20◇英雄へ至る者、挑発ス
装備を整え、新しい魔法をギルの店で購入。
更には幾つか組み上げ、新魔法を編み出した。
それらを確認する為、ステータスを見る。
【名前】クロ
【レベル】3
【クラス】英雄へ至る者
【ステータス】
生命力450(158)
魔力950(850)
膂力350(285)
体力450(285)
持久力279(110)
技力500(395)
速力438(310)
知力312(200)
運命力Unknown
天稟Unknown
【状態】健常
【経験値】158
【スキル】
◆先天スキル
『セミサイコパス』Unknown
『オートリフレクション』SS+
『リザーブチャーム』S+
『ヒーローシンドローム』Unknown
『ヒストリカルシンギュラリティ』SSS
『ラックルーラー』SSS
『ナイト・オブ・ナイツ』AA
『フルストレングス』AAA+
『レアファイドラテラルシンキング』SS
『黒[???]』E
◆後天スキルⅠ
『空間識』SS
『状況判断』SSS
『適応』SSS
『知識』A
『速読』B+
『対心的苦痛』S
『対身的苦痛』SSS
『社交性』S
『読心』SS+
『膂力補正』SS
『体力補正』SS
『持久力補正』SS
『技力補正』SS
『速力補正』S
『知力補正』A+
『危機察知』SSS
『取捨選択』-SS
『正義感』S+
『酷薄』S
『深慮即断』SSS
◆後天スキルⅡ
『クレセンメメオスの魔力再生』A+
『クレセンメメオスの対自然属性』S-
『クレセンメメオスの対衝撃』A+
『クレセンメメオスの対貫通』A+
◆後天スキルⅢ
【魔法】
・『火』
【焼き尽くせと命ずる[バイルウィンタ・ウォン]】
・『水』
【洗い流せと命ずる[トレンスラー・ウォン]】
・『風』
【吹き荒べと命ずる[ストルテア・ウォン]】
・『地』
【刃と成れと命ずる[セイスクロレア・ウォン]】
【其は城塞が如き堅固の体現者[シークドイル・エルク]】
・『氷』(『水』+『風』)
【凍て付けと命ずる[アイーシャ・ウォン]】
・『爆』(『火』+『風』)
【爆裂せよと命ずる[ヴォルガルト・ウォン]】
・『霧』(『火』+『水』)
【拡散せよと命ずる[デフィリュア・ウォン]】
・『切断』
【悪神断つ刃と成れ[スラックラー・ヘイズ]】
【触れること勿れ[アンディスタス・フォルセ]】
・『粉砕』
【砕け散れと命ずる[ヴォルカー・ウォン]】
・『黒』
【黒纏】
【黒喰】
【黒葬】
◆適性魔術属性『黒』『火』
【加護】
『トワの祈り』――生存率極度上昇
【呪い】
『罪咎の業』――精神汚染進行率極度上昇
【功賞】
『因果応報の理、実現』――実行者補正(全ステータス少量上昇)
『クレセンメメオス、討伐』――実行者補正(対『火』属性S)
【装備】
『蒼き燈火の外套』――装備者補正(対魔法A+)
『儚き霹靂の黒衣』――装備者補正(速力少量・持久力中程度上昇)
『昏き月明の聖靴』――装備者補正(速力中程度上昇)
一番わかり易いのは、装備の変化だ。
今回は自前の金があったので、武器防具店で高い品を迷いなく選んだ。
戦い方が決まったから、というのもある。
コートは、淡い蒼に、白いラインが奔っているもの。
インナーの上下は、黒で統一。身体にピタッと張り付き、違和感もない。
靴も黒いが、靴底だけが白い。
剣は『黒』で作れるので不要と判断。
タイガは、兜を装着し、戦斧を装備したくらいで、見た目に変化は無い。
生命力の回復や傷の治癒を施す、ゲーム特有の便利アイテムが無いかタイガに訊ねてみたが、あるにはあるものの非常に高価で、一般の店には卸されないのだという。
貴族街にならばあるが、立ち入り制限が厳しく二人には資格無しとのこと。
一週間後ならば分からないが、待つつもりもなかった。
二人でゼストまで行く。
駐屯する正規軍の統括隊長、レイスに声を掛けられたので、ソグルスを倒してくる旨を伝えると、大げさに「ご武運を」と、敬礼された。
ダルトラ式の敬礼は親指を曲げ、四指を伸ばした状態の右手を、胸に当てるというものだった。
多少気恥ずかしかったが、見様見真似で敬礼を返し、入り口へ向かう。
「人気者なのだな、お前は」
「クレセンメメオスとの戦闘映像見せたら、あんな態度になった」
「結果を残せば、認められる」
「慣れてないから、どう反応したらいいか分からないんだ」
「オレもだ。来訪者は、皆、そうだ」
「タイガはそういう時、どう返す?」
「わかるだろう。向いていない、そういうものは」
「そうか。答えは出ないままだな」
「ここから出たら、共に悩もう。朝までだろうと、付き合う」
「俺が酔いつぶれなきゃな」
フッ、とタイガは笑った。
どちらともなく、歩き出す。
攻略途中、幸助は何度か『黒』を試した。
数十匹程の魔物を、【黒纏】・【黒喰】で呑み込んだ頃。
グラスが反応した。
――【魔法】に【我が瞳に燃えろ[クラレス・フィルノ]】が追加されました。
モルモルの使用する魔法だ。
その後何度も捕食を試みた結果、幾つかのことが判明。
・魔力消費が激しい。
・捕食によって魔物を魔力へ変換可能。
・稀に特性や魔法を習得する。
・装備品(ドラグニクの湾刀)などは、どうやら消えずに『黒』の中に残り、自在に出し入れ可能。
これは非常に使い勝手が良い能力だ。
上層の魔物では、捕食による回復量が発動による消費量を上回ってしまうが、六層からはプラスマイナスゼロになる為、幸助は問答無用で目に映る魔物を呑み込んでいった。
「脅威だ、色彩魔術」
「確かに、強すぎる」
だが、タイガから嫉妬や羨望の視線は向けられない。
「それ程、お前は苦しんだ」
「……優しいね、どいつもこいつも」
強い力を持っているなんて、ずるい。
そう思われる方が、普通は自然だ。
けれど痛みを知る者は、来訪者を知る者は、その強さが深すぎる苦痛と引き換えだと理解してくれる。
「その『黒』で、ソグルスは呑み込めるか」
「クレセンメメオスの時もそうだったんだが、多分俺の熟練度の問題で、吸収量に限界があるんだと思う。クレセンメメオスの時は、両足を斬り落として、大量の出血を確認してから、全身を覆えるようになった。だから多分、ソグルスも何度かに分けて捕食しなきゃいけない」
「行かないか、万能とは」
「俺、まだレベル3だしな」
「そうか。21だ、オレは」
「大先輩だ」
「止せ、友は友だ」
そして二人は十層に到達。
タイガから聞いたところによると、十層にいる魔物は一種類。
サガンデストイ。
見た目はケケラに似ていて、仮面を付けた人型なのだが、戦い方が違った。
元いた世界で言う、スナイパーなのだ、奴らは。
サガンデストイは二匹一組で、一匹が風魔法によって弾道を調整し、一匹が着弾と同時に爆発を引き起こす爆魔法を使う。
正確には弾丸ではなく、石か何かだろうが、効果は同じ。
しかも奴らは、壁面に穴を開け、そこに篭って敵を待つ。
魔法具持ちや守護者とは違う、単純な武力ではなく知略による脅威。
守護者に向かう前に、まず奴らの群れを突破しなければならない。
基本は射線の通らない道を選んで歩き、慎重に迂回しながら進行するのだという。
面倒臭いので、幸助はそのまま一直線で最深部へ向かうことにした。
幸助とタイガを包むように、半球状の【黒纏】を展開。
何十何百も弾丸が突き刺さるが、そのことごとくを『黒』は捕食し、魔力へ変えた。
「豪気だ、お前は」
「前世ではやりたいことをやるのに五年も掛けた。こっちでは時間を無駄にしたくないんだ」
タイガは何も言わなかった。
そして二人は、最深部へ至る扉の前に立つ。
最深部への入り口だけは、扉タイプらしかった。
観音開きの、巨大な扉だ。
「開けゴマとか、言わなきゃダメなやつか?」
「フッ、面白くない、冗談だ」
「うるせぇ」
幸助でも、スベると人並みに恥ずかしいのだった。
「押せば、開く」
「じゃあ押すぞ」
答えを待たず、幸助は扉を蹴った。
手で押さなくても、いいらしい。
扉が重々しく、開く。
円状の、フィールドだ。
やけに明るいと思ったら、天井に太陽らしきものが浮かんでいる。
その天井は、一層あたりまで突き抜けているのではないかと思うほど、高い。
広さは学校の校庭程はある。
円形なので、野球場の方がイメージとしては近いか。
ある程度縮小すると、このフィールドに近くなりそうだ。
ソグルスが、居た。
周りの傀儡とソグルスの違いは明白だ。
ソグルスは全てが火で出来ており、顔のパーツは黒い闇で描かれているが、傀儡は違う。
傀儡達は、身体こそ炎だが、顔は、人間のそれなのだ。
おそらく、いや確実に、殺された人間のものをそのまま使っている、のだろう。
「……あぁ…………」
と、今にも崩れてしまいそうな声を、タイガが出した。
「クルス……ミオ………………ハナ」
傀儡は、二十体程。
正確には、二十三体。
ソグルスが、口を開いた。
手を広げて、歓迎の意志を見せる。
「やァやァやァ! 客人! 客人かネ! いやァよクぞ来てクれタ! 歓迎シようじャなイか客人方ヨ! まッたクこノひト月、暇デ暇デ、死ヌかと思ッたんだよ。キみ達ハ、言ワば救世主だヨ。救世主。わタしにとッテのネ。オやオやオや? ソコな巨漢、きミ、見覚エがアルねェ? 初メまシてデハ、ナいよねェ?」
どこから声を出しているのかは分からないが、不愉快な程、高い。
奴は、ソグルスは、わざとらしく手を叩いた。
「ソーだソーだ! 思イ出シたヨ! 前回ノ客人の中ニいタネ? まタ逢エて嬉シィイイイイイイ!! イヤシかシ? アの淑女はドしたんダイ? ほラ、ワたくシ? 紳士でアルからシテ? やハリ客人はレでぃでアル方がイイのだがね!」
そう言って、腰を振る仕草を見せる。
タイガから、表情が消えた。
ソグルスが手招きし、一体の傀儡が、彼の前に立つ。
瞳に光が無く、表情も無いが、笑えば魅力的だろうといった女性。
顔にそばかすがあり、髪は肩口で切り揃えられている。
「……ハナ…………」
「キみは、確かコれのことヲ気ニかけテいたネ? ドうダイ? モウ一匹ノ淑女をクレたラ、こレを貸シテもイイヨ? 存分ニ、使ウとイイ。あァ、燃えスギには、ご注意ヲ」
ソグルスの意に添ってだろう、かつてハナだった傀儡が、地面で仰向けになり、股を開く。
「…………貴、様」
タイガの殺意迸る視線を受けて、ソグルスは満足気に大笑した。
「ソれソれソれ! ソれだよ人間ッッ!! わたくシはねェ! 貴様ラ来訪者ノ所為でコんナ息ノ詰マル場所ニいなケレばナらないワけだ。ワかルかネ! もウ、もウもウもウ! 退屈に殺サレてしまイソーなンだ! 貴様ラを苦しメテいる間だケは、ソれが紛レる!! だカラ、愛シテイルよ、人間。イツか此処を出ル時まで、愛シテヤるヨ、人間。貴様モ傀儡に変エてヤる。安心シ給えヨ。きチンと、愛スル牝と、まぐワワセテヤるカラ、さァ!」
「うるせぇ」
一瞬のことだった。
「…………………………な、ニ?」
ハナを除く、全ての傀儡が、濁流のようにフィールドを満たした『黒』に呑み込まれ、消える。
「悪い、タイガ。クルスとミオは俺がやっちまった。誰がそうだかわかんなくてさ。後で、殴ってくれてもいいよ。だからその前に、ハナの魂は、お前が解放するんだ」
「………………クロ」
そこで初めて、ソグルスが、クロに興味を移した。
「なンだ? 貴様」
「『黒の英雄』だよ。ほらなんだっけ? お前らゴミクズを悪領に追いやって、人類を平和に導いたとかいう。その後継者。お前、退屈で死にそうなんだろ? 死ねよ。それが出来ないって言うなら、俺が殺してやる」
「フフフ、人間。大言壮語はイケないヨ。出来るナラ、既にヤッている筈だロウ?」
「違うね。お前は、苦しめてから殺そうってだけだ。なぁ、お前ら魔物にも、命を惜しむ感情はあるか? あると嬉しいんだけど」
「なンだト?」
「命乞いを聞かせてくれよ。その上で、お前を殺したい。そんな気分なんだ」
――スキル『セミサイコパス』が発動しました。
――精神汚染が加速します。
なるほど、と幸助は納得。
『正義感』が発動しなかったのは、正義の行いではないから。
いや、行いそのものは正義に見えても、抱く感情が違うから。
幸助は、義憤よりも大きな、殺意によってここへ赴いた。
それが今、赫々と、燃え上がっている。
「ヤッてみロ、人間ッッッ!」
「その見下した口調がむかつくんだよ、化物風情が」
幸助の全身が黒に覆われる。
右手に、直剣が収まる。
討伐ではない。
殺し合いが、始まった。