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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
昏天黒地、清福にて祓う
23/301

23◇英雄、帰還ス

 



 ソグルスの魔法具は、バングルだった。

 『ソグルス・ドゥエ・ヌメオラルートの腕輪』。

 ・【魔法】に

 【我が瞳に燃えろ[クラレス・フィルノ]】

 【我が掌に燃えろ[クラハロ・フィルノ]】

 【我が息吹に燃えろ[クラブレガス・フィルノ]】

 【爆裂せよと命ずる[ヴォルガルト・ウォン]】

 【秘めたる声を聴け[シークス・リークスレス]】

 【道を拓けと命ずる[ロドスフィレンカ・ウォン]】

 【到達し、爆裂せよ[リィ・ヴォルガルト]】

 【灼熱の洗礼を受けよ[スクルトア・ヴァ・サン]】

 【焔槍にて火葬を執り行う[ギルク・ドボルゼア・ロ・ファオ]】

 を、追加。

 ・後天スキルⅢに

 『ソグルス・ドゥエ・ヌメオラルートの抗体』自然属性無効――全ステータス極大低下。

 事象属性耐性極大――事象属性発動不可(【秘めたる声を聴け[シークス・リークスレス]】を除く)

 『ソグルス・ドゥエ・ヌメオラルートの傀儡操術』屍の傀儡化――傀儡の活動エネルギー負担。

 『ソグルス・ドゥエ・ヌメオラルートの自食』――生命力を魔力に、魔力を生命力に変換可能になる。変換レートは、双方永久に1=1。

 と、今回は補正に対してマイナス効果も伴う、という魔法具だった。

 しかし妙なことに、捕食によって得たスキルには、マイナス表記が無い。

 つまり、幸助はリスク無しに、自然属性無効を手に入れてしまった。

 傀儡操術の、活動エネルギー負担はマイナス表記扱いではないらしく、残っているが。

 だが、強くなったと素直に喜べない。

 『黒』の発動は控えた方がいいだろうし、『セミサイコパス』の突発的発動も恐ろしい。

 特に後者は、おそらく純粋な殺意を抱いて、実行に移そうとした時に発動してしまう。

 怒りで魔物に対峙すること自体を、自制しなければならない。

 感情を律する。

 出来る筈だ。出来ない筈はない。

 だが、難しい。

 行きよりも時間を掛けて、ゼストを抜けた。

 統括隊長・レイスは笑顔で二人を出迎えてくれた。

 他の兵士達からも、尊敬の眼差しを向けられる。

 ハナの生首にギョッとする者も多かったが、説明すると涙する者が続出した。

 アークレア、基本的に善人ばかりの国なのかもしれない。

 それだけ、豊かということだろう。

 心にゆとりが、生まれるくらい。

 レイスに、攻略を祝して歓楽街に行かないかと誘われた。

 娼館、元いた世界で言うところの風俗店。

 要するに、金を払って女とエロイことをする店が沢山立ち並ぶエリアだ。

 興味が無いと言えば嘘になるが、先約があるので謹んで辞退した。

「また誘ってくれ」

 と、社交辞令で言うと、敬礼が返ってきた。

 ちょっと返すのが嫌なので、苦笑だけ浮かべて帰路につく。

 既に日が落ちかけていたので、判断屋へ向かうのは明日にすることにした。

 しかし、ハナの頭部を持ち歩くわけにもいかないので、墓場へは寄った。

 アークレアにも、埋葬の概念はあるらしい。

 この世界の神が、アークレアから見た異界、つまり幸助や他の来訪者が元いた世界を創ったというのなら、人類が同じような道を辿っても不思議ではない。

 魔法と科学、という生活基盤の差はあれど。

 日本人としては、火葬が真っ先に思い浮かんだが、ダルトラでは土葬が一般的だという。

 科学は息をしていないのに、宗教は根付いている。

 アークレア神話を正史であると信奉する宗教で、宗徒全員がそう考えているわけではないだろうが、相当数の臣民が信仰しているのだと。

 まぁ、幸助の元いた世界にも、親が仏教徒だからとかキリスト教徒だからと、引き摺られた者達がいた。

 この世界でも、そういう“流れによる継承”があるのだろう。

 アークレア神話とは、神と英雄の出てくる話だ。

 英雄は、過去の来訪者であると言われている。

 つまり、アークレア宗徒にとって、来訪者は現代の英雄である。

 するとどうなるか。

 普通の人間と、墓地の区画が変わる。

 身元不明人であるというのに、来訪者墓地が作られるという高待遇だ。

 死者に待遇も何もあったものではないだろうが、残された者には意味のあることだ。

 自分の知己が、適切に、大切に埋葬されて、不愉快になる者はおるまい。

 王都の外。

 小高い丘の上に、それはあった。

 墓地の運営は教会が担っているが、実際に埋葬作業を行うのは委託業者だ。

 だから、墓を掘り返して、空っぽの棺に頭部を入れることは、出来ないとタイガは言った。

 明日以降でないと、とのことだ。

 幸助はそんな必要は無いと笑い、適当に『地』魔法を組み上げ、発動。

 土が退く。

 『風』魔法で棺を引き上げる。

「今まで、オレは墓参りに来なかった。三人は此処にいないと、知っていたからだ」

「これからは、来放題だな。全員、きっと此処に寄るだろうし」

 絵面は恐ろしかったが、一度生首を全て出す。

 クルスとミオのものをタイガが見つけ、ハナにしたのと同じ手順で棺に入れる。

 それから三十分程、タイガは祈りを捧げた。

 幸助は、それを見ていた。

「……待たせた。行こう、エコナという名の童女の、料理が冷める」

「どうでもいいけど、エコナという名の童女、って長いだろ。普通にエコナって呼べよ。嫌がりはしないさ」

「…………オレは、子供に好かれた試しがない」

 幸助は爆笑した。

「あはは! 顔だ、顔怖いからだ」

「……自覚はしている」

「ちょ……お前、不意打ち過ぎるぞ……くっ、くくっ、確かに、言われてみれば子供に泣かれそうな顔……ふっ、してる……あははは……!」

 腹を抱えて笑う幸助を見て、さすがにタイガも顔を顰める。

「そこまで、面白いか」

「だって……ふひっ」

「声が裏返る程か」

「待てっ、ちょっと黙ってくれ……ふふっ……ツボに入った……」

 それから五分程、幸助は笑い続けた。

 タイガは困ったような顔をしながらも、機嫌を悪くはしなかった。

 二人して、街へ戻る。

 生命の雫亭の、戸を開く。

 待っていたのは、歓声だった。

 客――来訪者達が、何事か叫んでいる。

 ともかく、空気は明るい。

「クロ!」

 と、シロが抱きついてきた。

 巨乳が押し付けられ、彼女の匂いが吸い込む空気に混じる。

「ごめん、クロ!」

「え、何が」

「あたし、神話の魔法に詳しくなくて、でも、今日、聞いたの。『白の英雄』は記憶を失い、『黒の英雄』は己を失うって。ねぇ、大丈夫だった!? クロはクロだよね?」

「あー………………クロだよ。お前がそう名乗れって言った時から、俺はクロだ」

 迷宮内でのことを話すにしても、後が良いだろう。

 それより、目に涙を溜めたシロが、可愛すぎるのが問題だった。

「なぁシロ、キスしていいか」

「へ?」

 返事を待たず、幸助はシロの唇に自分のそれを重ねた。

 押し付け、吸う。

「んっぅ~~~」

 彼女の顔が真っ赤になる。

 十秒くらい堪能してから、口を離す。

「な、な、な、な――」

 ――【状態】が『精神汚染1.998』となりました。

 と、そこで厨房からエコナが現れる。

 トレイの上に、肉料理を載せていた。

「エコナ!」

 叫び、近づく。

 彼女はビクッと震えた後、それが幸助だとわかると、慌ててトレイを近くのテーブルに起き、制服と髪型を整えてから、小走りで駆け寄ってくる。

「ご主人様! おかえりなさいませ、ぇえっ!?」

「あぁ、ただいま! 早くお前の料理が食いたいよ!」

 幸助は彼女の両脇に腕を入れて、持ち上げた。

 そのまま、その場でくるくる回る。

「ご、ご主人様、さま? ……あの、は、恥ずかしい……です」

 幸助はエコナを降ろしてから、抱きしめる。

 やはり、彼女は甘い匂いがした。

 ――【状態】が『精神汚染0.665』となりました。

「おいタイガ! 幸福って、結構簡単なもんだな!」

 タイガは意味を悟ったのだろう、首の裏を撫で、嘆息する。

「違う。お前が獲得したのだ。安易ではない道のりと選択の末に」

「かもな!」

 幸助は、アークレアに来てから、体感的には少しずつ、経過時間的には急速に、変化していた。

 それはしかし、どちらかというと、元に戻った、という方が正しい。

 妹の仇を討つために、それ以前の己を殺していた幸助。

 そこで終わる筈だったのに、終わらなかった人生。

 そして、彼は、失った筈の少年らしさを取り戻していたのだ。

 人との、交流を通して。

 魔物との、戦いを通して。

「キャラ、大分変わってない……?」

 シロが、キスされた衝撃も忘れて、苦笑している。

「ご主人様、少し、苦しい、ですっ」

 喘ぐように、エコナが艶っぽい声を出す。

 幸助は、くだらない虚飾を剥いで喋る。

「シロ、エコナ。お前たちが、俺の幸福みたいだ」

 二人は一瞬固まり、同時に赤面した。

 周囲の客が、囃し立てる。

「よう皆! 今日は俺とタイガの奢りだ! 好きなもんを飲み食いしろ!」

 小樽ジョッキを持った奴らが、大声と共にそれを持ち上げる。

「俺とタイガでソグルスをぶっ殺してきた! 話を聞きたい奴は――耳かっぽじっとけ!」


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◇書籍版(GCノベルズより1~4巻)
◇書籍版特設サイト◇
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◇ライドコミックスより1~4巻◇
◇コミックライド作品ページ◇
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↓他連載作です。よろしければどうぞ↓ ◇朝のこない世界で兄妹が最強と太陽奪還を目指す話(オーバーラップ文庫にて書籍化予定)◇
たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても
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◇勇者パーティを追い出された黒魔導士が魔王軍に入る話(GAノベルにて書籍化&コミカライズ)◇
難攻不落の魔王城へようこそ


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