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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
【第三部《上》・英雄定義篇】英雄連合、集いて和衷協同を誓う
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93◇黒の英雄、明示ス

 



 以前ダルトラ王から聞いた話によると、アークスバオナは英雄総数を誤魔化していた。

 拮抗していると思われたそれが、実に二十を超える数いたというのだ。

 それだけでも脅威だというのに、その数すら正確なものとは言えないという。

 こちらが同盟を組んでかき集めた英雄は十八人。これが最大数。

 相手は最低二十人、というわけだ。

 そして戦力分配も対ダルトラに向けて集中している節がある。

 そうなると、ダルトラとしてはどうしても総力戦を予期してしまう。

 チドリが言っているのは、「そんな時に他国へ戦力を貸してる余裕があるのか?」ということだ。

 エルソドシャラルとの契約云々は関係なく、国が落ちる危機なのだぞと暗に訴えかけている。

「エルソドシャラルに擬似英雄を送るのは、慈善事業でも契約の都合でもなく、連合の利益を考えてのことだ」

 チドリが「ほーほー」と興味深そうに何度か頷いた。

 トワに一目惚れした眼鏡男子ストックが「……続きをお聞かせ願おう」と眼鏡の位置をクイっと直しながら続きを促す。

 ちなみにこの二名共、情報国家ラルークヨルドの英雄だ。

 三人いる内の最後の一人は、なんと幼女だった。

 歳はエコナとそう変わらなそうだ。

 ピンクと紫の中間、マゼンタとでも言おうか、そんな色合いの髪と瞳だ。

 とはいっても、フード付きのケープマント、そのフード部分によって毛髪の大半が隠れてしまっている。

 瞳に関しても、右目に黒い眼帯を着用していた。眼帯には、蝶の意匠が刻まれている。

 眠たげな目をしていた。時折欠伸を漏らしているので、眠いのだろう。

 両腕で熊だろうか……二本角と凶悪な牙、おまけに悪魔めいた四枚翼が生えているが熊に見えなくもない、そんなデザインのぬいぐるみを抱えている。

 ラルークヨルド所属、『編纂の英雄』プラタナスカイ=ルージュリア。

 あまりに無口で幸助は声を聞いたことが無いのだが、愛称はプラナらしい。

 彼女は会議開始後から、じぃっと幸助の顔を見続けている。

 猫が何も無い空間を見つめる時のような瞳で、だ。

 幸助が言えた立場ではないが、こんな子供まで戦場に駆り出さなければいけないのか……と忸怩たる思いがある。

 しかし彼女は紛れも無く英雄規格。

 年若いことを理由に戦力から外すことなど幸助の一存で出来よう筈も無い。

 一瞬視線を交わわせたのち、幸助は視線を他の者達へ向けた。

 見渡すようにしながら言う。

「ここでエルソドシャラルを見捨て、防衛に徹したとしよう。そうすれば敵の侵攻を一度は退けられるかもしれない。一瞬で壊滅状態、なんてことにはならないだろう。だが、その場合エルソドシャラルの領土奪還は不可能になる」

 ダルトラが手を引くあるいは戦力供給を中止すれば、エルソドシャラルはそう遠くない内にに陥落してしまう。

 それだけエルソドシャラルは国家として疲弊しているのだ。

 そうなってしまうと当然、エルソドシャラルの保有する魔法具や知識、神殿、領土がアークスバオナに侵奪される。

 ただでさえ敵の総戦力が不透明な今、それは避けるべきだ。

「そうなりゃ確かに厄介だわな。敵さんはどんどん強くなってく。こっちはこれで打ち止めってんだからジリ貧だ」

 キースがやはり無精髭を撫でながら、悩ましげに言った。

 幸助は彼を見て首肯し、それから続ける。

「それと、俺がアークスバオナの英雄なら総力戦なんて面倒なことはしない。この連合を潰すならもっと労力の少ない方法がある」

 そろそろ皆気付いているだろうが、宗教国家ゲドゥンドラの四名は会議に参加するつもりがないらしい。ただじっと卓上を見つめている。

 全員揃ってクロブークめいた帽子を被っていることもあり、徹底的に個を潰しているようにも感じられた。

 全て錯覚かもしれないが。

「連合を潰す方法?」

 意外そうな声を上げたのはエルフィだった。

 貴族院からの献策や軍部の決定は英雄各位に伝えられるが、幸助個人の考えは違う。

 彼女だけでなくトワやクウィンにも話していなかったので、少々怪訝そうな顔をされた。

「選りすぐりの英雄を集め、王都ギルティアスを強襲し――王族を殺す」

 その瞬間、会議室の空気が一瞬で張り詰めたのを幸助は感じた。

 眼帯幼女プラナは眠たげな片目を見開き、ゲドゥンドラの四名すら幸助に視線を転じた程だ。

 フィオだけが「わわっ、みんなどうしたの~」などと呑気な声を上げているがこの際無視の方向で行く。

 真っ先に反論したのは生真面目眼鏡ストックだ。

「馬鹿な! いかな英雄と言えど国家間を集団で走破し中枢に攻め入るなど出来よう筈もないではないか! 王都に至る以前に即刻補足されるのは勿論、軍需品、食料、馬はどうする! アークレアに来訪し二月ふたつきと経っていない貴殿には分からぬのだろうが、そんなものは策とすら言えぬ妄想だ!」

 幸助はホッと呼気を吐いた。

 さすがに「その手があったか凄い!」と幸助を讃える愚か者はいないようだ。

 安心し、補足する。

「その全ては解決出来る」

「な――ッ、……ならば、説明し給えよ」

 幸助がここまで言うなら何かあるのだろうと、聞く耳は持ってくれたようだ。

「まず捕捉だが、これは英雄クラスが本気を出せば出来る事で、擬似英雄では不可能だ。ちょっと魔法式は面倒臭いが、魔力探知阻害、視覚探知阻害、聴覚探知阻害、温度探知阻害を含めた認識阻害魔法くらいはまぁ組めるだろう。此処にいる皆だって出来るよな」

 初めてクウィンに逢った時、幸助以外誰も彼女を目撃していなかったように、英雄ならばその程度の魔法は組める。

 複合魔法は一気に魔法式が難解になるが、単一魔法で言えば魔力探知阻害『認識』属性【我其の衣纏いし(クラヴェリ・ウェリア)】を幸助も来訪してすぐに習得した。

「……無論だ。しかしそれではあまりに魔力効率が悪い。小旅行ではなく長旅レベルの荷物と移動用の馬まで含めるとなると、英雄でもアークスバオナからダルトラまでの間に維持が解け、その時点で捕捉されるだろう」

「馬も荷物も要らないよ」

 幸助は微笑んで、取り敢えず実践することにした。

 『黒』を卓上に広げ、そこから事前に入れておいた食料や衣服を出す。

 全員が理解したようだ。

「……な――まさか!?」

 室内に激震が奔る中、幸助だけが冷静でいる。

「アークスバオナには『(やみ)の英雄』がいる。俺と同じことどころか、もっと凄いことが出来るだろうな。『黒』の中は時間経過と無縁らしいから、食料も腐らない。魔力に関しては、希少ではあるものの回復薬が存在するんだろ?」

 以前、貴族街にある店舗にはそういった品が卸されると聞いた。

 最重要任務であれば、ありったけ用意されるだろう。

「『黒』は生物を生きたまま収納出来ないが、別に移動手段が生きていなければいけないわけじゃないだろ? 複数の魔動馬車なり、傀儡術を持ってるなら適当に馬を模した人形を作ればいい」

 もはや、口を挟む者はいない。

「敵は俺達がそれをやることも込みで帝都に多くの英雄を配置するだろう。多分その為もあっての英雄召集だ。だからそれはしない。相手の兵力を遊ばせる(、、、、)。そして全英雄で敵の襲撃を迎え撃つ」

 いくらなんでも説明不足に過ぎるが、インパクト重視だ。

 疑問点には後で細かく答えればいい。

 とにかく示すのだ。

 敵が取り得る選択肢と、こちらが取り得る対抗策を。

「これは絶体絶命でありながら、チャンスだ。エルソドシャラルをたすけ、王都付近までのこのこやってくる敵主力を一掃する好機だ。成功すれば、アークスバオナのくだらない侵略戦争に罅を入れることが出来る」

 『導き手』マギウスが、ごくりと息を呑んだ。

 幸助はケロっとした顔で、皆に問う。

「何か質問はあるか?」

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