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第六話 姫からの奇襲

 城下町では、人の賑わいでいっぱいだった。

 私のいる町も都会だと思ったのに、人々のオシャレは進んでいて、男性はロングヘアーが流行っているようだった。

 まず覚えていて欲しいのは、シェイは見目がそんな流行とは一切関係ない服装で、髪型だということ。

 それを踏まえて――現状、シェイは色んな人から好奇の眼差しを受けている。

 シェイは人目に慣れているのか普通だったけれど、街を歩けば人々がシェイのかっこよさにうっとりとしている。

 見た目だけは美形だものね。

 シェイに一人で待っていて貰ったときは、好奇心旺盛な女性に声をかけられたらしく、戻れば「夕子ーーーー!!!」って大声で泣いていた。

 私は露天で買った焼き鳥の串をシェイに渡して、何とか機嫌を損なわないように気遣う。

 シェイは泣きそうになりながら、焼き鳥を食べていた。

 焼き鳥は簡素に塩漬けにしたものを、あぶり焼きにしたものだ。

「夕子、酷い。一人、怖い」

 人目になれているのかと思えばそうではなく、私がいるから何とも思わなかったらしい。

 愚痴愚痴と呟いて、すんすんと鼻を鳴らす。

 そんな子供っぽい一面を見せているというのに、相変わらず人目は惹いたままだった。

「あ、夕子、噴水。噴水、あるよ」

 噴水を見るとぱっと顔色が変わり、噴水に駆け寄る。

 噴水はさあああと水を噴射しており、水しぶきが時折かかってくるが、見目が気持ちいい。

「この水、どこから出てるの?」

「地下水路よ」

「? ふうん。人間は、器用だね」

 噴水を見ながら、シェイと雑談していると――。


「私の龍!!」

「!! 夕子、危ない、こっちに!!」

「え? きゃぁ!!」


 後ろから斬りかかったのはユーリ様。


 シェイのお陰で、避けることが出来たけれど、もう少しで、一生負うはめになる傷を得るところだった。

 否、下手してたら、死んでいた? そこまでは詳しくは判らない。

 ユーリ様の刃物を見て、一気に肝が冷えてぞっとする。

 体中から力が抜けそうになる。


「な、何するの貴方……!!」

 敬語がもはや抜け落ちてしまう。

「それはこっちのセリフだわ、私の龍……私の可愛い可愛い龍をたらし込んで――!!」

「た、たらし!? 貴方、それ大きな勘違いだわ!! 私、別にシェイをたらし……」

「たらしこむ、何?」

 きょとんと小首傾げるシェイに、私は苛立つ。

『貴方は黙ってて!!』


 ユーリ様と声が重なってから、はっとして、何かシェイに伝えなきゃと焦った。


 視線を二人でシェイにかち合わせる。


 両方、叫ぶ言葉は真逆で。


 「逃げろ」と「待て」。


 シェイはとっくに逃げる体勢だった。私を抱えて。

 俵抱きをされて、もうちょっとこうロマンチックな抱え方とかあるでしょうって思う私は我が儘なのかしら。


「行くよ!!」

「きゃぁああああああ!!」


 翼が現れ羽ばたく。一回翼が下を向く度に、シェイは少しずつ浮き上がる。なんと大きな翼だろう。

 本でしか見たことのない、ふわふわの羽じゃない翼。

 は虫類と同じ体質のような手触りに、堅い鱗を持つ羽が羽ばたき、ばしんばしんと地上からさよならさせる。

 羽による突風が起こり、髪が乱れるユーリ姫は、それも気にせず、日本刀で切りかかろうとする。


 其れよりも先に、シェイはそらへ。


「夕子、知ってたの、あの人?」

「最近知ったばっか! それも少しだけ! シェイこそ…」

「ボク、君、最初であったときの傷、あの子、傷つけた。」

「でぇ?!」


 なんていう、お姫様だ。

 あのグロテスクな酷く深い傷はユーリ様が負わせたのか。

 というより、人が少なかったから良かったけれど、あんないきなり斬りかかったりしてよく捕まらないわね。

 お姫様だから?

 それとも龍だから斬っていいの? 何だかそれって――嫌だ。


「なんで、シェイを狙ってきてるの!?」

「ボク、龍だから!」


 ああ、そういえば、と納得。

 龍狂いなら、珍しい金と銀の色をするウロコの龍なんて、欲しくてたまらないだろう。

 普通の龍は紅色とか青色とか、冒険者が自慢げに皮を売る姿を見てきたけれど、こんな見事な鱗を持つ龍なんて初めて見た。


「太陽の子、待て!」


 え?

 振り返って、お姫様を見遣る。少し狂気が取り憑いたような表情だ。

 嫉妬とぎりぎり人でいるラインの、濃い感情の顔つきだ。

 我が耳を疑って、ユーリ様を見つめるがユーリ姫は私を睨み付けている。

 ……太陽の子だと、知っている……?


「ちょっと、これ、どういうことよぉ!!」

「ああ、もう、喋らないで! 夕子重いから、飛ぶのに必死なんだから!」

「いっそ龍の姿にでもなれば?!」

「あ、それ名案! よぉし……」


 閃光が何よりも早く私の視界を覆っていく。

 残像を残して、視界が視力を取り戻していくとそこには、私を抱えた龍が。

 シャァア!と吼えている。戦闘態勢なのだろう。

 まばらにいた人々は突然の出来事にぽかんとし、散り散りに逃げていく。

 早めに戦闘を終えないと、自警団がきそうだ!


 でも、私を抱えて? どうやって戦えるの? 私お荷物じゃないの。

 私は邪魔にならないように、龍の体をよじ登り、背中のたてがみを伝い、頭の部分まで移動した。

 頭に移動すると、シェイが威嚇しながらも、くすぐったそうに身をよじった。

 「ご、ごめん」と思わず謝って、真っ正面から、改めて、ユーリ様を見遣る。

 ユーリ様は、刀の鞘を乱暴に地に放り出し、何事か口早に唱えて、飛翔する。

 幾ら、気迫が凄いからと言って、ここまでは来られないだろう。こんな空まで。

 でも、それなら、あのシェイの腹の傷は、なんなんだ?

 まずい、と思った瞬間には、ユーリ様はシェイの顔もとまで飛んでいた。

 シェイは咆哮をあげて、その息の風で、ユーリ様を追い返す。

 …私は夢を見て居るんだろうか。ユーリ様が、空を飛んでいるように見えるのだが。

 ――魔法だ。ユーリ様は、まだ空を飛ぶ魔法を習う段階の年齢ではないのに関わらず、魔法が使えるのだ!

 憧れの魔法を持つユーリ様に、私の目は、嫉妬に塗れているだろう。

 ユーリ様は龍と知り合いであることに、私はユーリ様が魔法を持っていることにお互い嫉妬している。なんと変な話。

 飛翔魔法は、持続十五分と聞いている。使った後は、飛翔魔法を使ってる間の存在しなかった重力が返ってくるらしい。そして、動けなくなるそうだ。十五分程。否、それ以上の場合もあると、聞いたことがある。運動量によって違うとか。

「シェイ、下手に戦うよりか、逃げた方が良い!」

明白わかってるよ でも、この人、立ち回りが巧くて…”

 頭に届く、優しい声。とても、今、ユーリ様に威嚇している龍と同一人物とは思えない。

「私の龍を返して――ねぇ、貴方も私の方に居た方がいいわよね……?!」

 ユーリ様が、見えない大地に足をつけて、より高く飛翔する。

 拙い、逆光で見えない! 私は、慌てて、シェイにしがみついて、地に落ちる衝撃に耐える準備をした。だが、それはいつまでも来ることはなく、目を開くと、ユーリ様は、シェイの尻尾で叩かれて飛んでいた。

「す、凄いね、よく逆光なのに…」

不担心しんぱいしないで。ボク、太陽の子!”

 そういえばそうだった。とはいうものの、凄いとは思う。光に強いのか。というか、その訳せない言語は使わないでくれ。

 ユーリ様は、目をぎらりと光らせて、立ち直る。この間、五分。

 あと十分持ちこたえられれば逃げられると、シェイに言うが、反応が無い。

 どうした、と大声で尋ねてみると、シェイは、身をくるりと一回転させて、歓喜を舞う。

 一緒に回る羽目になる、こっちの身にもなって欲しい。落ちたらどうしてくれるのよ。

「どうしたの、どうしたの?」

做了やった! 夕子”

「私に判る言葉で喋ってよ!」

“ごめん、MASKが見つかったんだ!”

「え……」

 MASK。見つかったと言うことは、此処にいるユーリ様以外居なくて。こんなに早く見つかるなんて、と私は驚いたが、今までも、割りとこういうことがあったらしい。

 MASKは見つかると、別の生き物に寄生して、逃げ回る。

 逃げるのが先か、倒すのが先か、の駆け引きで、いつも負けてるそうだ。

「じゃあ、倒しちゃえば!?」

“それ、ボク、役目違う! グイ! グイを呼ばないと!”

「何、私の龍と話してるの! 私にも、声を聞かせなさい!」

 ユーリ様が、会話しているうちに、刀でシェイの鼻先を切り上げる。

 見事なまでの血が、空に滴り落ち、血の雨を降らせる。それだけで、深い傷だと判る、戦闘なんて見たこと無い私にでも。


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