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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
【第三部《上》・英雄定義篇】英雄連合、集いて和衷協同を誓う
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95◇英雄連合、懐疑ス




 案の定というか、幸助が言葉を区切ったタイミングで声を上げる者がいた。

 幸助もさすがに諦め、一々対処する方が結果的に早いかと自分を納得させる。

 噛み付いてきたのはオーレリアだ。

「はぁ? “空気探知”ってアンタ馬鹿? 空気って今アタシ達の周りにある空気のこと? それで敵を見つける? ねぇ知ってる? 魔法なんかなくても風は吹くのよ? 他のと組み合わせたところで何が変わるってわけ?」

 自然に移ろいゆくものなのだから、それを観測したところで不可視の人間など捉えようが無い、ということだろう。

ふむ、と頷いてから幸助は口を開く。

「川を想像すると分かりやすいと思うんだが、例えばお前が川に入ったとするだろ」

「ちょっと、今アタシの沐浴姿を想像したでしょ? 慰謝料払って」

 自分の胸を隠すような仕草をして、オーレリアが侮蔑の視線を寄こして来た。

「…………。でだ、お前が入る前と入った後で、川の流れはまったく変わらないか?」

「無視すんなクズ!」と叫ぶオーレリアの横で、シオンが答える。

「いや、変わるな。この愚図にぶつかった水は弾かれ、それでも流れに抗えず進行方向に向かって流れていく筈だ。この頓馬に流れを遮られる……つまり、他の四探知と組み合わせることで、“明らかにそこに何も無いのに、人の動きによるものと酷似した空気の揺らぎ”を感知するってことか?」

 幸助は頷いたが、オーレリアは愚図だの頓馬だの言われて傷ついたような顔をした。

 いい加減彼女のことが可愛いとさえ思えてきた幸助だった。

 微笑ましく思いながら、言う。

「魔力、音、映像、温度に加えて空気を監視基準に入れる。奴らは前四つを完全に突破出来るが、だからこそこの魔法具には異常として検知される」

 魔力反応無し、無音、不可視、温度変化無し。

 なのに、空を裂く人の痕跡だけがある。

 なら、そこに人が居るという理屈。

「俺達は歩くとき、空気を掻き分けて前に進んでいるんだ。重さを感じないから気にも留めないだけで、空気はそこに在る。在るものを退けてる。それを感知する機構を組み込んだ魔法具だ」

 それに口を挟んだのはキースだ。顎髭をまだ撫でている。

「待て待て旦那。納得しそうになっちまったが、そりゃおかしいだろ。オーレリアの嬢ちゃんが言ってたように自然に吹く風一つで揺らぐのが空気だ。乱暴に言えば、空気なんて常に動いてる。そうだろ? “空気探知”を実用化レベルまで持っていくには、膨大なデータとシミュレートが必要だ。なにが正常で何が異常か、エラーが出た時どうするか。技術国家であるうちでまだ表に出ていないような技術が、おたくんとこで作れるとは思えねぇが?」

 幸助は機械作りに精通どころか一切何も知らないレベルだが、それでも分かることはある。

 こういうものを作りたい! と思ってすぐにそれが完成することだけは無いだろうということ。

 幸助が『暗の英雄』の存在を知ってから一週間程。

 それだけの期間で対抗策を思い浮かべるところまでは、いい。

 でもそれを実行に移すのは技術的な面から考えても不可能ではないか、ということだ。

 意外にも、幸助を制する形で話に加わったのは――フィオだった。

「クロたすが魔法式を組んでー、グレっちがそれを紋章に起こせば短期間で発想を形にすることは出来るってフィオ思うなぁ」

 さすがは技術国家出身と言ったところか。

 キースもすぐに「グレッち……グレイルフォン魔術師か? そういや『霹靂』の旦那殺しを捕まえんのに協力したとかで今この国にいるんだったか……確かに奴なら出来る、か」と頷いている。

「ま、待ち給えよ。勝手に話を進めないで頂きたい。紋章と言うのは、メレクトで開発されたという墨状(ぼくじょう)人工魔法式(じんこうまほうしき)紋身(もんしん)の図案を指しているのか?」

 ストックの言葉に、フィオがのほほんとした微笑を浮かべながら「そうだよ~」と返す。

 リガルの盟友でもあり、幸助の友でもあるグレイ。

 彼は技術先進国メレクトに長期間身を置いていた。

 ダルトラ出身者でありながら、彼の国の最先端を行く魔術師なのだ。

 彼ならば幸助の複雑な魔法式を数日で紋章に落とし込むことくらいはやってのける。

「仮にも情報国家の看板を背負ってるんで、うちらも魔法紋についての情報は得てるっす。グレイルフォン氏なら英雄の魔法式を紋章にも変換出来ましょう。けどっすよ? それはつまり、英雄の魔法を紋章にしたってことっすよね? 魔導素材に彫れば魔法具としての機能自体は確保出来る、それは分かるっす。けど失念してないっすか? 五つの感知項目と複雑な判断基準。それを常時フル稼働なんてさせた日には、魔法具内部の魔力堆(まりょくたい)は数分と持たずに魔力切れを起こしてしまうっすよ」

 魔力堆というのは、幸助のもといた世界で言うところの電池に近い。

 人工魔法具の多くは魔力を燃料に動く。それが装備タイプではなく設置タイプの場合に多く用いられるのが魔力堆だ。

 形状は様々だが、内部に魔溶液と呼ばれる液体が詰まっている。これは魔力を受容し発散を抑制する液体で、つまり魔力を込めると魔力電池とでも呼べる代物になってくれる。

 幾らグレイと幸助が紋章を作っても、その機能を維持する魔力と、魔力堆そのものはどこから持ってくるのか。

 これが現実として立ちはだかる難題だろう。

 しかし幸助は言った。

 既に設置してある、と。

「愚生とて仮にも魔法帝に仕える一魔法使いなればこそ言えることだが、貴殿のお考えは些か現実味を欠いているように思えるが……?」

 チドリとマギウスまで、そんなことを言う。

 ゲドゥンドラの四人と眠りこけているプラナは分からないが、他の英雄達も設置完了という幸助の言葉が信じられていないらしい。

 と、そこでエルフィがヒントを出すように言った。

「アタシ達の国がなんと呼ばれているかを考えれば、想像がつくんじゃないかしら?」




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