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第三話 朝の食卓

「夕子…ずっと思ってたことがある」

「奇遇ね、私も貴方に言いたいことがあるわ」

「このミソシリしょっぱい」

「このごはん、ねちょねちょ」

 朝食風景。

 ひょんなことから…いや、自ら申し出たのだが、龍を拾って、一緒に生活することになった。

 ちなみに、監視係だからと言って、パイロンという名の白い小さなトカゲも床でご飯を一緒に食べている。

 人の姿だと食費がかかるからだ。

 シェイの場合、人じゃなくなると、この狭い家じゃ、部屋どころか、家全体を壊す恐れがある。

 それに何より、龍だ、それも珍しい鱗の。どこぞの龍マニアに聞かれたら、やばいやばい。


 「こんなしょっぱいのを、人間はいつも飲んでるの?」

 気の毒にと言いたげなシェイ、彼は味噌汁をミソシリとしか言えない。

 ご飯を作るの手伝うといったから、米を炊かせたが、ねちょねちょだ。

 水加減を間違えたようだ。私は味加減を間違えたようだ。

 味噌汁は私が住んでいる今の地域では、滅多にないもので、珍しいものとされている。

 本来は、野菜たっぷりのスープとかを好むらしい。


「龍も、こんなねちょねちょなご飯を食べるの?」

「まさか! いつもだったら、ハオが…」

 この人は――人じゃないけれど――、いつもなんでそんなに気になるような言い方をするのだろう。

 「ハオって誰?」と訊くしかないじゃないの。

 でも、そんな暗い顔をされちゃ、訊くにも訊けないじゃない。

 人の姿じゃないから、人語を話せないパイロンに問うことも出来ないし。

 問えたとしても、彼の言い回しにイラつくだけだろう。


 シェイの傷は本当に、次の日に包帯を取り替えるときには、どうにかなっていた。傷を縫ったわけじゃないのに、見事にくっついていた。ごはんつぶをつけたように。

 それでも、暫くは傷が気になるから、家にかくまってと言った。

だから私は傷が完璧に治ったら、二人でMASKを探そう、と約束させた。


 雲の子、当然欠伸。どうでもいいみたいだ。

 むしろ、シェイ一人でMASKを探す方が心配のようだったと後に判った。

 だから、私にその話をしたんだろうということも。


「じゃあ、行って来るね」

「メンセツ――だっけ?」

「そう、面接」

 家計は増えた、親はまさか龍と暮らしてるとは思わないだろうから、一人分で暮らせるだけのお金しか送ってこない。送ってくれるだけ有難いのだろうが。

 だから、今日からバイトをしようと、私は決めていたのだ。

「今日みたいに、辛いミソシリを作ってるような人、採用してくれる人いるの?」

 これは嫌味でも、皮肉でもなく、純粋に問いてるということが判るまでは時間がかかった。

 最初のときは何でも聞いてくる彼にいらついたが、なれて来たようだ。

 彼は純粋。白いんだ、何よりも。穢れが一つも無い。純真無垢っていうのかな。

 彼と居ると、たまに物凄く堪らなく、居心地の悪さを感じることがある。

 それを一度だけパイロンに話したことがある。

 すると、彼はやっぱり欠伸しながら、教えた。


「太陽は濁る事無く、人々の上に立つだろう。」

「は?」

「シェイは純真だからこそ、MASKを見つけられる唯一の奴なんじゃよ。ただ、だからこそ、後ろめたさが無くても、――人間で言うと、そうじゃな――子供を前にするサンタの格好の大人のごとく、その純真さに気が引けるんじゃろうよ、何もしてなくても。人の子よ、気にするでない」


 やっぱり、回りくどいと思った。


 「それじゃ、留守番しっかり頼んだからね。火事なんて起こしてみなさい、焼かれた龍を食ってやるわ」

「あははは、ダイジョウブ、何も触らない、何も弄らない。だから、発火、しない。イッテラッシャイ」


 いってらっしゃい。

 そういわれたのは何年ぶりだろう。

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