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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
【第三部《上》・英雄定義篇】英雄連合、集いて和衷協同を誓う
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97◇英雄、狐疑ス

 



 その後、会議はつつがなく終了した。

 終了と同時に空気が弛緩する。

 背もたれに背を預けたり、伸びをしたりする者もいた。

 そんな中、宗教国家ゲドゥンドラの英雄――彼らに合わせた呼称を用いるなら修道騎士――の一人が「うぉ~、それにしても俺ちゃん疲れたよ」と気の抜けた声を出す。

 これには幸助を含む多くの英雄が少々驚いた。

 全員口が利けないと言われても納得してしまう程、会議中の彼らは沈黙を貫いていたからだ。

 宗教国家ゲドゥンドラ所属、『神罰の修道騎士』アルヴァート。

 彼はクロブークめいた帽子を外し、指に引っ掛けてくるくると回し始める。

「いやぁ、正直なに? 針のむしろ? そんな感じで辛かったよほんと。皆がシリアスな中俺ちゃん達だけだんまり。今更だけどごめんね~」

 たった二度口を開いただけで、その軽佻浮薄な中身が透けて見えるようだった。

 『神罰』という厳粛な言葉に、それを冠する英雄がこうもそぐわないとは。

 ダンディな印象を受ける二枚目の男だった。

 年齢は三十には達しているだろう。

 灰を被ったような白い髪。後ろ髪は肩に掛かる程あるが、長い前髪ごと後ろで一纏めに結われている。俳優というよりは、元人気ホストといった風情だ。

 キースのは無精髭だが、アルヴァートのそれは切り整えられていて清潔感すら感じる。

 橙色の瞳と目が合うと、彼はウィンクしてみせた。そこらのご婦人ならそれだけて落とせそうな仕草である。

「だんまりってことは、全員喋れないってわけじゃないんだな」

「あはは、面白いこと言うねぇクロちゃん。んなわけないっしょ~」

 あまりにも軽い調子で言うので些細なことのように聞こえてしまうが、そうではない筈だ。

「なら、理由を聞かせてもらえると助かるんだが」

 幸助の言葉に答えたのは、アルヴァートでは無かった。

 冷たい光沢を放つ翠玉の瞳。耳が隠れる程の金の毛髪。透き通るような白磁の肌。

 あまりにも整い過ぎていて、精巧な人形なのではと思う程の美貌。

 宗教国家ゲドゥンドラ所属、『剣戟の修道騎士』アリエル。

 彼女は双剣使いなのだろうか、左右に一振りずつ帯剣している。

「我ら聖アークレア騎士団は神の代行者なれば、矛先を自らの手で選ぶことは出来よう筈もなく。……例え背神者(はいしんしゃ)と言えど、(しゅ)は殺人を是とは仰らないのですよ」

 アークレア神教は拝一神教だ。

 神と悪神がいて、前者が善で後者が悪。そして対立している。

 ただ、神にも悪神にもそれぞれ十一の名前がある。

 これは無理やり人間の理解出来る範囲で説明するなら、多重人格というのがわかりやすいだろう。

 神にも悪神にも十一の側面があり、十一の姿があり、十一の能力があるというのだ。

 あくまで、存在自体は一つずつである。

 神は十一の在り方全てで人間同士の争いを禁じている。

 ただ、これは解釈の問題なのだが、自衛は禁じていない。

 同時に大陸の平和を祈っている。

 そこから聖教軍――アリエルが言うには聖アークレア騎士団――が現状とれる選択は自衛の為の軍事行動が限界なのだ。

 同盟相手であるダルトラを護る為という名目で来ているのだから、『どうやってアークスバオナを倒すか』という話し合い、つまり人間同士の争いに率先して関与するわけにはいかなかったということだろう。

 詭弁というか屁理屈というか、どうにも無理があるように思うが、セーフらしい。

 その点に文句をつけてもしょうがないので、幸助は受け入れることにした。

「……そういうことならわかった。出席してくれただけありがたいよ」

 残りの二人は依然沈黙を貫いている。

「ところで『黒』の旦那」

 キースが立ち上がり、やはり髭の生えた顎を撫でながら言う。

「皆の気持ちを代弁して、訊きたいことがあるんだがいいか?」

「あぁ、俺に答えられることなら」

「――旦那は、本当に俺達を率いる程強いのかね?」

 試すような視線に、幸助は凶悪な笑みを返す。

 想定内の発言だ。

 むしろ待っていたと言っていい。

 リガルと違い、幸助には信頼を得る為の実績や経験が無い。

 あるのは『黒の英雄』の看板と、幾つかの功績。

 それだって、此処に英雄しかいないことを考えればとてもではないが実績とは言えない。

 盟主所属の英雄という以外に、自分達が従う何かをお前は持っているのか。

 そう訊かれているのだ。

 当たり前の疑問だろう。

 誰だって、従うなら自分の認めた人間の方がいい。

 柔和で頼りになる上司と、陰険で意地の悪い上司がいて、どちらとの仕事が能力を発揮出来るかといえば前者だろう。

 人間には感情があるのだから、どうしてもやる気は環境に左右される。

 幸助は、英雄達を率いるの足る器の持ち主なのか。

 教えてくれよと、キースは言っている。

「どうかな。どうすればそれを証明出来る?」

 今度は幸助がキースを試すように見る。

 キースもまた、牙を剥くように笑った。

「かかっ。他の奴らは知らねぇがな、おれに限って言えば単純よ。言葉はいらん、力で語ろうや」

 そんなことをしている場合かという意見もあがりそうだが、これは大切なことだった。

 重要な場面で、信頼を得ていない人間の言葉は重みを持たない。

 その重みを、決闘の勝利で得られるというのなら安いものだろう。

「いいよ、やろう。キース以外はどうする?」

 追加で対戦相手に立候補したのはストックとオーレリアだ。

 他の英雄は決闘そのものを挑む様子は無かったが、興味が無いわけでもないらしい。

 退室せず、幸助の言葉を待っている。

「皆の予定が空いてるなら、今からにしよう。演習場を借りる」

 それにこれは良い機会だ。

 他国の英雄の力を垣間見ることが出来るのだから。

 あわよくば、『黒』を我が物にすることも出来るかもしれない。

 断る理由が無かった。

 



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