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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
神の声を聞きし死者達の狂騒
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167◇失ったものを数えるよりも



 

 王族暗殺阻止それ自体は、成功。

 英雄動員数十七。

 戦死者一名。また造反者三名の内一名を殺害。

 『編纂の英雄』プラナ及び『神速の英雄』フィオは活動不能状態へと。

 『白の英雄』クウィンの奪還に成功。

 敵将並びに旅団員七名そして造反者二名の撤退を許してしまう。

「この失態の責任はどうとるおつもりだ!?」

「色彩属性保持者の複数投入すらも想定に入れるべきではなかったのか!?」

「ダルトラより離反者が出るのも、元を辿れば貴国の腐敗貴族による行いが原因では!?」

「王族の守護は叶ったとて、この戦力差ではもはや降伏の他に道は無いのでは!?」

「利敵行為をとったクリアベヴィア卿への処遇は!」

「何の方策もないのであれば、連合の存続すら危ういですぞ!」

「そもそも卿がアークスバオナと通じていないという保証は!?」

「今後もナノランスロット殿に我が国の英雄を任せていいか、甚だ疑問ですな!」

 会議室だ。

 各国の最高指揮権保有者、そして英雄が列席している。

 吊し上げを食らっているのは、他でもない幸助自身。

 その主張に、怒りなどは湧いてこない。

 中学にだってあった。もっと遡って小学校にだって、無意識的であれば幼稚園にですら。

 権力関係。パワーバランスの調整と確認。

 子供であればそれは、誰が校庭のどこで遊ぶ権利を主張出来るかとか、限り有る遊具を優先的に使えるかとか、理不尽を口にしても咎められないとか、教室での歓談の音量とか、そういったものに影響するだけで済む。

 それが国の規模に広がるとなれば、一見くだらなく思える些細な一言や文句が、どれだけ重要かは考えるまでもない。

 口に出して言っておく。不満を露わにする。それが持つ力というのは、政治においては無視出来ない程に大きい。

 その程度のことは、さすがに幸助でも分かる。

 彼らの中で、心の底から感情のままに叫んでいる者はいないだろう。

 彼らは言うべきことを言った。

 だから幸助は、それに対して言葉を返すだけ。

「責任って、例えば英雄をやめればいいのか?」

 場内が静まり返る。

 替えの利く役職であれば、辞任させるのが落とし所になることもあろう。

 だが、既に『暗の英雄』となった幸助をこの戦争から締め出すことは出来ない。

 それこそ、全面降伏を真剣に考えるなら別だが。

 彼らの反応から、本心で降伏を考えているわけではないことを悟る。

「取り敢えず、皆が気にしてるのは二つだよな。責任をどうとるのか、後はこの戦争に勝ち目が残っているのか。前者は少し後に話すとして、戦争に関して。負けが決まったわけじゃないよ」

「だが、貴国は既に英雄国家を名乗れぬ程に英雄を失っている。連合から三名が離反、一名が死亡、二名が戦闘不能状態に陥っておるのですぞ。こんな有様で――」


「連合の英雄総数は、今この場にいる奴らだけじゃない筈だ」


「――――ッ!!」

 幸助の言葉に、各国の人間が目を見開く。

「……ナノランスロット殿、自身が何を言っておられるのか、ご理解されているか」

 あらゆる国は、全ての英雄を供出することが出来ない。

 超難度迷宮より魔物が這い出るのを阻止する人間が必要だからだ。各国の超難度迷宮保有数やそれぞれの位置に左右されるが、この戦争に駆り出されたのが全員ではない。

 エルソドシャラルからマギウスだけが来たのは、アークスバオナへの侵攻に対抗する為に英雄規格が不可欠だから。

 同様に、国土防衛の観点から、総員を投入することは不可能なのだ。

「言葉の意味が分からない馬鹿に見えるか?」

「……卿は、我が国に滅びろと!? 国土を魔物に侵されることを容認しろと言うのか! それでは仮に防衛戦争に勝利出来たとて、意味が無い!」

 先に問題点を明確にさせておくのは重要だ。

 これこれこうだから、あなたの策は通せません。それを言わせてしまえば、後はもう解決するだけ。

 問題点を解消すれば、断る理由が消滅する。

 幸助は懐から一本の杭を取り出し、掲げる。

「『蒼』を利用した魔法具だ。魔術的空間と現実の繋がりを一時的にだが『途絶』する」

 息を呑む音が幾重にも重なった。

「つ、つまり……」

「戦争中、超難度迷宮を閉ざすことは可能になる」

 場内が騒然とする。

 思いついたのは、エルマーを閉じ込めた悪領を見つけた後。

 千年など不可能だが、魔力供給を怠らなければそれなりに保つ。

 そして、この魔法具一つが生むアドバンテージはとてつもなく大きい。

 アークスバオナの戦力で戦争がこうも長く続いているのは、ダルトラと同じく土地が広大であるからというのがある。つまりそれだけ迷宮が散っているのだ。

 魔物は外に出ることが出来る。

 この性質は、戦争を遅延させる最大の要因でもある。

 国民を豊かにする為に争わねばならないが、国民を守る為には悪領を攻略せねばならない。

 特に超難度は他人任せには出来ない。英雄本人が出なければ。

 故にアークスバオナも、各国も全ての英雄を戦争に参加させることは出来ない。

 だが、幸助のこの魔法具があれば。

 貴族という魔力に優れた人種と、多くの来訪者を抱える国色、それに技術国家メレクトが合わさることで、大規模な『悪領封じ』が可能となる。

 それすなわち、全ての英雄の戦争投入可能を指し。

 各国が秘匿する英雄の数次第では、戦闘可能な英雄総数の逆転すらも有り得るのだ。

 絶望から一点、光明が指す。

「それと、ヘケロメタンの連合加盟を促す」

「――ッ! だが、彼の国は長らく鎖国状態で……」

「考えがあるんだ。それと、フィオとプラナは治せるよ。というか――」

 そして、会議室に二人の少女が入ってくる。

 ちょっとした演出だ。

「もう治した」

 空気というのは恐ろしいものだ。苛立っている者の側にいれば、自分に非がなくとも居心地が悪くなるように、容易に周囲へと感染する。

 敗戦濃厚。

 この考えが蔓延した空気を換気する必要があった。

 そして、それは半ば成功しつつある。

「だが、それでもなお勝てるのか? 今回のように色彩属性を複数投入されるようなことがあれば……」

「なら、その戦いは撤退すればいい。一つの戦場、一つの作戦に色彩属性を複数集めることが出来たなら、それはそれで充分な成果だろ」

 戦いは一つの場所だけで行われているわけではない。

 これは戦争なのだ。

 英雄といえど分裂は出来ない。グレアの『空間』とて完全無欠ではない。

 長距離を超高速で移動出来るのは精々グレア本人と竜の搭乗者のみ。そしてそれも、大陸中の戦場を瞬間的に駆け巡れるものではない。

 特別優秀な駒を複数も、一つの作戦に投入するということは、その分他が楽になるということだ。

 一つの戦場の戦力比べで負けることは、戦争の敗北には必ずしも繋がらない。

 むしろ、戦力的に及ばないながら敵の優秀な駒を引きつけることが出来たというのなら、戦果とさえ言えるだろう。

「それでも、アークスバオナは列強だ。戦争が長引けば泥沼化も考えられる」

「ロエルビナフとエルソドシャラルを獲られたらそうなるな。けど取り戻せば? 考えてみてくれ、奴らが掲げる大義は?」

「――ッ。痩地で民を満たすことが出来ず、各国が救いの手を差し伸べなかったから……」

「英雄は一騎当千だけど、戦場のほとんどを担当しているのは兵士だ。人間、飢えりゃ死ぬ。アークスバオナは確かに強いよ。でも、長期の戦争に耐えられない。ただでさえ痩せた土地で、戦争の長期化? ここから更にそんなことになったら、早晩食うものが尽きるよ。英雄だけが残っても、誰も何も食えないなら、それは国としてどうしようもなく負けだろう」

 アークスバオナが降伏を促すのも、王族の暗殺を試みたのもそれが理由だろう。

 彼らは強いが、どうしようもない弱点を抱えている。

 食糧問題は武力では解決出来ない。

 いや、それを武力で解決する為の侵略なのだ。

 だから、全力で阻止すればいい。

「擬似英雄と英雄をロエルビナフ及びエルソドシャラル奪還戦に投入する。後は各所で防衛戦だ。場合によってはこちらから攻めてもいい。戦場が増えれば、敵は英雄の投入先を吟味しなければならなくなる。限り有る英雄を」

 多分に希望的観測も含まれている言葉だ。全てが幸助の思い通りに運ぶなんてありえない。

 それでも、立ち止まりかけた連合の足を動かすには充分。

「この戦争は、勝てる戦争だ――皆が力を貸してくれるなら」

 数秒の沈黙。

 それを破ったのは、英雄達だ。

 口々に賛意を示してくれる。

 続くように幾つかの国の統帥者らが立ち上がり大きく頷いた。

 だが、全てではない。

「細かい条件などは後々詰めるとして、まだ聞き終えておりませんな? 責任をどうとるか、という点について」




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◇書籍版特設サイト◇
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◇ライドコミックスより1~4巻◇
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難攻不落の魔王城へようこそ


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