第三十三話 夕闇を持つ空の隠し子
「お願いです、私を入学させてください! 試験、試験だけでもいいですから!」
「駄目だ駄目だ、誰が指名手配中のお前を入学させるか」
「空の指名手配ならとけたんです」
「どっちにしろ、“夜の魔女”は要らん! 生徒に悪影響を及ぼす!」
「そんな……ッ待って、待って、話を…!」
校長が、ずんずんと走り去っていく。
嗚呼、これで五校目だ。
流石にめげそうになるけど、その度に私は空の子供を思い出して頑張る。
さぁ、次は、技術のレベルが高そうな、あの学校にいこう! でも、明日にしようそれは。
あれから、私は何件も、魔法学校の入学書を手にして、入学させてくれるところを捜した。
だけど、いつの間にか、私が夜を永遠に招いた女だと知られていて、世間からは夜の魔女と呼ばれるようになった。
悪名高いのだ。
しかもまだ指名手配を人間はといてなくて、偶に冒険者がくる。
だけどその度に私はシェイに守られ、ふふんと鼻で笑ってやるのだ。
私とシェイの愛は永遠なのよ。ただ、物理攻撃をする人の場合は、空飛んで逃げちゃうけどね。
「夜の魔女だ!」
気づかれた!? 近所の子供が私を見つけるなり、石を投げつけた。
その瞬間。
シールドが私に張られた、祝福魔法じゃない。祝福魔法は、物理攻撃には効かないのだ。
「去れ人間。さすれば、危害は与えない。夜の魔女から離れよ」
聞いた覚えのある声。振り向けば、そこには、白い魔性。ハオ曰く豆腐ファッション。確かにね、真っ白だけどね? 全身。でも、形は違うんじゃないかしら?
「ヒノ・ユウコ」
そこにはジャオファが居た。石を投げつけた子供は、魔の存在に怯えて逃げ出していた。
「ジャオファ!」
「久しぶりだな」
「どうして、此処に?」
「皆、お前の使い魔をやりたがらなかったから、僕がお前の使い魔だ。全く……見せしめに一人殺しても、誰も挙手せんとは……」
「……魔王の貴方が?冗談でしょ」
「冗談を言う顔に見えるか」
見えない。でも、偶に言うよね。いや、あれは本気か。
とは、はっきり言ったら、後が怖いので、言わないで置く。
だって、本当に本でしか見たことないし――後で読んでみたの、ジャオファに関する本。全部、ジャオファが召還されない唯一の魔物って書いてあったわ――、召還されたのを聞いたこともないもの。
そんな魔物が、私の使い魔? ……怖い。なんか、怖い。嬉しくて、怖い。ジャオファだったら、空の話をしても通じるし、楽しい。なんか、怖いけど、嬉しい。
「じゃあ、帰りましょうか、ジャオファ」
「うむ。しかし低い魔力のままでは敵わん。魔法なら僕が教えて、徹底的に強い魔法使いにしてやる、有難く思え」
ねぇ、シェイ。
愛も素敵だけど、夢も素敵ね。
私、大魔法使いになったら、今度は何を目指そうかしら?
今から、楽しみなの。
現実は厳しかった。だけど、優しいところもあって、だから現実は好きなの。
私、絶望してたけど、貴方から強さを貰った。だから、こうしてめげない自分が居たの。
そうそう、それとね、もうすぐ春になりそうなの。桜が咲くわ。きっと貴方と同じで暖かいから、きっと貴方と同じ瞳の色をしているから、きっと貴方と同じで優しいから、春を見ましょう?
ねぇ。聞いてる?
ねぇ。
自然は好きよ。
自然は。
自然は、ね。
「相変わらず、お前には闇が見えないな、ユウコ」
帰り道、ジャオファがぽつりと呟いた。
「む……。いや、闇はあるか。ただ一つ、お前にはとんでもない闇があるよ。今まで見た中で一番薄い闇が。薄すぎて、気づかなかった。常人が持っていても人には厄介ではないが、僕を従えてるお前が持つのは厄介だ。夕方のような闇だ…………面白い」
「何よ、私に闇って……」
「…………人間への嫌悪だ。空の子供を、助けずに追ったからか?」
「……さぁね? 私には、判らないわ、その闇は。好きな人間もいるわ」
「その好きは、無条件の好きじゃないだろう? 邪険にしないからだろう。他の人間を好きだと言えるか? 自分を、空の子を追いかけてきていた人々が。魔女狩りをしようとしている人々が」
ジャオファはクスクスと笑って私の先を歩き、それから振り返る。
その笑みは、艶麗で見る者を虜にするだろう、きっと。私に効かないのは、何故だろう。
「魔物を好いてるかも微妙だな。どうでもいいがな。――まぁ、あれだ」
嗚呼、今日の空は闇が、月に映えて、綺麗。私を照らしてくれると約束したハオは、空で今どんな思いで、フィアンセの言葉を聞いているのだろう。
「お前は、確かに夜の魔女。お前は、夜の子だよ、『空の子供』。魔術を学んだら、何をしだすのだろうね、お前は。それが僕は楽しみだよ。実に。嗚呼、とても――……どんな闇が待っているのか、ね」
「…………私が悪者みたいになる言い方ね」
「そうだろう? お前は悪い者になる。遠い未来に。悪くならない人間など、居ない。闇がない人間なんて、可笑しいと思ってたんだ。薄すぎて、見つけにくい、ぺらっぺらの闇だったんだ。でも、それが濃くなったから、見つけられた。ということは、これから先、増えるということ…………面白いな、人が今以上に夜の子へ怯える姿は。想像するだけで、身震いするぜ。なぁ、黄昏時の名を持つ、空の子よ。お前は、闇にも光にも属する、まさに、夕方の子、夕子だ――何故、気づかなかったのだろうな。人にも、空の子供が紛れていることに――……お前が一番、空に近しいことに。あいつらは、どんな顔して、見守って居るんだろうな?」
私の心に昇ったのは、本当に朝日なのかしら。魔王にそんなこと言われるなんて……。
「心外ね」
私は、そんな言葉をかけられても、一つ決めているの。
シェイを生き返らせる為でも、空と同じ手段だけは使わないって。
だから、空と同じ奴言われするのは心外だわ。
私は、ただシェイを生き返らせたいだけよ――。
「ユウコ、お前は本当に正義で居続けられるか?」
「そうじゃなきゃいけないわ。だって、私には――大好きな空の子供がついてるんだもの」
ジャオファは私の言葉に、やれやれと諦めた様子。
「そう、お前は夕闇だから太陽の明るさも持っているのだったな。正義も持ち、闇も兼ね備える魔女、か……それならば確かにあの子も生き返るかもしれん」
「――何か方法があるのね?」
「ユウコ、お前シェイの為にどれだけ尽くせる?」
「……全部捧げられるわ」
「そうか、ならばお前は魔力を磨き続けろ。僕ほどになったときに教えてやる、やり方を。まぁ人間の寿命では無理だろうな」
「ジャオファ――人間ってね、どうして人間か知ってる? 無謀なことに挑戦するのが好きなのよ」




