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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
【第三部《上》・英雄定義篇】英雄連合、集いて和衷協同を誓う
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92◇英雄連合、議論ス

 



 話に入ってこない者達も含めて、室内がざわめく。

「今回の連合結成にあたり、ダルトラ側と各国はそれぞれ契約を交わした。結果的に各国から貸与されたのは英雄を含む軍事力と――各国が保有するオリジナルの神創魔法具だ」

 情報国家ラルークヨルドの至上の目的は情報の蒐集と蓄積だ。

 この戦争もまた、間近で客観的かつ俯瞰的に記したいという。

 もちろん、国が滅びないという結果が伴うことが前提ではあるが。

 歴史など視点によっていくらでも記述が変わるものだが、彼らにはそれを客観視する目を持っているという自負があるらしい。

 ともかく幾人かの記録者の同伴を認めることで協力は得られた。

 技術国家メレクトには数十年あるいは百年単位の時を掛けてなお果たしたい目的があった。

 アークレア全土を奔る鉄道の敷設である。

幸助のもといた日本では、都市部ではもちろん田舎と呼ばれる区域にも全てとは言わないまでも駅それ自体は置かれているところが多かった。

 しかし考えてみてほしい。

 ここはアークレア。いまだ移動手段として馬車が幅を利かせている世界。

 以前メレクトで魔動車なる自動車もどきを開発しているとプラスから聞いたことがあったが、自動車の発想が誰によってもたらされたにしろ、鉄道を知る来訪者から知識の供与がなされるというのは幾らでも考えられる。

 ただ、素晴らしい発想の全てが認められるわけではない。

 幸助の知る限りでも、確かライト兄弟がそうだった筈だ。

 彼らは空を飛べると信じ、飛行機の開発に着手した。

 当時既に蒸気機関車や車、蒸気船や飛行船はあった。

 しかし飛行船とは言っても、それは熱気球から派生したものであり、飛行というよりは浮遊に近い。いわゆる飛行機による有人動力飛行は発展途上で、ライト兄弟が実験を成功させても世間は『科学的に不可能だ』とバッシングした。

 ……というような話を、小学校時代の課題図書で読んだ覚えがある。

 時を巻き戻すと、常識は退行する。

 現代日本の当たり前が、当たり前ではないということも沢山ある。

 レールの上を奔る鉄の箱。

 幸助からすれば「電車だろ?」という感じなのだが、現地人からすれば発想の埒外。

 メレクトが提唱するそれを、誰も真に受けなかった。

 しかしダルトラはこれを援助することにしたのだ。

 メレクトとダルトラを繋ぐ鉄道を走らせるという案にも同意した。

 宗教国家ゲドゥンドラは、一切の見返りを求めなかった。

 神の名の許に世界に安寧をとかなんとか……。

 正義だけで動くというのは、尊いようでいて恐ろしい。

 概念に傾倒する者は、どうにも人間味が希薄に映るのだ。

 とはいえ、幸助が知らないだけで彼ら彼女らにも個性や思想というものはあるだろう。

 あくまで国として、神を信仰しているというだけで。

 商業国家ファルドは真逆で、がめついとは言わないがグイグイ来た。

 メレクトの鉄道敷設計画に大国ダルトラが参入すると聞いた彼の国は、列車の経由地点、燃料補給や荷降ろしなどで寄る停車駅の存在に目をつけた。

 列車が大陸を横断するようになれば当然、商業は爆発的に盛んになる。

 馬車で運んでいたものを、貨物車両を使って一度に大量に素早く運べるのだから当たり前だ。

 権利や利害関係は幸助の詰めるところではないが、ともかくファルドの要求はこうだ。

 通商路の経由地に、ファルドの領土を使え。

 これによってファルドにもたらされる利益は想像もつかない程莫大。

 こう言うのはなんだが、全て上手く行くと仮定した場合、英雄二人と傭兵の貸出しなど屁でも無い額がファルドに安定して入るようになるだろう。

 無論、全部が全部ファルドの思い通りとは行かないが、儲け話であることに変わりはない。

 そしてエルソドシャラル。これは簡単だ。

 ダルトラ側が与えるのは力。

 そしてエルソドシャラルを救えた暁には、領土内の悪領及び神域周辺の所有権をダルトラに譲渡するというもの。

 エルソドシャラルだけが明確に“助けてもらう側”なので、礼まで込みなのである。

 各国の特徴や目的をよく理解した上での根回し。

 なるほど確かに、貴族院もクズな“だけ”では無かったようだ。

 だからと言って許せるわけではないし、精々上手く利用させてもらうだけだが。

「同盟諸国より貸与されしオリジナルの魔法具によって、新たに七百八十七名の擬似英雄が誕生した。これらの擬似英雄にダルトラ周辺及び和平交渉の進んでいるギボルネ領土内に存在する迷宮攻略も行わせ、更に百近い数の神創魔法具の入手に成功している」

 擬似英雄は魔法具装備によってステータスを英雄に近づけた者を指す。

 近づけたとは言うが、具体的にどれだけ近いのか。

 完全再現出来るなら、英雄がわざわざ持て囃されはしないだろう。

 道具の装備でお手軽に再現出来る力に、ありがたみなど無い。

 これは残念なことに一種の印象操作であった。

 例えば一と二。

 一が擬似英雄で二が英雄だとすれば実力差は倍だが、数値のズレは一だ。

 これならば擬似英雄という表現も頷ける。

 だが実際は一万と百万程の違いがある、らしい。

 普通の兵士が強くても十、模造魔法具持ちでどうにか百から数百。

 要するに、貧乏人から見たら一億も百億も手が出ない以上“大金”というくくりでしかないよねということだ。

 英雄という存在が強すぎてその実力を正確に測れる者自体が希少なので、一般兵からしたら擬似英雄も充分英雄クラスなのだ。

 国家としても戦力に箔が付くならそれに越したことはないので、擬似英雄という呼称を用いている。

 ネガティブな情報に聞こえるかもしれないが、違う。

 つまり敵の一般兵にとっても擬似英雄は相当な脅威ということ。

 全ての擬似英雄をエルソドシャラル奪還に投入することは出来ないが、戦況は好転するだろう。

「ここ最近、エルソドシャラル侵攻の手が緩んでいるという話が諜者から入っている。各戦場から主戦力と思われる英雄の大部分が撤退しているようだ。優勢の状況でこの判断……それが指す未来とはつまり――」

幸助の言葉を引き継ぐように、一人の少女が喋り出した。

「エルソドシャラル侵攻よりも優先され、かつ多くの英雄が必要な事案っていうと一つしかないっすよねー。ずばり、ダルトラ侵攻っす!」

 右手人差し指をピンっと立て説明するように語る彼女も、会議室にいるのだから当然英雄だった。

 薄紫色の毛髪はショートカットにされており、若干パーマがかっている。

 瞳は紫紺で、顔に薄くそばかすがあった。

 活発そうな印象を受けるのは、歯を覗かせての笑みが陽気に映るからか。

 キャスケットを被っていた。ロングコートを着込んでいるが、ダルトラ英雄と異なり私服のようだ。

 ラルークヨルド所属、『識別の英雄』チドリソウラ=テンプシィ。

 愛称はチドリ。

 英雄であると同時に、くだんの記録者でもある。

 メッセージ送受信出来ることからも分かるが、グラスには思考を反映して文字を打ち込む機能がある。それを利用すればメモも可能だ。

 だがチドリは手帳に万年筆でつらつらと文字を書き込みながら会議に参加していた。

「死にたいのエルソドシャラルは一般兵と擬似英雄だけで落とせると判断したんでしょうねー。ということはっすよ。ある意味でエルソドシャラルは奪還のチャンスであり、同時にダルトラは絶体絶命ってわけっす!」

 もちろん、そんなことは分かっている。

 チドリは熱弁を振るってなお興奮が冷めないのか、目をキラキラと輝かせていた。

 歴史の生き証人になれることが嬉しくて堪らないとばかりに。

 これもまた、狂気の一種か。

 さておき。

 幸助はいい加減呆れてきた。

 ――英雄ってのは人の話を最後まで聞けないのか?




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