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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
昏天黒地、清福にて祓う
18/301

18◇英雄へ至る者、戮力す

 



「クロ、横いいか」

 木樽ジョッキを持った、鎧姿の大男が声を掛けてきた。

 確か、昨日宴会騒ぎを起こした時、知り合った来訪者だ。

 日本人風の見た目で、大男。

 ラグビーか、さもなければ柔道経験者のような風貌だ。

 彫りの深い顔で、歳は二十六とか言っていたか。

 タイガ、と名乗っていた。

 おそらく、本名だろう。

「断る理由が見当たらんね、見ての通り、暇だ」

 タイガは、フッ、と笑ってから、隣の席に腰を下ろした。

「昨日は、お前の金で、大分呑んだ」

「その割に、朝からエークル呷ってるようだが」

 エークルというのは、ビールのような酒だ。

「日を跨げば、摂取したアルコールはリセットされる」

 そんな便利な機能は、人間には無い。

 が、それくらい酒に強い、ということだろう。  

「羨ましい限りだよ。俺はそんなに強くねぇからな」

「最後は、テーブルに突っ伏して潰れていた」

「あー、そこら辺もう、覚えてないんだ。醜態晒してなかったか」

「平気だ、おそらく」

 フッ、と笑って、エークルを呷るタイガ。

 その笑い方は、癖らしい。

「それで? 世間話のパートナー募集してたのか?」

 また、フッと息を吐くような笑いを見せてから、タイガは「いや」と首を横に振る。

「頼みがある」

「内容によるよ」

「ゼストへの興味、まだ失っていないか」

「あぁ、興味自体は津々だ。でも悩んでる」

「悩み。どんなだ」

「昨日来たばっかで、この世界のことを、まだよく知らない」

「大事か、アークレアを、知ることは」

「まぁ、普通は急務だと思うがな。異世界に転生すること自体、異常な現象なわけだから、普通なんて言葉を持ち出すのはおかしいが」

「フッ、確かに。だが、オレ達は、転生した」

「タイガは、日本人?」

「あぁ、大学を出て、就職し、過労死した」

 一瞬、彼が遠くを見るような目をした。

 すぐにそれは、元に戻る。

「それだけ、真面目な人間ってわけだ、タイガは」

「クロ、お前は、良い奴だ」

「褒めても何も出ないぞ? あぁ、酒ぐらいなら奢ってもいい」

「来訪者は、不幸だ」

「そうだな」

「たった一度の人生、幸福になれなかった」

「だから、アークレアは例外措置なのかもしれないな。たった一度のチャンスをものに出来なかった奴らへの、救済措置」

「オレも、そう考えていた」

「過去形か」

「一ヶ月ほど前、仲間が死んだ」

「迷宮で?」

 タイガは、重々しく、頷く。

「ゼストで、だ。オレ達は、五人のパーティだった。中難度迷宮を狩場にしていたが、ある日、ゼストの守護者を倒そうということになった」

 魔法具持ちと、迷宮の最深部に控える守護者だけは、迷宮の難度に関わらず強力。

 低難度のゼストにいたクレセンメメオスが、良い例だ。

 パーティとして成長を感じたなら、守護者を倒してみたいと考えるのは、自然に思える。

「だが、オレ達は愚かだった。ミオ、クルス、ハナ。死んだ。オレと、クララという女だけ、無様に敗走し、生き延びた」

 なんとなく、その先の展開を読めたが、幸助は黙って続きを促す。

「クララは、此処で働いている。今日は、いないが。オレは、一人で攻略をするようになった。だが、それは、問題じゃない」

「疑問に思ったわけだ。必ずしも、アークレアは天国ではないんだと」

「そうだ。来訪者、アークレアで活躍出来る。それは間違いない。アークレア人より、強い。確かなことだ。だが、来訪者も、死ぬ」

「あぁ、昨日も言ったが、クレセンメメオス相手に、俺だって死にかけたよ」

「だが、クロ、お前は勝った」

「だな」

「守護者は、魔法具持ちより、強い」

「あぁ、そうなのか。それは知らない情報だった」

「頼みがある」

「おう、言えよ」

「ゼストの守護者を、殺したい」

「だから?」

 タイガは席から立ち上がり、両膝に手を当て、頭を下げた。

「頼む、クロ。手伝ってほしい。昨日、逢ったばかりのお前に、頼むことではないと、わかっている。だが、オレ一人では、勝てない。だが、やつを倒さなければ、オレは、先へ進めない。クララから、翳りは消えない。……頼む、この通りだ…………クロ、頼む……頼む……」

 巨漢が、小さく見えた。

「酒、奢れ」

 幸助が言うと、タイガはゆっくりと顔を上げた。

「どういう、ことだ」

「だから、今日の攻略の報奨金で、俺に酒奢れ。それが条件だ」

 タイガは、放心するような顔をしてから、言う。

「……いいのか」

「元々、一人でも行くつもりだった。理由が一個増えただけだ。気分の他に、良き隣人の敵討ちって、理由がな」

「良き、隣人」

「昨日、楽しかったぜ。お前だけじゃないけど、皆良い奴で、エコナを差別したりもしなかった」

「エコナ、蒼き毛髪と瞳を持つ童女」

「そうそう」

「お前こそだ、クロ」

「何が?」

「奴隷を得て、それを仲間と言った。シロから聞いた。お前はまず、童女の解放を望んだと」

「人間として、当たり前のことを言ったまでだ」

「当たり前ではない。お前は良い奴だ、クロ」

「へいへい」

 照れ臭くて、幸助は誤魔化すようにミルクを一気飲みした。

「取り敢えず、守護者の情報をくれ」



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