表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
【第三部《上》・英雄定義篇】英雄連合、集いて和衷協同を誓う
103/301

94◇英雄連合、論考ス

 



 誰もが幸助の言葉を咀嚼し、思惟(しい)に没頭する中、最初に声を上げたのは幸助を過剰に敵視する少女・オーレリアだった。

「アンタ程度が思いつくことなんだから『暗の英雄』が考えついてもおかしくないけど、そいつだってアンタが自分の策に思い至ることくらい織り込み済みに決まってるじゃない。そこの所ちゃんと考えてるわけ?」

 幸助への嫌悪感が思考を鈍らせているのか、彼女はそんなことを言う。

 こういう場では、もう少し考えてものを言った方がいいと幸助は思ったが、口には出さなかった。

 出す必要が無かった。

 彼女の隣に座る銀髪の少年・シオンが代弁してくれたからだ。

「馬鹿が。脳に行く分の栄養までそのだらしない乳に分配してんのかてめぇは」

「な、なによシオン! アンタどっちの味方なわけ!?」

 頑是ない子供のような物言いに、シオンは目を細めて舌打ちする。

「……よく考えろ愚図。敵がナノランスロットの思考まで想定出来るとして、何が変わる」

 そう。何も変わらない。

 というより、幸助が敵の策を見抜くところまで含めての英雄召集だと、幸助は推測していた。

「そもそもだ、ダルトラにナノランスロットが現れなけりゃオレ達はその時点で詰んでた。敵の策に気付く暇も無く盟主の王都が陥落したとなれば、空中分解どころじゃねぇからな」

 例えばこれが国単位ではなくもっと小規模ならそう問題にはならない。

 村長が死んだなら、もちろん死を悼むなどはするが、適格者に次の村長を任せるだけでいい。

 だが王ともなるとそうはいかない。

 国政の最終決定権を持つ王が崩御すれば、国は崩壊する。

 平時であれば継承権に従って王族の者が王位を継ぐことになるだろうが、そうもいかない。

 王都が落ちる場合は当然此処に住む王族も殺されるからだ。

 王都にいない王族もいるが、すぐさま残存勢力を率いて抗戦出来るかと訊かれれば首を傾げざるを得ない。

 はっきり言ってしまうなら、無理だ。

 軍部が独自の判断で国を護るのにも限界がある。

 国家を支える全ての機関を糸とするなら、その全ては王に繋がっているのだ。

 支えを失えば、纏まりも失われるのは必然。

 貴族も英雄も死んで、バラバラの軍隊だけでどうアークスバオナに勝てる?

 そんなものは不可能だ。

 第一、王の求心力と英雄の偶像は重大な要素だ。

 リガルが死んで、あれだけの人が悲嘆に暮れた。

 英雄一人を失うことで、戦争に負けると絶望する民もいる。

 それだけ英雄の存在は重く、神話時代にそれらを率いたとされる神、その末裔であるダルトラ王が集める信用は大きい。

 つまりどういうことか。

 敵にとって“作戦が筒抜け”という要素は、“王都陥落”という目的達成時のメリットに比べあまりにデメリットとして薄弱なのだ。

 極端な話、無視してしまえる程に。

 だってそうだろう。

 バレているとして? それがなんだ。

 敵からすれば、元々王都に英雄が控えているのは既知の事実。

 『白の英雄』や『黒の英雄』がいることを考慮し、その上で王都を落とせるメンバー構成で来る筈だ。

 万が一のことを考え帝都に英雄を残しはするだろうが。

 ロエルビナフ戦役への戦力投入は考えられるが、そちらについても考えはある。

「ナノランスロットを獲得したダルトラに感謝することはあっても、当の英雄にいちゃもん付けられる場面じゃねぇだろ。それくらいも理解出来ないのか頓馬とんま

 オーレリアは恥ずかしさからか顔を紅に染めながら、悔しそうに震えた。

 若干潤んだ瞳でシオンを睨む。

「そんな風に言わなくたっていいじゃない……」

 その姿は同情を誘うようなものだったが、シオンは取り合わない。

 おそらくシオンは幸助が言った言葉を気にしてくれているのだろう。

 彼女の暴走を制御し、幸助へ攻撃性が向かないようにしてくれたのだ。

 目が合ったので感謝の気持ちを込めて微笑むと、ついと顔を逸らされてしまう。

 照れ屋なのかもしれない。

「でもでもそうなってくると、それはそれで厄介っすよねー」

 手帳にペンで何かを書き込みながらチドリが言う。

 視線は手帳に向いていて、こちらを見てはいない。

「だってそうっすよね? 相手はこちらの抵抗を超えて王都を落とせる、少なくともそう確信出来る戦力を投入してくる筈っす。戦略級魔術の存在を考えると、王都どころか目視範囲に入られるだけで危険っす。事前に要人だけでも逃がしておくって手もあるっすけど、それ自体は侵攻に対する手立てにはならないわけで」

「チドリの言は尤もだ。先程貴殿自身が口にしたような策で敵が潜入作戦を敢行した場合、こちらの監視網はほぼ無力化されるも同然。敵を近づけてはならぬというのに、これでは手の打ちようが無いではないか」

 チドリの意見に同意する形でストックが言う。

「戦場の中を突っ切って来るわけにもいかねぇだろうからロエルビナフ領内の戦闘区域は迂回するにしても、後は国境駐留隊か? それだって英雄なら兵に見つからずに越えられるだろう。こっちに捕捉されないことを第一に考えてんなら兵は極力殺さねぇだろうし、そこだけは不幸中の幸いと言えるかもしらんが。んで、『黒』の旦那はどうするつもりなんだ?」

 無精髭のじょりじょりとした感触を楽しんでいるのではないかというくらいにそれを撫でながら、キースも続いた。

 ちなみにフィオはその横で花片を一枚ずつ抜いては「すきー、きらいー、すきー」と花占いをしている。アークレアにも花占いは存在するらしい。

 眼帯幼女プラナはこくりこくりと舟を漕いでいる。……もしかして、寝たのか?

「エルソドシャラルへの擬似英雄派兵、幾ら感謝を捧げても足りませぬ……。アークスバオナめの策略を暴く慧眼も実に見事。がしかし、肝心要の対抗策はお有りになるので?」

 マギウスまで不安点を提示。

 ゲドゥンドラの四人は相も変わらず沈黙を貫いている。

 ダルトラ英雄は黙って幸助に説明を任せるつもりのようだった。

 幸助は先程見せた荷物を『黒』に戻し、別の品を取り出す。

 単一電池のような形状とサイズの機械だ。

「既にこれを予想されるアークスバオナの侵攻ルートに設置してある」

 真面目に会議に参加している者達から「それはなんだ?」という視線が集まる。

 幸助は答えた。

「これは既存の四探知に“空気探知”を加えた魔法具だ。魔力を隠し、目に映らなくなり、音を発さなくなり、体温さえも感知出来なくしようと、存在はしているんだ。なら捕捉するのは不可能じゃない。人が移動すれば空気が不自然に押し出される。その抵抗を感知する機能を追加すればいい」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇書籍版(GCノベルズより1~4巻)
◇書籍版特設サイト◇
i433752

◇ライドコミックスより1~4巻◇
◇コミックライド作品ページ◇
i601647

↓他連載作です。よろしければどうぞ↓ ◇朝のこない世界で兄妹が最強と太陽奪還を目指す話(オーバーラップ文庫にて書籍化予定)◇
たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても
i594161


◇勇者パーティを追い出された黒魔導士が魔王軍に入る話(GAノベルにて書籍化&コミカライズ)◇
難攻不落の魔王城へようこそ


共に連載中
応援していただけると嬉しいです……!
cont_access.php?citi_cont_id=491057629&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ