1◇復讐者、自死ス
黒野幸助の周囲には、七人分の死体が転がっている。
酷く損壊したそれらは、彼が手ずから破壊し、破棄したものだ。
駆除と言い換えてもいい。
殺人という意識はなかった。
抱ける筈が無かった。
異臭を放つ汚物と化した者達は生前からして、控えめに言ってゴミクズだったからだ。
今となっては見る影もないが、七人が七人とも今年十八になる幸助とそう年の変わらない若者だったが、その素行たるや神が実在するならば最優先で天罰が下されるであろう程醜悪を極め、彼らが直接間接問わず死に至らしめた人間は優に百を超える。
それでも彼らは、その日まで一切の罰を受けることなくのうのうと悪辣に浸り、快楽を貪って呼吸することを許されてきた。
権力者の庇護下にいる悪人は罰せられない。
社会という構造に必ず産まれる闇。
世界規模で見ればそう珍しくもない現実。
しかし、それによって割りを食った人間からすれば到底許容できるものではない。
幸助も同様であった。
彼らに奪われたものは、どうあっても取り返せない。
この世界で出来得る、どのような行為に身を窶しても取り戻せない。
だというのに、彼らの日常は続いていく。
被害は後を絶たず、堆く積み重なっていく。
誰かが終わらせなければならない。
そう考えるのは、正常な倫理観を有した人類の正常な反応であろうと言えるだろう。
害虫は駆除しなければならない。
疑問を挟む余地のない結論。
そうして幸助は実に五年の歳月を掛け、その日ついに駆除に成功。
達成感はなかった。
快哉を叫びたくなるのではとも思ったが、一切の感慨が湧かなかった。
望む結果を得たというのに、胸に去来するのは虚無感とも言うべき寂寥のみ。
それもそうだ。
非生産的なただの復讐に、満足感など得られよう筈もない。
それでよかった。
とにかく目的は果たしたのだ。
もう、この世に留まる未練は無く。
もう、この世に生きる理由は無い。
彼は手に持っていたナイフを、自身の頸動脈に宛がう。
後は、終わらせるだけ。
『勿体無いのではないか?』
そんな声が聞こえた瞬間、黒野幸助の人生は、終わった。
勘違いで無ければ、ナイフは喉を裂いた筈だ。
視界下方から赤黒い液体が勢いよく噴出するのを、他人事のように眺めていた筈。
痛みは不思議と無かったように思う。
現実感が失われていたからか。
しかし。
彼の自殺は成功しなかった。
あるいは、成功したが、死ななかった。
幸助は生きている。
では次に目覚めた時、彼は一体――『何者』なのだろうか。
そもそも、人生が終わった彼が死んでいないとは一体どういうことなのか。
答えは――。