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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
【第四部・群雄一拠篇】十と五振りの劔、極東にて
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188◇黒衣の剣士、抜刀ス

 



「……分からない。貴殿はエルマー殿に最も近い存在だ。ならば、恨みこそすれ、救う義理など無いだろう。もう一度世界を救ったところで、もう一度使い捨てられるだけだ」

「助けたい人がいるんだ」

「……なに」

「不幸になってほしくない人達がいるんだよ。それだけだ」

 トウマは一瞬だけ幸助の後ろにいるトワを見た。

「理解した。だが、我らが貴殿に従うかは別の話だ。悪いが、エルマー様の面影だけで国は動かんぞ。そこの痴女のようなものは少なくないが、多数派ではない」

「……トウマ。わたくしのこと、痴女だと思っていたのね。うぅ……でも、貴方が望むのなら、わたくし、いやらしいのも頑張るわ」

「永遠に頑張らなくていい」

 振り返りもせず一蹴してから、トウマは続ける。

「わたしは貴殿を認めていない」

「あぁ」

「だから、認めさせてみろ(、、、、、、、)

 彼女の言葉に、幸助もトワも一瞬呆けた顔になってしまう。

 トウマは真剣そのものだが、後ろのシュカは優しげに微笑んでいた。

「刃を交えねば分からぬこともある、というのがわたしの持論だ。貴殿が勝てば、都まで連れて行くと約束する」

「あんたが勝ったら?」

「セツナ殿の情報を置いて、来た道を戻れ」

「はっ」

 幸助は笑った。獣が牙を剥くように。それでいて、友に笑いかけるように。

「分かりやすくていいな」

「初めて意見が合ったな」

 想定していたことだ。最悪、追い払うように攻撃を受けるだろうと。だがこれは、最悪では決して無い。トウマのように、エルマーの姿を借りただけの男を認められないという者は多いだろう。

 だからこそ、今ここで英雄規格であるトウマに認めてもらう機会は逃せない。

 幸助の言葉で動かせない心も、彼女やシュカの言葉でなら変わるかもしれないから。

「コウちゃん」

「……トワ様、どうか介入なさらぬよう。千年前に生きていないわたしでも、彼の英雄が捜し回り、ついぞ再会することの叶わなかった妹御を斬りたくはありませぬゆえ」

「で、でも、協力をお願いしに来たのは、トワも同じだし」

「ではトワ様、わたくしとお話ししませんか?」

 いつの間にか、シュカがトワの隣に立っていた。

「わっ」

「そんなに怯えないでくださいな。決して傷つけはしません。触れるにしても花にするように優しく、花弁一枚傷つけぬよう丁寧にいたしますから」

「え、あの、いえ、でもっ」

「大丈夫ですよ、トワ様。貴方様の知るクロ様は、此処で敗北する程度の御方ですか?」

 しだれかかるようなシュカに困惑していたトワの表情が、その時だけは真面目なものに戻る。

「――いえ、うちの兄は、やると決めたことは現実にする人です。何があっても、最後には必ず」

「ふふ。そうでしょうとも。では、信じてお待ちになられては?」

「う、でも」

 ちらりと幸助を見るトワに、言う。

「いいよ、トワ。そこで待ってろ。っていうか、邪魔だ」

「じゃ、邪魔っ。自分でついてこいって言っておいて」

「足手まといって意味じゃねぇよ。そうじゃなくてだな」

「無粋、というものですよ、トワ様。死合に、他者が関わろうなどと」

「他者って……妹ですけど」

「あ、いえ、申し訳ありません。そういうことではなく」

 ……なんかこいつら、トワにだけ甘くないか?

 そのあたりも、セツナに似ている。

「そうだ、言い忘れていたが、貴殿が負けた場合、帰るのは貴殿だけで構わんからな」

「なんでだよ」

「トワ様は歓待せねば。皆が喜ぶ」

 ……おかしいなぁ。

 釈然としないものを感じたが、これ以上は言うまい。

 トウマも、同じことを考えていたらしい。

「……シュカ。どのような結果になっても、わたしを恨むなよ」

「えぇ、どんな結果になったとしても、トウマ、貴方を好きな気持ちに変わりはないですからね」

 これまでならばそれに怒鳴り返していただろうに、トウマは黙って目を細めた。

十士五劔(つがなしごけん)『風』のトウマ――参る」

「ダルトラ国軍名誉将軍――『黒の英雄』クロス・クロノス=ナノランスロット――来い」

 次の瞬間、剣戟音が空間に響き渡った。

 刹那で距離を詰められたのもいい。反応は出来た。剣を抜き、彼女に向かって振った。

 だが弾かれた。

 そうして音が鳴った。

 何も不思議なことは無い。彼女が口だけではなく、幸助の迎撃をなんなく防ぐ実力の持ち主というだけのこと。

 あぁ、そうだ。

 彼女の抜刀が見えなかったことを除けば、なんの不思議も無い。

 納刀の澄んだ音だけが、キンッと続く。

 腕が痺れる程の一撃を、幸助の目にも映らぬ速度で放ったばかりか、仕舞うまで済ませた?

 構わず刃を一閃するが、その時には彼女の姿が消えていた。

 代わりに幸助の右腕にストンッ、と何かが突き刺さる。

 手裏剣だった。

「……忍者かよ」

 左手で抜き、放り捨てざま、振り返って胴を薙ぐように一閃。

 少し驚いた顔のトウマが、即座に後退。

 幸助は遅れながら【黒纏】を展開する。

「……外の人間は魔力探知に頼りきりと聞いたが、貴殿は気配も読めるようだな」

 会話をするつもりはなく、口にしただけだろう。

 幸助の【黒纏】を見て、呆れるように呟く。

「言っておくが、それは愚策だぞ」

 再び彼女が消える。

 気配を探知。

 向かって右側に、彼女は出現した。正確には、瞬間移動ではなくそうと見紛う程に速いだけだろう。

 斬撃の軌道を予想し、刀を構える。

「……一刀――二閃」

 空を切る音が同時に二つ(、、、、、)

 一つは幸助の刀が防いだようだが、もう一つは――脇腹を割いた。

 魔法ですらない、一撃が。

 『黒』ごと幸助の肉を斬り裂いたのだ。

「愚策と言った」

 再び、彼女が消える。




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