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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
【第四部・群雄一拠篇】十と五振りの劔、極東にて
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185◇紅の英雄、眺望ス

 



 『黒白』の能力は、やはり『浄化』だった。

 介入限界――『黒』であれば容積あたりの『併呑』量、『白』であれば『否定』の『否定』は出来ないなど――は、『浄化』速度が一定というもの。

 たとえば、以前シロから聞いた話だが、魔法具持ちの中に悪神にそれを与えられたと発言したものがいるという記録がある。強力な魔物ほど、悪神からの干渉が大きいというわけだ。

 穢れもより大きく、祓うには時間が掛かる。

 それを、魔力量を増やしたりなどして効率化、あるいは短縮することは出来ない、という限界。

 しかも、『浄化』は魔物の身体に直接触れねばならない。

 魔物が強ければ強いほど、解放にかかる危険度は増すというわけだ。

 そうなると、ライム自身の能力も驚異的。

 モルモルはともかく、白狼という魔法具持ちを殺さず圧倒し、解放したというのだから。

 復讐者だったとはいえ元々は地球の一少年だった幸助と、子供とはいえ転生以前から戦士だった者の違いといったところか。

 次に、リスクだが、これは現状不明。

 だが、予想は出来る。一定である『浄化』速度の制限を外す代わりに、穢れをその身で受ける――つまり悪神の干渉を受けるようになってしまう――といったあたりだろう。

 幸助はライムに、そういった魔法が出現しても使用しないよう強く言い含めた。

 ヘケロメタン行きを告げると、シロは心配した様子で、ライムはどこか寂しそうに、けれど二人共最後は笑顔で送り出してくれた。

 そして、今。

 二人は竜の背に乗り、凄まじい速度で目的地へ向かっている。

「ねぇ、コウちゃん」

「なんだ」

「これさ……あれみたいだね」

「あれ? ……って、そうか。あの本の」

 小さい頃、妹と本を読んだことがあった。エルマーという名の主人公と、りゅうのお話。

 そういえば、背に乗って飛ぶエピソードもあったか。

「りゅうの背中に乗って空を飛ぶって、こんな感じなんだ……」

「小説の主人公と同じことをする気分はどうだ?」

「綺麗だし、楽しいよ。……こんな状況じゃなかったら、はしゃげたんだろうけど」

 いつも通りを装ってはいるが、トワはセツナのことを重く受け止めている。

 本当なら、今すぐ助けに行きたい筈だ。

 それを、彼女は英雄としての責任感と理性で御しているのだ。

「欲を言うなら、コウちゃんの後ろじゃなくて前がよかったけど」

「あぁ、じゃあいいぞ。ほれ」

「わっ、うぇわわっ」

 トワの身体をやや強引に引っ張り、半ば抱きかかえるような形で前に座らせる。

「ちょっ、コウちゃんさぁ!」

「いいから、前」

「そんなこと言ったって…………ふぁあ」

 確かに、運転席と後部座席では見える景色も違う。

 竜は車ではないが、見える景色に関しては同じ。

 今、彼女の目の前には、無限の空が広がっていた。

 雲と地面の間。蒼の中を羽ばたく竜の背で、天地の一切を望む。

「…………すごい」

 ぽつりと漏れた言葉が、彼女の心を襲う感動を表していた。

「……ところで、コウちゃん。そろそろ肩に置いた手を離してもらえる? シスコンが移るから」

「移るか!」 

「あはは」

 その声は、ほんのひと時なのだとしても、憂いを忘れられているのが分かるもので。

 幸助は兄として、少し安心したのだった。

 言えば彼女が調子に乗るのは確実なので、絶対口には出さないが。

 しばらくして、気を取り直すようにトワが言う。

「……それで、さ。そろそろ説明してくれる?」

「あー、マキナとの話か? それなら悪いけど――」

「そっちもだけど、ヘケロメタン行きのこと! 最近コソコソやってたやつでしょ」

「それか……」

「なんでトワなの? そりゃあ力にはなるよ、当然。だけど理由がわからないと、なんていうか」

 トワは多分、疑っている。

 信頼されて誘われたのではなく、妹を王都に残しておくのが不安という兄心で選ばれたのではないかと。

 彼女は、そういう立場を望んではいない。

「お前が思ってるような理由じゃないよ」

「そっか……よかった。てっきりコウちゃんがシスコンこじらせて一秒もトワから離れたくないのかと思った」

「俺が思ってたのとも違うな!? んなわけあるか!」

「気持ち悪いから、やめてね?」

「違うっつってんだろ! 落とすぞ!」

「酷い。妹虐待だ」

「都合の良いときだけ妹を主張するのやめろよな……」

 くすくすと、小さな笑い声。

「じゃあ何? つくまで時間あるし、教えてよ」

「……あぁ、まぁー、そう、だな」

 彼女にも事情を説明しておいた方がいいだろう。

 幸助は語る。

 ずっと気になっていたことがある。

 幻想国家ファカルネと、閉鎖国家ヘケロメタンのこと。

 物理的に入れない、制度的に入れないという違いはありつつも、二国に共通しているのは他者を排しているという点だ。

 諸説あるが、過去の文献などから予想するに、ファカルネが結界で国土を閉じた理由はおおよそ一つに絞られている。

 ファカルネ国土内には、悪領が無いのだ。

 逆に言えば、悪領を避けて、そこに国を作り、国民を守る為に世界を閉じた。

 干渉出来ないので詳細は分からないが、ファカルネはある意味で平和な楽園なのかもしれない。

 では、ヘケロメタンは。閉鎖国家。鎖国をしている。

 じゃあ、理由は?

 国を閉じるのは、大雑把に言えば受け入れたくない何かがあるから。

 その何かを、幸助は知りたかった。

 ファカルネと違い、ヘケロメタンとは対話が可能なのだから。

 手を取り合うことだって、一緒にアークスバオナに立ち向かうことだって、出来る筈だから。

 そして、一つの仮説が立った。

 情報国家の記録を含む文献全てを漁っても、それだけではわからなかったこと。

 幸助が入手したある情報と、疑問を合わせることで立った予想。

 『黒の英雄』エルマーは、戦いの末、信頼していた他の英雄達の手によってギボルネ領内の悪領に封じられた。セツナと共に。

 エルマーは亜人や魔物の区別なく仲間として扱ったという。

 では、エルマー封印後――彼らは一体何処に(、、、、、、、、)

 エルマーとセツナを探したことだろう。他の英雄達から死んだと説明を受けて、素直に納得したものがどれだけいただろうか。あるいはエルマーの記憶を消され、野に放たれたか。

 だが、彼を慕う全ての者に対しそれが出来たか?

 仮に、そうだったとすれば、更に疑問が残る。

 ギボルネには、エコナのように蒼氷の髪と目をした原住民がいる。

 そして、ダルトラでは亜人を滅多に見ない。

 もし、皆殺しにされたわけではないのなら、ギボルネに住み着いたわけでも、ダルトラの建国に携わったわけでもないのなら、彼らは何処に消えた?

 自分達を友と認めてくれた、唯一人の英雄と、その副官が突如消えて。

 きっと、他の人間たちに不信感を持たなかっただろうか。

 エルマーが消えて、セツナが消えて。

 それでも勝利に喜び、新たな国造りに臨む人々と一緒にいようと考えただろうか。

 彼らは人間と関わらぬよう、移動を続け、そして東端にたどり着いたとは考えられないか?

 なによりも、これだ。

 幸助は腰に差した刀剣の内、曲刀の方の柄に触れる。

 ゴーストシミター。

 エルマーの得物。

 閉鎖国家ヘケロメタンは、鍛錬国家とも呼ばれている。鎖国状態とはいえ、何一つ表に出ないわけではない。極稀に流出する武具の性能は極めて高く、中でもゴーストシミターと呼ばれる曲刀はクセがあるものの、遣い手次第では斬れぬもの無しと言われる程だ。

 そして、ゴーストシミターの製法はヘケロメタン以外には伝わっていない。

 幸助がこれを手に入れたことで、エルマーの武器を創った何者か、あるいは同じ武器を造れる者が、本人でなくてもその子孫や継承者が、どこかのタイミングでヘケロメタンに渡ったと考えられる。

 だが、どのタイミングにしろヘケロメタンは閉じている。

 では、その人物は最初から受け入れられた者――つまり仲間で。

 ヘケロメタンは、ずっと、ずっとずっとずっと。

 千年前から今まで。建国から今日まで。

 もはや、建国の徒が残っているかも定かではないが、国家として。

 エルマー・エルド=アマリリスの死を嘆き。

 彼の消失をよしとした世界の全てを――拒絶しているのではないか。




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◇書籍版(GCノベルズより1~4巻)
◇書籍版特設サイト◇
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◇ライドコミックスより1~4巻◇
◇コミックライド作品ページ◇
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↓他連載作です。よろしければどうぞ↓ ◇朝のこない世界で兄妹が最強と太陽奪還を目指す話(オーバーラップ文庫にて書籍化予定)◇
たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても
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◇勇者パーティを追い出された黒魔導士が魔王軍に入る話(GAノベルにて書籍化&コミカライズ)◇
難攻不落の魔王城へようこそ


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