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12◇攻略者、疾走ス

 



 幸助は駆け出す。

 シロを置き去りにしないようにするのは、気を遣った。

 八層を数分で踏破し、九層にて戦闘音を探知。

 マンティコアらしき魔物が視界に映る。

 幸助の視力というより“眼”は転生後の補正によって進化しており、遠視も可能となっていた。

 それによって、遥か前方の戦闘を、捉える。

 隣のシロも目視範囲に入ったようだが、同時に叫ぶ。

「クレセンメメオス!? クロ、あれは不味いよ! 魔法具持ちだ!」

 魔物の中には、体内に魔法具を埋め込まれたものもいる。

 奴らは非常に強力であるが、討伐に成功すれば、その魔法具を入手出来る。

 魔法具持ちと、最下層に控える守護者と呼ばれる魔物は、難度に関わらず脅威とされていた。

 そのようなことも、シロは攻略中、話してくれた。

「幾らクロでも、レベル1じゃ倒せるかわからない!」

 その顔は、幸助を心から慮っていることが窺える程、切実なもの。

 それでも、立ち止まることは出来ない。

 しようとも、思わない。

「大丈夫だ。さっき確認したら、2になってた」

「そういう問題じゃ、あ、もう!」

「シロはそこで待ってろ」

 シロに出せない速度で駆ける。

 彼女が声を上げたが、無視だ。

 人の顔をした四足歩行の獣が、ボロ布を纏っただけの少年を爪で引き裂き、丁寧に口で迎えた。

 咀嚼し、その中年めいた顔面を、悦楽に震わせる。

「ディ、リ、しゃアああ」

 美味しい、とでも言っているようだった。

 周囲には無数の血痕と、身体のパーツが転がっていた。

 生存者は、三名。

 一番身なりのいい青年が貴族だろう。

 焦りながらも、笑っている。

「魔法具持ちだ! は、はは! こいつを殺せば、私を愚弄した者共を見返すことが出来る! おい! 私が魔法を組む! その無価値な命を懸けて時間を稼げ!」

 残った奴隷、幼女と童子が、震えながらもクレセンメメオスに立ち向かう。

「ア、ンンンンん、よ? アンンンン、ヨ?」

 少年が水魔法を使った。

 サッカーボール程の水球が、出来上がり、やつを襲う。

 しかし、欠片ほども堪えた様子は見られない。

「ンフフフッッフ、ゼァら、ぼあんぬぁ?」

 顔に掛かった水を、クレセンメメオスはくすぐったそうに前足で拭う。

 そして、そのまま少年を殴った。

 少年の腹部が破裂し、内容物が漏れる。

「ディ、デぃ、リ、しゃあアぁ」

 クレセンメメオスが、腸を、まるで人間が麺類にするかの如く、ずずず、と啜った。

 内蔵を食べてから、骨を食む。

 残りは豪快に掻き込み、咀嚼した。

 食事は、ゆっくりと楽しむ派らしい。

 残る奴隷は一人。

 奴が食事を終え、童女へと視線を移した。

「あと少しだ奴隷! あと数秒保たせてから死ね!」

 あぁ、あのクズは、殺さなければダメだ。

 幸助はそう確信したが、その前にやらねばならないことがあった。

 クレセンメメオスが前足を振り上げる。

 今度はミンチにして喰うつもりらしい。

 童女が目を瞑った。

「【悪神断つ刃と成れ[スラックラー・ヘイズ]】ッ!!!」

 颶風が如き速度で駆ける。

 童女が押し潰される――寸前。

「さ、せる、かァァアアア!!」

 速度を利用した斬撃で、クレセンメメオスの前足へと斬撃を見舞った。

「………………え」

 というのは、奴隷の童女から発せられた声だ。

 確定した死を覆されもすれば、声くらい上げたって当然。

 幸助は左腕に童女を抱えざま、クレセンメメオスの左前足を切断した。

 血の雨が降るも、それを超える速度で移動。

「ん、なァ? いぎ、イぃギ、ンがァ、ア、亜亜亜亜亜亜亜亜ァアアアアアアアアアア!!」

 大気を揺るがす咆哮。

 痛覚への刺激か、あるいは闖入者への怒りか。

 ふと見ると、刃が半ばから折れていた。

 強度を上げ忘れていたので、当然と言えば当然だ。

 幸助は折れた直剣を捨てる。

「ふ、ふざけるなぁ!」

 と、そこで、叫ぶ者がいた。

 金髪の、青年貴族だ。

 魔法の準備とやらは整っているのかいないのか、血相を変えて喚き散らす。

「き、きさ、貴様! 私の手柄を奪うつもりか! このサークリファイ・グランデ=フィナルグジレンか――ッ」

 長々しい名前を最後まで聞くことは出来なかった。

 奴が上半身をクレセンメメオスに捕食されたからだ。

 腕を斬られたとあってか、食事を楽しむ余裕は無くなってしまったらしく、青年貴族の下半身も間もなくクレセンメメオスの胃の中へ消える。

 すると、たちまち奴の前足が再生した。

「クロ、奴隷助けた!? じゃあ逃げよう!」

 近くまで来たシロが言う。

「いや、残る。こいつを見ててくれるか?」

「は、はぁ? なんで!? 一緒に逃げよう! こいつは別格なんだって!」

「殺そうと思った相手を殺された。それに、悪気が無くても、こいつが人間を喰うのを、俺は見たんだ」

「…………キミ、もしかして、結構バカ?」

「かもな。ガキを頼んだぞ」

「ちょっ、少しはあたしの言うこときいてくんない!?」

 言いつつ、きっと彼女は奴隷を護ってくれる筈だ。

「なぁ、オッサン顔、わかるだろ、俺、魔力高いぞ? 美味そうか? 喰ってみろよ――その前に俺がお前を殺すけどな」



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