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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
【第三部《下》・英雄定義篇】復讐完遂者の人生二周目異世界譚-divergence fate-
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133◇黒きが黒きを、嗤いて問いて

 



「【黒喰・瀑布ばくふ】」

 エルマーから半月状の『黒』が無数に放たれる。

 応戦――する寸前で違和感。

 即座に中止し、幸助は『空間』を発動。

 『空間』属性による最大移動距離は、自身の魔力探知距離限界に依存する。

 魔法式の複雑さから、連続発動にはインターバルが生じてしまう。今の幸助の場合、三秒程か。

 上下左右が反転。

 悪領の天井に着地した幸助を、エルマーが愉快げに見上げる。

「正解だ侵入者! ご褒美は何が欲しい?」

 彼の『黒』は『容積あたりの併呑量』で幸助に大きく優越している。

 つまり、正面からぶつかり合えば、喰われて終わるということだ。

 そうでもなければ、馬鹿正直に『黒』を放ちなどしないだろう。

 それを察した幸助を褒めているつもりなのか、エルマーは納刀して拍手などを始める。

「人の顔で気持ち悪い表情をしないでほしいかな」

「ははっ、元より大した顔じゃあねぇだろう!」

 落ちる。

 そんな幸助に、エルマーは何もしてこない。

 着地。

「足を挫かず着地出来て偉いじゃねぇか」

「そうかい。なら次のご褒美で無駄口をやめてもらおうかね」

「そういうてめぇも、舌はよく回るじゃねぇか。頭はどうだったかな……よく思い出せねぇが」

 幸助が『精神汚染』に侵されている時の様子とも違う。これは進行具合によるものか。

 知性を失っている様子は無いが、理性的かと言われれば違う。粗野というのが適している。

「てめぇのことだ。気にはなっているんだろう。『精神汚染(コレ)』の正体。記憶が途切れるだけ? 凶暴性が増すってだけ? 本当にそうか? 教えてやるよ――違うぜ」

 斬り掛かろうとしていた体が、止まる。

 そもそも幸助を殺すつもりなら、問答は不要。

「……千年も話し相手に恵まれないと、お前みたいなお喋りになるのか?」

「つれねぇなぁ。未来の自分――この場合過去の自分か? まぁともかく、鏡に向かって悪態をつくようなもんだぜ。そう、意味がねぇ」

「鏡に向かってくだらねぇ褒め言葉を並べるのは有意義なのか?」

「揚げ足取りは楽しいかよ、侵入者くん」

 舌打ちを溢して、臨戦態勢のまま問う。

「話せ」

 エルマーは「偉そうに」とへらへら笑いながらも、語り出す。

「てめぇは、『黒』以外の色彩属性の中身を知ってるか?」

「……『白』は『否定』」

「そうだ。『蒼』は『途絶』、『紅』は『進行』、『翠』は『生命』って具合に続く。ここで問題だ。魔術属性を四つに分類すると、どうなる」

「……自然属性、事象属性、色彩属性――概念属性」

 特に概念属性は、神にのみ許され――。

「――まさか」

 幸助の反応を見て、エルマーは嬉しそうに手を広げる。

「そうだよ侵入者くん。明らかに重複してるよなぁ。色彩属性ってのは人に(、、、、、、、、、、)許された概念属性だ(、、、、、、、、、)

 そう、『黒』の『併呑』を含めた色彩属性の全てが、概念属性と言い換えることが出来る。

 何故最初から概念属性に分類しなかった?

 神と人とを明確に区別する為? もっと言えば――。

神化しんか防遏ぼうあつさ。色彩属性保持者が決して神格化されないように、どこまでいっても神という存在が上にいると人に認識させる為に、神がそう印象を操作した。あいつは存在に純粋な信仰を必要とするからな。……いや、違うか。あいつは寝てる筈だから、セフィ……神の子とやらがそう徹底付けたんだろう」

 彼の言っていることは、嘘ではないように感じた。

 そして、幸助には分かってしまう。

 次に、この話がどう繋がるか。

 神化の防遏。神から与えられた色彩属性への適性を持つ者が、その力で為した偉業を以って神に等しい信仰を集めることを危惧した神は、だから用意したのだ。

 ――神に至るより前に、人として狂う『代償』を。

「『黒』の末路は単純だ。『大事なものが大事でなくなる』。正義とか! 愛とか! 情とか! およそ正常で在る為に必要な全てに対する執着が消える。残った負の感情だけで動くようになれば、後は簡単だろ? こうなる(、、、、)ってわけだ」

 理解してしまう。

 全ては神が仕込んだもの。

 人に力は与えたい。けれど神に近づき過ぎては困る。

 だからといって直接的に殺せば、信仰に差し障る。

 そうして導き出されたのが、『各々別々の方法で狂わせ、人によって処分させること』。

 数が少ないからと言って、全ての色彩属性保持者が同じように狂っては、やはり神が疑われる。

 だから、『黒』の場合は『精神汚染』で負の面を強調させ、『白』の場合は『記憶落丁』で空っぽの人間にする。他の色彩属性保持者も、それぞれに用意された末路があるのだろう。

 全ては、アークレアの人々を救う為。

 だから――異界の死者を連れて来るのだ。

「なぁ! こんな世界、助ける理由があるか! 俺達の! お前達の犠牲が無けりゃあ立ち行かない世界の為に、どうして命を懸ける! 理解すりゃあ、ここまで無駄なこともねぇだろう!」

 あぁ、まったくその通りだ。

 不幸な目に遭った人間を選りすぐって転生させる。

 そして、魔物退治など、大陸の安寧の為に利用する。

 エルマーに至っては、世界に使い捨てられたようなものだ。

 その絶望と瞋恚、察するに余りある。

 だが――。

「トワがいるんだ」

「――――」

 エルマーの笑みが固まった。

 頭痛を堪えるように、顔を押さえる。

「おい、侵入者。待て、黙れ」

「逢えたんだよ。この世界で。アークレアの神にどんな考えがあるんだとしても、そいつがいなかったら、トワは不幸な少女で終わったままだったんだ」

「それ以上、こいつ(、、、)に聞かせるな!」

「この世界に飛ばされたから、あいつはまた笑えるんだ。今度は守れる。それにさ、神の考えなんてどうでもいいだろ。好きな奴らがいるから、守るために戦う。お前もそうだったんじゃないのか」

 エルマーは焦っている。

 そもそも何故、彼はこんな話をしたのか。彼が言うには、負の感情しか残っていない筈なのに。

 神への恨みを言い募りたかった? そうかもしれない。

 幸助の絶望する顔を見たかった? 大いに有り得る。

 けれど、幸助は違うと思う。

「ぐだぐだうるせぇよ! それはてめぇの話だろうが! 俺の世界は、もう終わった! とっくの昔に、閉ざされたんだよ!」

 そう。だから、終わったのに、生きているから。

 神の呪いと判じられぬ為、自身で自身を殺すことも許されていないから。

 もうどうしようもないと幸助に思わせて。諦めさせて。

 ――殺してほしかったのではないか。

 そして、今焦っているのは。

「セツナはどうする。お前に千年も付き合ってる彼女の人生も、無駄か?」

「黙れって言ってんのが、聞こえねぇかッ!」

 エルマーが凄まじい速度で幸助に迫る。幸助のまがい物とは違う、正真正銘の居合抜きが――閃くことは無かった。

「…………クソ猫、てめぇ」

 セツナが幸助とエルマーの間に、立ち塞がっていたからだ。

 刃は、彼女の首を刎ねる寸前で止まっている。

「……こうすけさんを、返してもらう」

「ふざけんな! そもそもあいつが壊れきれねぇのも、てめぇがいるからなんだぞ! てめぇがあいつの苦しみを千年分長引かせてんだよ!」

 『精神汚染』から戻って来る為に必要なもの。

 幸福を意識させるもの。

 千年も寄り添う従者の忠誠が、エルマーを時折正常に戻した要因。

 彼が焦っているのは、トワや過去の戦う理由などを示されることで、エルマーの正常が戻ること。

 汚染された精神は、死を望んでいる。

 故に、元の人格への回帰を拒む。

「……そうだとしても。わたしはせめて、こうすけさんに、こうすけさんとして……終わってほしい」

 エルマーが刀を取り零す。

 もはや頭痛に耐えられないとばかりに膝を屈する。

「……莫迦共が。てめぇら自身がより苦痛に苛まれる道を選びやがって」 

 そうして、狂気が一時的に鎮まり。

「…………セツナ?」

 もう一人の黒野幸助、最期の時間が始まる。




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◇書籍版(GCノベルズより1~4巻)
◇書籍版特設サイト◇
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◇ライドコミックスより1~4巻◇
◇コミックライド作品ページ◇
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↓他連載作です。よろしければどうぞ↓ ◇朝のこない世界で兄妹が最強と太陽奪還を目指す話(オーバーラップ文庫にて書籍化予定)◇
たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても
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◇勇者パーティを追い出された黒魔導士が魔王軍に入る話(GAノベルにて書籍化&コミカライズ)◇
難攻不落の魔王城へようこそ


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