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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
神の声を聞きし死者達の狂騒
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168◇先の光明を

 



 此の場における責任とは、第一に色彩属性保持者複数投入を予期出来なかった点、それによってマギウスが戦死したのだから作戦立案者である幸助の責任だ。

 第二にルキウスとエルフィが離反した点、これはダルトラの責任。

 第三に、クウィンがグレアの命を救った点、これは見ようによっては単なる利敵行為だ。

 最後者についての説明は事前に済ませていた。

 あの時点で敵戦力を明確に把握していたクウィンからすれば、グレアを欠いた後の旅団の動きが予想出来た。彼らは撤退ではなく交戦を選んだだろう。そして『蒼』と『翠』の保持者によってより多くの被害が出る事態に発展した筈。

 各英雄の報告とグラスの情報によって、グレアの死で多くの団員に隙が生まれ、撤退命令によって死を免れた事実が確認された。

 あのまま戦いが続いていれば危なかった、という局面が実際にあったわけだ。

 とはいえ、それは現実になってない以上、言ってしまえば仮定でしかない。

 実際に起きたことのみに着目し、クウィンの行動を利敵行為だと判ずる向きもある。

 全ての人間が自分と同じ視点に立ってものを考えることなど有り得ないのだから、これは不可避の衝突でもあった。

「責任はとるよ。俺もクウィンも、この戦争が終わったら英雄を辞める」

 軽い調子でそう言ってのけた幸助を見て、言われた側は硬直した。

「そ、れは……」

「軍事顧問とか、貴族院とかに入って軍事や政治に関わることもしない。庶民になる。まぁ、魔物くらい倒すかもしれないけど」

 連合諸国が気にしている大きな問題として、戦争終結後の展開というものがあるだろう。

 以前アリエルが言っていたように、勝利した後に最大規模の戦力を持つダルトラが第二のアークスバオナとなった時、もう誰もそれを止められないのだ。

 だから、保証をしなければならない。

 とはいえ、容易には信じられぬことだろう。

 世界を救おうという人間が、何も求めず庶民になるなどと言ったところで。

 実際、その言葉が空間に染み渡るまで、それなりの時間を要した。

「つまり、地位も名誉も要らぬ、と……?」

「大事なものだとは思うよ。でも、一番じゃない」

「なら、卿が最も重要だと考えるものとは、なんなのでしょう」

 そんなもの、簡単だ。

 幸助が欲するものなど、一つだけ。

「大切な人間が、不当に傷つけられない平穏がほしい」

 室内の人間が押し黙る。

 過去生での妹のように。転生当初に酒場の者が傷つけられ、シロが攫われたように。この世界でトワが冤罪で処刑されかけたように。

 幸助は、理不尽を殺したい。

 やがて、誰かが控えめに口にする。

「その為に、命を賭して戦うと?」

「理由としては充分過ぎると思うけど?」

 それを、全員が信じてくれたとは思わない。

 だが、少なくとも英雄を辞めるという件に関して、此の場で虚偽を口にしているわけではないと理解はしてくれたようだった。

 こうして、各国から新たな英雄の供出をとりつけることに成功。

 とはいえ、これで勝利が確定するなどということはない。

 相手方にも『蒼』持ちはいるのだ。

 こちらよりスピードで大きく劣るだろうが、悪領封じ自体はゆっくりと行われるだろう。

 空間の繋がりを長期間断つのは困難を極めるが、不可能事には遠い。

 これまでそれを行わなかったのは、封じることによって攻略が出来なくなること、つまり魔法具の入手経路を失うことを忌避してか、彼女自体が転生間もないか、そういった発想自体が無かったか、あるいは幾らかは既に封じているが表に出ていないのか、理由など幾らでもあろう。

 問題は山積している。

 幸助は横目で隣に座るトワを見遣る。

 あからさまに気落ちしていた。

 セツナが攫われたからだろう。

 今にも救けに行きたい筈だ。それは幸助も同じ。

 だが今の幸助が、従者一人の為に帝都へ救出に赴くことは出来ない。

 経路(パス)が繋がっていることが救いだった。彼女は生きている。

 ルキウスとエルフィが手荒く扱うことを容認するとは思えないが、セツナ自身は帝国に味方しているわけではない。あくまで捕虜として扱われるだろう。

 帝都での処刑を宣告されるのが最悪のシナリオ。

 だがこれは実現しないだろう。

 敵方としても、幸助が来ることが出来ないと分かりきっているからだ。

 誘き出したいなら……精々がロエルビナフか。

 一介の従者を人質にとるだけではだめだ。おそらく、捕虜交換という問題に拡大するだろう。

 それでも弱い。単なる引き渡しで幸助を呼ぶには不足だ。

 周囲の人間が後押しするくらいの理由でないと……。

 くい、と左の袖を引かれる。

 見ると、気遣わしげにこちらを見上げるクウィンと目が合った。

「大丈夫。最後の最期まで付き合うから」

 彼女の瞳には生気が宿っている。

 これまでずっと陰りが差していた分を取り戻すかのように、煌めいている。

 頷いて、幸助は周囲を見渡した。

 そうだ。

 少なくとも此の場にいる英雄達は、幸助の策を信じ、命を賭けてくれる仲間達なのである。

 腰を下ろし、右に座るトワに向けて囁く。

「セツナは絶対に救ける」

 幸助の力強い言葉に、彼女は一瞬だけ泣きそうな顔になるも、すぐに表情を引き締めて頷いた。

「うん。絶対に」

 身を挺して妹を救ってくれた恩人でもある彼女を、見捨てはしない。

 方法は必ずある。

 会議室の面々の顔が、幸助を向いていた。

 話を続ける前に、言う。

「勝とう」

 アークスバオナから捕虜交換と講和会議が申し入れられたのは、それから五日後のことだった。


                               第三部・英雄定義篇――了。

                               第四部・群雄一拠篇へ続く。

 



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