表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
246/301

236◇枯れ続ける大地

 



 色彩属性『翠』が司るのは『生命』。生物が生きていく為の源に干渉出来る能力だ。

 例えば、人間一人の生命力を根こそぎ奪って、枯れかけた花壇を復活させることも出来る。

 生命力の再分配を可能とする魔力属性。

 レイドレッド=レインズことレイドは、畑にいた。

 モノクルを掛けて、常に胡散臭い笑みを浮かべる軍服姿の青年が立つには、まぁ不似合いと言える場所だろう。自覚はある。

 レイドがかつて存在を隠されていた理由は旅団メンバーだからであるが、暗殺者だったからでもある。

 皇帝に害する者や、超難度の悪領に住まう魔物達から搾り取った生命力を、アークスバオナの枯れた土地に注ぐのが主な役割だったのだ。

 有効な生命力の再利用と言えるだろう。

 最も重要な、人の生きていける大地の保持。

 だが、それも長続きはしなかった。

 効果が無かったわけではない。ただあまりに、成果が小さかったのだ。

 そして、彼だからこそそれに気付くことが出来た。

 アークスバオナの領土は枯れているのではなく、生命力を奪われている状態なのだと。

 注いだ先から、まるで他の存在が『生命』を発動しているように、どこかへ生命力が消えていく。

 その原因を取り除かない限り、アークスバオナが緑に恵まれることはない。

 そして、大国の大地全体に生命力を吸収する根を張れる存在など、神をおいて他にない。

 いくら英雄と言えど、問題の根源が神となれば対応は困難だ。

 このことを団長であるグレアに報告した後、彼が『暗の英雄』となったことをレイドは知っている。

 それと前後して、第一后妃が姿を消したことも。

 グレアと皇帝は、悪神に手を出したのだ。

 レイドはだが、それを口にしない。

 団長が言わないということは、知らなくていいということ。

 その判断を尊重する。

「よしっ……と。こんなもんかな」

 屈んでいた姿勢から立ち上がる。

 手についた土を払い、周囲を見渡す。

 作物が、実っていた。レイドの力で生命力を周囲一帯に注いだのだ。

 これで一時的に収穫量が上がる。

「こりゃあすげぇ。さすが英雄サンですなぁ」

 畑の(あるじ)である老年の男性がやってきて、感嘆の声を上げる。

「あはは。あなたがたの方が余程すごいですよ。手間暇かけて、大切に育ててくれている。国を支えているのは兵士ではなく、農家の人だと僕は思うけどね」

「よしてください。英雄サンにそんなこと言われちゃあ、照れちまいやす」

「本心だよ」

「嬉しいねぇ」

 男性の影から、ひょこっと顔を覗かせる者がいた。

 童女だ。

「あぁ、すいやせん。孫なんですが、人見知りで」

「ううん、いいんだ」

 レイドは彼女の視線に合わせるように屈み込む。

「こんにちわ」

「……ぅん」

「いい畑だね」

 そう言うと、幼女はこくこくと頷いた。

「うんっ。だから……英雄サン? ……ありがとう」

「どういたしまして」

「すてきなまほう」

「本当? それは嬉しいな」

 レイドは軍服のポケットに手を入れ、握った状態で取り出す。

「嬉しいから、お礼をしよう」

 手を開く。

 そこには一輪の花があった。

「ふわぁっ。え、え、どうして? どういう魔法なの?」

 単純だ。レイドは女性を口説く用に花の種をポケットに入れている。

 そうすれば、取り出す時は種で、広げた時には花。案外ウケがいいのだ。

 もちろん今回は童女へのお礼であって、口説いているわけではない。

「優しい人に笑ってもらう為の魔法だよ。そして、きみは優しい」

 童女は心から湧き出た喜びを形にするように、満面の笑みを浮かべる。

「ありがとう、魔法使いさん」

 英雄サンよりも、響きがいい。気に入った。

「魔法ってのは、本当にすげぇんですねぇ」

「だね。一刻も早くこの国を救えるよう、頑張るよ」

「魔法使いさんなら、できるよっ!」

「ありがとう」

 レイドはしばらく二人と話してから、迎えの馬車が来たので乗り込んだ。

 籠タイプの馬車には先客がいた。

 自分だった(、、、、、)

 だがレイドは驚かない。

「……メタ(、、)、仕事が終わったなら元に戻っておくれよ」

 すると、レイドの目の前に座るレイドの顔が、歪む。

 出てきたのは、アークスバオナの軍服に身を包んだ女性。

 とは言っても、漆黒のフェイスマスク姿で顔は見えない。

 白いシミが目と口のあたりにあり、それは人が笑っているようにも見えた。

 『透徹の英雄』メタだ。

 『翠』のレイド、『蒼』のサファイア、『紅』のローグに続く最後の『隠色(ヴォイド)』。

 旅団の副団長のようなもので、つまりそう――色彩属性保持者だ。

「おつかれ。僕になった気分はどうだった?」

 こくりと頷かれる。

 彼女は自分の姿である時は、喋らないのだった。

 それを承知でレイドは続ける。

「きみはこの後インヴァウス将軍に協力するんだって?」

 こくりと頷くメタに、忠告する。

「あの女が信用できないのは当然として、クロノには気をつけてくれよ。僕はこれ以上、仲間を失いたくない。それはきみに死んでほしくないってことだよ。伝わるかな」

 メタは、しばらく反応をしなかった。

 彼女は人の善意とか好意とか、そういったものに疎いようだ。

 仲間の心配さえ、まだ慣れていない節がある。

「ちなみにこれは口説いているわけじゃないよ?」

 冗談めかして言うと、それに関してはこくりと頷かれてしまう。

「でも、本気だ。帰ってきてほしい。頼めるかい?」

 ややあって、躊躇いがちではあるものの、今度は頷いてくれた。

 そのことにレイドは少し安心する。

「…………勝てるといいよね」

 レイドだけは気づいていた。

 悪神はアークスバオナの大地を蝕んでいる。

 そして、その勢いは年々増してきているのだ。

 このままでは、そう遠くない内にアークスバオナは花の一輪も咲かない枯れ地となってしまう。

 時間が無いのだ。

 団長や皇帝が何も考えていない筈がない。

 だからきっと、これが必要なことなのだろう。

 大陸の統一や、異界への侵攻はこの地の民を救うことに繋がる筈なのだ。

 そう信じて、レイドは戦っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇書籍版(GCノベルズより1~4巻)
◇書籍版特設サイト◇
i433752

◇ライドコミックスより1~4巻◇
◇コミックライド作品ページ◇
i601647

↓他連載作です。よろしければどうぞ↓ ◇朝のこない世界で兄妹が最強と太陽奪還を目指す話(オーバーラップ文庫にて書籍化予定)◇
たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても
i594161


◇勇者パーティを追い出された黒魔導士が魔王軍に入る話(GAノベルにて書籍化&コミカライズ)◇
難攻不落の魔王城へようこそ


共に連載中
応援していただけると嬉しいです……!
cont_access.php?citi_cont_id=491057629&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ