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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
【第三部《下》・英雄定義篇】復讐完遂者の人生二周目異世界譚-divergence fate-
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132◇鏡写しと言うには違い過ぎて

 



 はっ、と息が漏れる。

 閲覧の終了と共に、自分が息を止めていたのだと気付いた。正確には、息をするのも忘れて過去に没入してしまった。他人と呼ぶには、あまりに近過ぎる存在の末路に、己を重ねてしまったのだ。

「…………ふっ」セツナは自嘲するように、乾いた笑いを溢す。「笑えるだろう。これが、世界を救った者の末路だよ。いつだか、彼が言っていた。英雄とは生贄のようなものだと。神に捧げられ、人々の幸福の為に消費される。なるほど確かに、こうすけさんはどうしようもなく英雄だったようだ。あなたも、そう思うかな……?」

 エルマーは英雄だった。それは間違いがない。

 英雄達の行いも、理解こそ出来るが到底許せるものではない。

 だが、幸助はそれによって繋がった現在、その力を手に入れようとしている。

 果たして、糾弾する資格など有るのだろうか。

 そして、それとは別に。

 幸助は、強大な違和感に襲われていた。

 ――状況が、似ている。

 悪神を討伐する為に人類が協力しあい、魔物と戦った過去。

 アークスバオナを打倒する為に各国が協力しあい、帝国と戦う現在。

 『黒』が率い、保持者は精神汚染を抱える。

 だとすれば、自分の未来もまた(、、、、、、、、)――。

 かぶりを振る。今考えるべきことではないだろう。

「色々気になることはあるが……一ついいか」

「……あぁ。わたしに答えられることなら」

「――エルマーって、俺より年上っぽいな?」

 映像の中のエルマーは、幸助より幾分年を重ねているように見えたのだ。

 セツナは一瞬、ぽかんと口を半開きにした。

 それから、呆れるように肩を揺らす。

「……第一にそれか、まったく。そうだよ、こうすけさんは二十三歳だ。あなたは若いな。十八の時のこうすけさんにそっくりだ」

「そのままずばり十八歳の幸助さんだよ。なに、年単位で見た目変わるようなやつだったの?」

「? なにを言っている。主の変化はミリ単位の散髪や装飾具一つの増減まで、従者として気付いて当たり前のことだろうに」

 そうなのだろうか。

 突っ込むべきではないと判断して、幸助はスルーの方向で進める。

 ともかく、エルマーは幸助より五年程長く来訪者として過ごしたようだ。

「クローズの言っていた開放条件が満ちた時に、お前やエルマーが外に出ることは?」

「外の気配を感じることが何度かあったが、無理だった。ずっと此処に引っ張られるような感覚があって……でも、わたしのそれは、先程消えた」

「……なら、エルマーを魔術的に留める魔法だったんだろう」

 そんな彼と繋がっていた彼女だから同じく閉じ込められ、幸助がそれを断ち切ったことで解放された。

「ということは、わたしは外に出られるのか…………不思議なことに、欠片も喜びが湧かないよ」

 不思議でもなんでもない。

 主を置いて得られる自由に、彼女が喜びを見い出せるわけがない。

 そんなこと、関係の浅い幸助にだって分かった。

「それで、これを見せて何を教えたかったんだ?」

「あの人が、あなたなんかより余程すごい人だということ」

「……あぁ、そうかい」

 渋面を作る幸助を見て、セツナがくすりと、弱々しくはあるが微笑む。

「冗談だよ。嘘ではないけれど、冗談。知っておいてほしかっただけなんだ。これが、あなたと違うのだとしても、『黒野幸助の末路』だということを」

「……そう、だな」

「あの人を倒して、外にいる何かを打倒したとて、待っているのは同じ末路かもしれない……」

「心配してくれてるのか? 俺は、エルマーじゃないのに」

 幸助の言葉に、セツナは不服そうに片頬を膨らませる。

「馬鹿を言え。誰があなたの心配など……。あなたが不幸に見舞われれば、トワ様が悲しまれるだろう。それを憂慮しているに過ぎない。勘違いしているようなら言っておくが、わたしはあなたとこうすけさんを混合してなどいないし、投影もしていない。なにせ、まったく、これっぽっちも、欠片一つ分でさえ、あなたとこうすけさんは似ていないのだから」

「……いや、さっき十八の時のにそっくりだって」

「似 て い な い」

「……そうですか」

 張り合ってもしょうがないので、幸助は折れることにした。

「それと……こんなことを頼むのは気が引けるんだが」

 それを口にする前に、彼女は頷く。

「あぁ、いいよ。こうすけさんの戦い方の情報が欲しいんだろう。見るといい」

 さすがエルマーの従者、理解がはやい。

「――だが、それ以外は見るなよ。いいな?」

「プライバシーくらい守る」

「それと、戦闘情報をいくら取り込んでも、あなたではこうすけさんに勝てないだろう」

「さっきも言ってたけど、そこまでか?」

「当たり前だ。五年後のあなたに、悪神の力を加えた人間だぞ。どうして今のあなたが勝てると思う」

 グレアの言葉を思い出す。

 時が足りない。幸助が弱いのではなく、幸助よりも強い人間がいるという当たり前の現実。

 それを覆すには、策が必要だ。

「わたしから、提案がある」

 そして――。


    ◇


 幸助は一人、扉をくぐった。

 先程の空間と同じ造り、同じ広さ。

 その中央に、【黒纏】を纏った男が立っている。

「おやぁ? どっかで見たようなツラをしてるなぁ、侵入者くん」

「だとしたら、鏡とかじゃねぇか、エルマー」

 身長は少しだけ向こうが高い。体格も優れている、鍛えたのだろう。左耳に黒いピアス。表情は挑発的で、浮薄な印象を受ける。

「ははっ。なんだよおい、よりにもよってそうくるか(、、、、、)。ったく趣味がわりぃよな。どうしようもねぇよ、本当に」

 腰に差しているの剣は、鞘などからして日本刀のように見える。

 エルマーは後頭部をぼりぼり掻きながら、無遠慮に近づいてきた。

「なぁ、侵入者くん。無駄だぞ、全部」

「あ?」

お前の順番になるだけ(、、、、、、、、、、)()。救う価値なんざねぇぞ」

「お前、誰だ?」

 幸助の言葉に、エルマーの姿をした男が固まる。

「……分かってねぇなぁ。いや、分かってて言ってんのか。俺は黒野幸助だよ。精神汚染が進み、人が善性と呼ぶ愚かしさを失った、ただの黒野幸助だ」

「そうかよ。自分が馬鹿みたいな罠に嵌ったからって、それで救ったものを全部無駄とか言うなんて、精神汚染とはよく言ったもんだなぁ。汚れに、染まりきってるみたいだ」

「馬鹿はてめぇだ。せめて未来の自分を反面教師にしようとは思わねぇのか」

「俺の選択は全部、二度と後悔しない為のものだろ。それを嘆くなら、お前はもう俺じゃねぇよ」

「……そうかい。まったくの他人なら? 心配してやる義理も――ねぇよなッ!」

 エルマーの姿が掻き消える。

 幸助は後方へ振り返りつつ抜剣、居合の要領で切り上げを放つ。

 その一撃は、真後ろに出現したエルマーの右腕を断裁した。

それはもう視た(、、、、、、、)

 そして飛んだ右腕を『併呑』。

 

 ――適性魔術属性に『空間』『時間』が追加されました。


 と始まり、多くを獲得する。

「……クソ猫の入れ知恵か。主人を裏切るとはな、とんだビッチを側に置いちまったもんだよ」

「ほざくなよ。てめぇが主人じゃねぇってだけのことだろうが」

「あはは、そうかい。ところで侵入者くん、左腕はもう要らないのかい?」

 見れば、幸助の左腕が地面に落ちていた。

 彼の左腕には黒い曲刀が握られている。

「莫迦みてぇに時間だけはあった。そりゃあ器用にもなるだろうて。そうだろう?」

 互いに切断された腕を再生する。

「その時間、俺が貰い受ける」

「他人にタダでくれてやるにゃあ、ちょいと価値がありすぎるもんでな。欲しけりゃ奪ってみるといい。お前さんにそれが出来るとは、思わねぇけどよ」

 瞬間、双方から『黒』が迸る。




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◇ライドコミックスより1~4巻◇
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