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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
【第四部・群雄一拠篇】十と五振りの劔、極東にて
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192◇春夏秋冬、一巡り

 



「エルマー様の……最期」

 カグヤから表情が消える。発せられる声も今にも消え入りそうな程か細い。

 幸助のグラスに映像は記録されている。

 相手がグラスを持っていて、通信圏内であれば送信出来るのだが……ヘケロメタンには配備されていない。そもそも彼らはグラスすら装着していないようだ。

 ただ、トウマとシュカ、そしてカグヤのステータスは見えない。グラスで言うところの非表示設定とは別に、ステータスの閲覧を阻害する技術があるのだろう。

 此処に来る際に見かけた門兵などはステータスを見ることが出来た。一部の人間にだけ、その技術は使われていると見るべきか。

 当然、その程度のことは考えている。

 幸助は『黒』からとある装置を取り出した。

 球体の魔法具だ。台座がついており、その上に置く。

 形状で言えば、家庭用のプラネタリウムが近いだろうか。

「グラス……いや、細かい説明はよそう。とにかく、俺はエルマーの最期を見たし、それをお前らに見せることも出来る」

「……それをすることで、クロ様は何を得られるのでしょう。我らの怒りが燃え盛ることはあれど、逆は無いかと思いますが」

「眠気覚ましには丁度良いだろう」

「……カグヤ達が、寝ぼけていると?」

「俺の望みを叶えるのは嫌か?」

「……ご自身をエルマー様と重ねられることを拒みながら、それを盾にとりますか……強かなところは、らしいと言えばらしいのかしら」

 カグヤは複雑そうな顔をしながらも、すぐに答えを出した。

「畏まりました。クロ様がお望みとあらば、我らが主の死、この目に焼き付けましょうとも」

 居住まいを正すカグヤ。

「では、他の五劔も召集すべきでしょう。彼らにも見る権利が……いや既に召集を掛けていた筈では……?」

 トウマが訝しげな顔をしたのとほぼ同時に、襖が開かれる。

「師匠が! 師匠が現れたと聞いたんですがっ!」

 男装の美少女だった。

 淡い色の紋付羽織袴を着ている。

 濡れ羽色の美しい長髪をポニーテールに結っていて、まだ幼さの残る顔は十代半ばほどに見えた。

 どう見ても可憐な少女なのだが……どこかおかしい。

「……一応補足しておくが、彼は男だ」

 トウマの言葉に、幸助もトワも驚いた。

 ルキウスのように中性的、というわけでもない。見た目は完全に少女なのだ。

 幸助を見て、少女改め少年が顔を輝かせる。

「ししょー! うぅ……でもししょーであってししょーで無い御方なんですよね……僕は……僕は……でも、もう一度お顔を見ることが出来て嬉しいですぅ……うわあああん!」

 座り込んで泣き出してしまう。

「……これでも、わたしの剣の師なのだ。剣の腕は……本当に素晴らしく凄まじいのだ」

 トウマが言うなら相当だろう。

 そして彼もまた、エルマーを直接知る者らしい。

「シュカねぇ! 嬉しいのに悲しくて喜ばしいのに嘆かわしい! 僕は一体どうすればいいんですかぁ……!」

 少年がシュカの豊満な胸に飛び込み、シュカが子をあやすように頭を撫でる。

「アキハはエルマー様をとても慕っていたものね。わたくしも気持ちは分かります。けれど、現実と向き合わなければなりませんよ」

「ずびっ……むぎあう」

 鼻声だった。

 そして幸助を再び見る。

「……あの、お名前を伺ってもよろしいですか?」

「……クロだ」

「クロ様……僕……アキハと言います。ミズキリ=アキハ。ししょ……エルマー様の一番弟子でした。一番弟子とは言っても……自称なんですけど……でもエルマー様には大変お世話になって……いっぱい……稽古も……つげで……もだっで……うわあああん!」

 耐えられなくなったとばかりにアキハがシュカの胸で泣く。

「……コウちゃん、ちょっと羨ましいとか思ってない?」

「……いや、思ってないんですけど?」

「敬語になっちゃってるんですけど?」

 真面目な空気だとは分かっているのだが、アキハがあまりにもまっすぐ谷間に顔を埋めるものだから気になっていたのはその通りだった。

「……お取り込み中失礼する。これを回収するのに手間取っていた」

 一人の長身男性が、寝袋のようなものを引きずって入室する。

 カグヤと同じ月色の毛髪。鋭利な視線と一文字に結ばれた唇、静かに響く声など、硬質な雰囲気を受ける美丈夫だった。

 幸助を一瞥すると、一瞬だけ瞳の中で光が揺らめいたように見えたものの、すぐに収まる。

「……クウザ=シキと申します。エルマー様には返しきれぬ大恩があり、ご迷惑でなければ貴殿に報ずることを許可願いたく」

「……クロだ。よろしく。それがあんたの願い?」

「……愚妹はともかく、私の望みは報恩のみです」

「兄様! カグヤのことを愚妹と言うのはやめて頂戴! ほんとは大好きなくせに! ほんとは大好きなくせに!」

「二度言わずとも聞こえている。そして的外れである」

「カグヤ知ってるんだから! エルマー様に教えて頂いたことがあるもの! 兄様みたいな人間をつんでれ? と言うのよ! そうですよね、クロ様!」

「……ど、うかな」

「主を困らせるな。貴様は昔から――」

「きーこーえーなーいー! 今はカグヤが領主なのだから、口の利き方には気をつけて頂戴!」

「……申し訳ありません、カグヤ様。一家臣風情が過ぎた口を利きました。どのような処分も受け入れまする」

「そ……そんな他人行儀に話さなくたっていいじゃない……」

 しょんぼり、とカグヤが俯く。

「……面倒な妹だ」

 わかるわー、と幸助が頷いていると、トワがちゃっかり幸助の足を踏んでいた。

「なに共感の眼差しで見てるわけ? 自分にも可愛い妹いて最高~って思ったの?」

「あっはっは」

「笑うなっ」

 そして、シキが引きずってきた寝袋から一人の少女が顔を出す。

「……あれぇ、此処は何処なのかな~」

 パーマ掛かった桃色の毛髪はボサボサで、目もとろんとしている。

「主の前だ、速やかに態度と姿勢と身なりを整えろ」

「主ぃ~? カグヤちゃんなら大丈夫だってぇ。許してくれるよ、ちょろかわだからさぁ~」

「トウマ、その愚か者の首を刎ねてしまいなさい」

「はっ」

「わわぁ」

 いもむしのように寝袋から抜け出した少女が、逃げるようにして立ち上がる。

「もうカグヤちゃんの部屋だったかぁ~。あれ……そこの人……なんかエルマー様に似てるねぇ」

「クロ様だ。他人の空似ではないぞ」

 シキから聞くと、少女の目がすぅっと細まる。

「へぇ~、ついにかぁ。いい加減待ちくたびれてたんだけど、うん、嬉しいことだなぁ。あ、クロ様。ぼく、ハルヤって言うんだ。よろしくねぇ」

「さて、クロ様。これで五劔が揃いました。どうぞ、カグヤ達にエルマー様の死をお見せください」


 


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