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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
【第四部・群雄一拠篇】十と五振りの劔、極東にて
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174◇喧騒の片隅で

 


「ほーほー、はふはふ、なるほど」

 『黒白』保有者であるライムは、口の中の肉を咀嚼しながら頷く。

 彼女の手は相変わらず幸助とシロの腕をとっているので、肉の串焼きを彼女の口に運んでいるのはシロだ。

「かわいい……かわいくない?」

 シロは完全にライムにデレデレだった。

自分もそれなりに恥ずかしい想いをした筈だが、幸助が普段言わないことをライムのおかげで聞けたのと、彼女自身に懐かれているのが純粋に嬉しいのだろう。

 ごくん、と飲み込む音がして、それからライムは「あー」と口を開く。

「はいあーん」

 シロが食べさせてやる。

 はふはふ、もぐもぐ。

「あー」

 口を開く。

「あーん」

 シロが食べさせてやる。

「あー」

「なぁ……そろそろいいか」

 空いている方の手で額を押さえながら幸助が言うと、シロは悪戯っぽい笑みを向けて串焼きを幸助の口にも向ける。

「幸助も欲しかったの? ほら、あーん」

「エコナが飯作って待ってる筈だから、いいよ」

「と、言いつつ。お父さんはちょっと惜しいことをしたなと思っているようです」

 ライムの発言で、シロのニヤニヤ度が増す。

「あーん」

「……………………」

 仕方なく、幸助は一口頂いた。

ここ最近は顔を合わせる機会も作れず、大きな心配を掛けてしまった。

 このくらいのことで彼女が楽しそうにしているなら、多少の気恥ずかしさは我慢出来るというもの。

 王都ギルティアスの市場だ。朝の比較的早い時間から賑わう一角がある。

 道すがら幸助以前受けたのと同じ説明をしていたのだが、途中でライムが匂いにつられたのだ。

「それで、ライム」

 再びシロの餌付けであーんを繰り返していたライムが、嚥下の後に幸助を見上げる。

「話は理解出来ました。ご安心ください、完璧です。九割から二割ほどの理解度です」

「大分幅があるなぁ……」

 どの程度にしろ、完璧には至っていない。

「違う世界に来た、という部分は理解しました。やりたいことは特にありません。この世界では、何をすればご飯を食べられるのでしょう。お二人が養ってくれるのでしょうか」 

 重要な部分は確かに理解出来ているらしい。

 現実を受け入れられずにいる、なんてこともなさそうだ。

「随分と受け入れが早いな」

「そうでしょうか? 比較対象がいないので、わたしの方では判断出来ませんが、お父さんがそう言うならそうなのでしょうね。わたしはばっちり適応しています。人並み以上ですね」

 先程から気になってはいたが、お父さんという呼称が定着してしまったらしい。

 今重要なことではないので、触れることはしないでおく。

「ただ、もしかすると、かつての世界のことが影響しているのかもしれません」

 ライムが言うには、彼女の元いた世界にも異界という概念はあったらしい。

 それどころか、異界と繋がる『ひずみ』が世界中に点在し、そこから怪物が侵入してきたのだと。

 なるほど、異界の存在が知識として備わっていれば、異界に飛ばされるという現実も幾分受け入れやすくはあるだろう。

外来種ストレンジャーと言うのですが、わたしはそれと戦って死んだ筈でした。奴らは人を生け捕りにすることもあるので、最初は自分が死んでいなくて、連れ去られたのかとも思ったくらいです」

 幸助などは日本からアークレアに飛ばされたわけだから、『わけがわからない』という状態だったわけだが、ライムには妥当な現状予想が出来た。

 そういう違いが、反応の違いに表れたのだろう。

 彼女の性質も、多分に影響しているだろうが。

「それで、わたしはこの後何をすれば、毎日ご飯を食べられるのでしょう?」

 なんとなく、見えてくる。

 彼女の今までの発言や風貌からして、文化的な生活が送れていなかったことが窺える。

 何をすれば食料にありつけるかと気にし、怪物と『戦って』死んだ筈と発言していた。

 髪を切ってくれる者はおらず、幸助やシロのような人物が今までいなかったと。

 おそらく、彼女は過去生の時点で怪物と戦う力を持ち、打倒と引き換えに食料を与えられていたのだろう。

 強い力を持つ者を、力を持たない者が恐れるなど、よくあることだ。

 戦いに慣れているようで安心した、などとは口が裂けても言えない。

 彼女を利用してきただろう輩に怒りが湧いてくる。

 だが、幸助も似たようなものだ。

 結局のところ、その道を彼女に示すことになる。

 そしてきっと、彼女はそれを選ぶだろう。

 この世界では特に、年齢や性別を理由にすることは愚かだ。分かっている。

 それでも、そのことに抵抗を覚える自分でいたかった。

「そのことは、ついてから話そう。もっと美味しいご飯もあるぞ」

「このお肉よりもおいしいものですか? ……それはすごいことですね」

 ごくりと生唾を飲み込むも、やはり無表情のままで。

 幸助はなんとか苦笑を浮かべて、そっと歩き出す。

「行こう」




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