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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
【第三部《上》・英雄定義篇】英雄連合、集いて和衷協同を誓う
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96◇英雄連合、理解ス

 



 一同が眉を顰め、ほぼ同時に瞠目した。

 英雄国家ダルトラ。

 その由来は、現在多数の英雄を抱えているから、ではない。

 順序が逆だ。

 神の子が王となり興した国家、そこに英雄が仕えたのだ。

 広大な土地を得、それに伴い多くの神殿を領土内に有することで多くの来訪者を獲得するに至った。

 その英雄達の末裔は、今もなお国家の枢要な位置についている。

 貴族と、身分を変えて。

「英雄国家ダルトラ……――確かに貴族や来訪者ならば魔力堆に注入するだけの魔力は有している。だがそれでも問題は二つ残る! 肝心要の魔力堆をどう用意したか! そして発動はともかく、結局そのやり方では維持がままならないということだ! その点どう対処したというのだ、聞かせ給えよナノランスロット殿!」

 ストックが叫び、それによってプラナがハッと目を開いた。やはり寝ていたようだ。

 想定していた疑問なので、答えるのはそう難しくなかった。

「ダルトラでは魔力堆の製造を許可されている家が一つしかない。知ってるかな、ガンオルゲリューズ商会っていうんだが」

「『燿の英雄』を祖に持つ貴族家っすね。確か二代前に商いに手を出して瞬く間に成功を収めてた筈っす。成功の要因の一つに、当時グラカラドック家が運営していた学院との提携による魔法具の受注と製造があったとか。それまでメレクトに頼りきりだった魔法具製造がガンオルゲリューズの形振り構わない努力によって自国でもそれなりに賄えるようになった。王室はその功を称え、ガンオルゲリューズのみに魔力堆の製造、販売を許可したんすよね?」

 ガンオルゲリューズ家というのは、プラスの実家だ。

 彼らもまた貴族家なので英雄の狂気に取り憑かれているのかもしれないが、直接戦う力を持たずともどうにか国家に貢献しようと奔走した彼女の曽祖父母を、幸助は尊敬する。

「そのガンオルゲリューズ商会が持つ全ての魔力堆を国が買い上げた」

「そりゃまた豪気っすねー。でも魔力堆を搭載した魔法具の購入層が貴族である以上、そんな大量には用意されてないんじゃないっすか?」

「だから、既に売れている分も回収した。貴族達のほとんどは、自主的に提出してくれたよ。あいつらは英雄の末裔で、英雄は国に奉仕する生き物らしいから」

 貴族が英雄であることに取り憑かれているなら、扱うのもまた容易い。

 そうするのが国の為だと思わせればいいのだ。

「…………だがナノランスロット、魔法具への魔力供給はどうする」

 シオンは疑っているというより、答えを教えてくれとでも言いたげにこちらを見た。

「少し話が変わるが、皆はグラスのメッセージ送受信の仕組みを知ってるか?」

 シオンは怪訝そうな顔をした。

 幸助の声に反応して、フィオが「はいはーい! フィオわかりまーす!」と手を挙げる。

 挙手の必要は別に無いのだが、幸助は「あぁ、じゃあフィオ」とそのまま進めることにした。

「アークレアの大気中には魔力が含まれているのは常識だよね。魔物が何も食べないで生きていけるのも悪領内の魔力を栄養素に変換出来るから。空気は天然の魔導体なんだ。魔力を通す性質があるってことだねー。じゃなきゃ魔法の効力が毎回損なわれちゃう。グラスの基本機能は魔術適性を持たない人間の魔力量でも十全に行使出来るよう作られてるんだけどー、通信だけはそうはいかないんだよねー」

 花束から一本抜き出し、それをペン回しの要領で弄びながら、フィオは続ける。

「文字データの魔素化までは常人の体内魔力でも出来るけど、それを特定の人物の許へ届けるとなると、探知を行って指向性を持たせなくちゃいけなくなるから無理。魔法の領域になっちゃう。いくら空気中の魔力の通りが良くても、届けるすべが普通の人には無いんだぁ」

 フィオの目はきらきらしていた。

 他の英雄達もフィオを半ば脳みその面でお荷物だと思っていたようで、何が起こっているのか分からないという顔をしている。

 同国の英雄キースだけは「……常にこうだと助かるんだがな」と苦笑していた。

 そういえば、もといた世界でも芸人やバンドマンなどで高学歴な者はいた。

 エンターテイナーやクリエイターは得意分野以外の面で何かしら欠落したものがあると思われがちだが、そうでない者も多くいる。

 天然キャラで売っているアイドルや、刺激的な詩を書く作詞家の知能が高いことはよくある。

 理性と知性は、厳密には違うのだと幸助は強く思わされた。

「じゃあどうやってメッセージが送られるかというと、着用者の送信動作を確認すると、グラスは魔素に暗号化処理を施してポンっと空気中に放るの。それを基地局がキャッチして、想定受信者の登録情報を確認。確認出来たら基地局から魔導ケーブルを辿って、想定受信者に最も近い基地局へ送る。その基地局から、指向性を持った魔力波が放たれて、想定受信者のグラスに届いた場合だけ暗号化が解けるって仕組みなんだよねー!」

 フィオは「褒めて褒めて!」とばかりに物欲しい顔つきで幸助を見つめた。

「……さすがメレクトの英雄だな。すごく分かりやすかったよ」

 フィオは「やったー!」とばんざいし、キースに自慢し始める。

 やはりフィオはフィオのようだ。

 細部に違いはあるだろうが、概ね携帯電話が繋がる理屈と同じと捉えて問題ないだろう。

 翻訳魔法が送信者、受信者、基地局を適切な語として変換したのだから、そういう認識でいい筈だ。

 そうなってくると必然、圏外領域というものが出てくる。

 その場合、グラスの通信機能は当然使えなくなるらしい。

 それでも体内魔力で使用可能な機能が多いので、基地局の無い地域でもグラス自体は普及しているようだ。

「今の説明でピンと来た者もいるだろう。この魔法具には魔力波吸収機構を組み込んである。グラスに搭載されている受信者権限もだ。基地局からの魔力波が届く限界距離にこれを設置したから、魔力堆には常に魔力が供給される」

 実はこれでも後一つ疑問が出てくる筈なのだが……。

 と思ったところでオーレリアがそれを口にした。

「結局解決してないわ。メッセージと違って魔素化された文字データじゃなくて魔法具を動かす程の魔力を用意しなくちゃいけないんじゃない。その必要魔力はどうするの? まさか王都近辺のメッセージ送受信機能を停止するわけじゃないでしょ?」

 通常は大気に含まれる魔力と、魔石と呼ばれる魔力を多く含有する石からの抽出で賄っているが、今回は必要魔力量を鑑みるにそうはいかない。

 それこそオーレリアが言ったような手段でもとらない限りは。

 だが当然、それも解決済み。

「リガルの死は誰もが知るところだと思う。ならこれも知っている筈だ。『紅の英雄』が冤罪を着せられた時は死刑処分であったのに、真犯人が貴族達であったと明かされた後に処刑の話が出なかったことも」

 オーレリアは何秒かして言葉の意味を悟ったのだろう、椅子をずり下げて「まさか」と呟いた。

 キースが卓上に手のひらを何度も叩きつけて大笑する。

「がはは! 能力一辺倒の小僧だったらどうするかと思ったが、くくくっ、お前さん中々やるじゃねぇかッ! 『霹靂』の旦那の件が片付いてすぐに、この絵を描いてたのか?」

 幸助は微笑みで返す。

 その通りだったからだ。

「確かに英雄殺しともなれば一族まとめて連座にされる程の大罪……。関与した者が多数いようとまとめて処刑すれば済む話だ。なによりも民意がそれを望むことは火を見るより明らか。ナノランスロット殿、貴殿はそれを承知の上でこの策を実行することにしたというのか」

 出逢って以来初めて、ストックが幸助を恐れるような視線を送った。

「……情報聞紙の記事はそういうことか。お前は自分の判断の所為で臣民が不満を抱えていることを知っていたんだ。だからあの大言壮語は、罪滅ぼしじゃないにしても代替措置だった」

 得心がいったとばかりにシオンが苦笑する。

 幸助がリガル殺しの犯人を殺さなかったのは簡単だ。

 利用出来るから。

 常人を超える魔力量。自らの手で国に繁栄をもたらしたいと考える狂気。

 使わない手は無い。

「大罪人を、殺すのではなく利用することにしたんすね。ルールを曲げ、臣民の怒りを煽り、それを鎮めるために自らを偶像と化してまで……この戦争に(、、、、、)勝つ為だけに(、、、、、、)

 チドリは興奮した面持ちで手帳にペンを走らせている。

 殺してしまうのは簡単だ。その方が正しいこともある。

 でも、それより優先すべきことも、きっとこの世にはある。

 目先の正義を果たして、その先の死を享受するなんて馬鹿らしい。

 幸助はこの世界で幸せになりたいのだ。

 この世界で幸せになってほしい人達がいる。

 リガルは正義になってくれと言った。

 ――あぁ、いいさ。なってやるよ。

 アークスバオナを打倒し、この大陸を平和に導く。

 それが正義だ。

 であれば、そこに至るまでの手段の全ては、正当化されて然るべき。

 目的は手段を正当化する。

 妹の仇を討つ為に過ごした日々を、いまだに後悔していないように。

 戦争に勝つ為に行うことを、幸助は後悔しない。

 しない、つもりでいる。

 その第一歩が今回の策だ。

 捕縛した貴族の全員に、生きた魔力電池の役目を担ってもらう。

「数日後には出撃する。各々用意を怠らないように」

 今度こそ、誰も何も言わなかった。




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