』出来なかった、それは事実。

 だが『黒』とは別のところで、悪神に渡された力が働いたというのか。

 確かに前回の敗北の後、グレアは悪神に更なる力を望み、与えられた。

 あの御方というのは――悪神か。

「僕が何者か、だったね。知らないということは、あの件は後世には伝わっていないのか。まぁややこしくなるものな。なんて言えばいいか。そうだ、こうしよう。今から言う存在の中で、知らないものがあったら言ってくれ。神、悪神、天使、聖者、亜人、獣人、魔人、魔獣。どうだい」

 知らない存在はない。

「足りないものがある。それが僕達だ」

「……あく、ま」

 治ったのか、上体を起こしたシリウスが呟いた。

「そう。悪魔(、、)だ。神に仕え人を試す天使、悪神に仕え人を誑す悪魔。でもそうか、その反応からするに歴史から省かれてしまっているか。そうだよな、人魔大戦だものな。あの御方に与する人間の存在は不都合というわけだ」

 確かに、アークレアに悪魔という存在はいない。

 いたが、後世に伝えられなかったのか。

 歴史に抹消された存在が、世に放たれた。

 おそらく、グレアの所為で。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇書籍版(GCノベルズより1~4巻)
◇書籍版特設サイト◇
i433752

◇ライドコミックスより1~4巻◇
◇コミックライド作品ページ◇
i601647

↓他連載作です。よろしければどうぞ↓ ◇朝のこない世界で兄妹が最強と太陽奪還を目指す話(オーバーラップ文庫にて書籍化予定)◇
たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても
i594161


◇勇者パーティを追い出された黒魔導士が魔王軍に入る話(GAノベルにて書籍化&コミカライズ)◇
難攻不落の魔王城へようこそ


共に連載中
応援していただけると嬉しいです……!
cont_access.php?citi_cont_id=491057629&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ