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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
【第三部《上》・英雄定義篇】英雄連合、集いて和衷協同を誓う
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100◇黒の英雄、忿懣ス

 



 幸助の『黒』が特例中の特例なのであって、普通の人間は生きている間に魔術適性を新たに開花させることが出来ない。

 両親の持つものの内からどれかが遺伝するらしく、遺伝形質に分類されるものだ。

 来訪者の場合は転生時の『存在情報の組み換え』によって与えられるのか、あるいは知らないだけでもといた世界でも魔法は使えたのか。

 どちらにしろ『黒』を持つ者にとっては獲得形質であるが、それ以外の人間にとっては違う。

 英雄と言えど、決まった手札でどう戦うかを模索することしか出来ないのだ。

 さて、ストックの魔法はどんなものなのだろうと考えていると――来た。

 幸助は咄嗟に一つの魔法を発動し、一つの動作を行う。

 自身の背後に一メートル程の『黒』い壁を展開し。

 不壊の宝剣『黒士無双』を半ばまで抜いた。

 それは同時に進行し、そこへストックの魔法が炸裂する。

 背後の『黒』からじゅっと液体が一瞬で蒸発するような音が聞こえてくる。

 光線……レーザーだ。

 僅かに『併呑』した分から解析すると、今の攻撃は『光』属性らしい。

「……驚いたな。これを初見で防いだのは貴殿が初めてだ」

 ストックは驚いたように、それでいて悔しげに表情を歪めた。

 確かにそれも尤もだろう。

 一秒で地球を七周半する速度の攻撃だ。

 回避なり防御なり可能な方がおかしい。

 幸助は内心驚嘆していた。

 自分が対応出来たのは、英雄だったからに過ぎない。

 ストックの魔法が発動される手順はこうだ。

 まずは空中に砲門を設置する。無論比喩で、光の発射位置を定める行程を指す。

 一撃に際し用意される砲門は四つ。一つ一つはものを傷つけられる程ではない。

 その四つそれぞれから放たれる光線の軌道は、丁度対象との接触面で重なるよう調整されている。

 例えば相手が魔法を反射出来た場合でも、無力な光が分散するだけ。

 例えば相手が魔法を回避出来た場合でも、想定された接触面を過ぎた光はまた別の軌道を描く為に他の何を傷つけることも無い。

 加えて言えば砲門一つずつに『囲繞いじょう』属性魔法を掛けることで発射直前まで魔力感知を封じる。

 『囲繞』属性は主に魔力漏れを防ぐ皮膜を創る事象属性だ。

 幸助の知っているもので言えば【我其の衣纏いしクラヴェリ・ウェリア】が有名だろう。

 このレーザー魔法、発射以前に軌道指定をしなければならない。

 つまりこういうことだ。

 ストックは対象以外を傷つけない為だけに魔法式を複雑化し、それでいて『魔弾』などと称される程の精度で魔法を操る。

 同じ『光』関連でも、『暁の英雄』ライクとは雲泥の差だ。

 彼は力に呑まれ、制御などということを一切考慮しなかった。

 その大規模魔法で周囲を焦土に変えられるのは確かに強力だが、使い所も限られる。

 しかしストックの魔法はどうだ。

 戦いはすれど、周囲を害さず。

 彼の真面目さが反映されたような、それでいて有用な力と言える。

 美学と実利を両立したその魔法が、いかなる修錬の果てに実現したか考えるだけで身が震える。

 それでも辛うじて幸助が反応出来たのは何故か。

 それは『魔弾』が完璧過ぎたから。

 魔力漏れを防ぐということは、該当箇所から魔力を感じなくなるということだ。

 だが大気中にも魔力は含まれる。

 四つで一セットの砲門が二セット。

 砂粒程の違和感であるが、幸助の知覚はそれを探知した。

 突如空気中の魔力が途切れたことから推測し、発射の寸前に防御が間に合った。

 微細な違和感を拾う知覚も、もといた世界の知識を引き出せるだけの思考速度も、結論を即行動に移せる身体能力も、全ては英雄だからなせること。

 面白い奴という評価は変わらない。

 だが新たに、凄い奴と幸助は認めた。

 しかしそれをおくびにも出さず、唇を吊り上げる。

「男の初めて(、、、)なんか貰っても嬉しくないな」

 幸助の言葉に、ストックは不快気に眉を寄せた。

「……相変わらずふざけた男だ。何故貴殿のような者が女性に好かれるのか理解に苦しむ」

「さぁ、真面目くんよりは何するか分かんなくて面白いからじゃないか?」

「誠実であることを欠点のように言うのはやめ給え」

「真面目と退屈って、結構近いところにある言葉だと思うけどなぁ」

 幸助は内心で願っていた。

 もっとだ。もっと本気になってくれ、と。

 彼の攻撃は『当たっても死なない箇所』を狙って放たれていた。

 それは模擬戦ということを考えれば当然の配慮で、そこにも彼の真面目さが滲み出ている。

 けれど、それじゃあ――面白くない。

 死にたいわけではないのだ。

 ただ、競えることが嬉しい。

 ゲームでもそうだろう。弱い敵をぷちぷち潰すのも最初は気持ちいいかもしれないが、それだけをやれと言われたらすぐに飽きる。

 幸助はRPGでボス戦を必要レベル以下で挑むのが好きだった。

 勝てるか勝てないか分からないから、勝負は楽しいのだ。

 幸助のステータスでは、もはや英雄でなければ相手にならない。

 敵国の英雄やダンジョンの魔法具持ちでは殺し合いになってしまう。

 純粋な勝負の高揚を味わえるのは、本当に貴重なのだった。

 だからこそ、自分に配慮してほしくない。

 器を計る為の勝負だからとか、万が一殺してしまったらとか。

 そんなことは考えてほしくなかった。

 ただ勝つ為に動けよ。

 それを言葉で言うのではなく、そうせざるを得ないような精神状態にする。

 それが挑発の目的だった。

 目論見通りと言えばいいか、ストックの表情に険が走る。

「…………貴殿は、アークレアに転生する者の最低基準を知っているか」

「『不幸』だろ。それがどうした」

「いやなに、不思議に思っただけだ。転生後すぐに節操無く放蕩し、思うままに振る舞う貴殿の不幸とはどれだけくだらないもの(、、、、、、)だったのだろうか、とな」

「――――」

 幸助の表情が固まる。

 あぁ、確かに先に挑発したのは自分だ。

 ストックは言い返しただけ。

 幸助の主観でどうだろうと、他人がどう捉えるかは他人の自由。

 だから幸助がこの世界で笑顔でいるのを見て、『転生して日が浅いのにそんな態度ってことはよほどどうでもいい不幸だったのだろう』と思われても、仕方が無い。

 大した境遇でも無い人間が英雄クラスのステータスを発揮するわけもないのだが、安い挑発としては充分な文言だろう。

 だが、それを理解していても幸助は堪え切れなかった。

「……あはは、こっちから挑発しておいて何言ってんだって感じなんだけど、言わせてくれ」

 幸助の全身から『黒』が噴出する。

 それは甲冑のように幸助を包み込んだ。

「人の不幸の軽重けいじゅうを、お前が決めるなよ」

 ストック自身、幸助を本気にさせる為に言ったのだとすれば大成功だ。

 青年は怖じることなく眼鏡の位置を直す。

「ふむ……。ではこうしようではないか。負けた方が謝罪する」

 ヘルム越しに、幸助は笑った。

「いいな、そうしよう」




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