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第三十話 振り返り気付いた時には既に大きな手

「違う、貴方もシェイの兄弟なのよ! シェイが言った言葉を思い出して、そこには貴方も含まれていたはずよ! 大嫌いなら、大嫌いのままで良かったじゃない。それなのに、あの子は訂正したの! 判る、それの意味? パイロンだってハオだって親が怖かったけど、立ち向かったのよ!」

「……数百年の、わだかまりを、たったあれだけの言葉で消せると? そいつらと同じ度胸だと考えてくれるな」

「時間なんて関係ない! 仲直りしたかったら、親しくなりたくなったら動き出せばいいのよ。度胸なんて、気がつけばついてるのよ!」

「相手は死んだ! 死んだ相手にどうしろってんだ!」

「……死んでても、きっとシェイなら届くわ、声が。死んだ者に声が届かないと誰が決めたの?」

「……例え、死者に声が届くとしても、何も言うことはない」

 私はづかづかとグイの方に歩き、グイの真ん前にまで行くと、グイの頬を思いっきり叩いてやったの。往復ビンタよ。

 グイ、私には敵意が無いことは、もう気づいているのよ。

 いいえ、皆に対しても敵意がない。敵意の籠もった攻撃の仕方じゃない。

 前に出会った魔物や人間なんか、私たちを殺す気満々で殺意っていうのかな、それがすぐに判ったの。でも、それが今の貴方にはないのよ。

「兄弟は他人だ」

 ……貴方にはね。

「血の繋がりもない」

 ……貴方には、ね。

「血の繋がりが、あったとしても、己はこんなことをするんだろう」

 ……それで貴方はいいの?

「……でも。幼い、あの手を、握れたら……」



 私は、グイがようやく素直になってくれたと思って、ほっとした。



「シェイ、連れてきたのよ、見る?」

 無言で頷きもしないが、ただ私をサングラス越しにじっと見つめるので、パイロンにトランクをあけるようお願いする。パイロンはそれに戸惑い、声を荒げて私の名を呼ぶ。

 ハオも怒ったような声をあげるが、私が振り向いて見上げると、少し切ないような顔をして、判ったと言い、パイロンにあけるように言う。

 パイロンは渋々と頷いて、トランクの中身を見せる。

 トランクの中には、丸まった姿勢のシェイがいて、表情は苦しげのままだった。

「……そんな狭いところに閉じこめてたのかよ」

 グイは呆れたような声を出してから、パイロンに近づき、しゃがんで、シェイを見つめる。

「今にも生き返りそうだな」

「でも、死んでるの。いいえ、時が止まっている」

「……昔、小さな頃に、手を握って歩こうと、こいつが笑って言った。己は拒否した。兄弟じゃないからと。その時の、何かを我慢するような笑みが忘れらんねぇ。思えば…こいつは、我慢ばかりだったな。忍耐強ぇな、強い、そう強いんだ、己なんかより、太陽より」

 そうね、って肯定しようと思ったけれどグイは望んでいなかった。

 グイは懺悔を呟いているだけだった。

「――大好き、て不思議な言葉だよな。…それが、許されてもいいかなと思えてしまう……嗚呼、こんなに…大きかったか? この手は。成長したんだな。……――シェイ、己を、兄とまだ慕ってくれるか?」

 ――返事するわけがない。それを判っていて、グイは言っている。グイは震えている。グイは、無表情だ。何も感じさせない。今、こんな哀愁ある言葉を言ってなかったら、悲しみなんて見えなかったかもしれない。この人も、感情を隠すのが巧い。でも、今は、今だけは隠さなくて良いのに。

 我慢ばかり。空の子供は、我慢ばかりだ。

「……なぁ、シェイ、テメェ、まだ傷が痛いか?服が新しくて、傷はみえねぇようだが……なぁ、何か、言ってくれ……言え、言えよ…………もう、遅いのか? やっぱり」

 グイは、震える手で、シェイの腹の傷を触る。心臓の傷を触る。

 そして、傷の深さを確かめる。確かめた後には、深い溜息。自分が刺したラインの傷をなぞって、顔を顰める。


「こんな時だけ、兄貴面して、今更兄貴面して、悪ぃな?」


 グイが軽く笑った。自嘲的な笑みだったが、初めてこの人が笑うところを見た。

 シェイの頭を、水色と銀色と金色が混ざった髪の毛を梳くように撫でて、ヒノ、と私に声をかけた。背中が泣いている気がした。

「ヒノ、己はまだ兄弟と名乗れる資格があるか?」

「…今なら、間に合うんじゃない? それに他にも兄弟は居るでしょう?」

「……今更、死を惜しむなんて滑稽すぎらぁ。他にも……っへ、確かにな。愚かすぎる、馬鹿ども。愛すべき馬鹿どもが。……そいつらが愚かなら、己は何なんだろうなァ。――己ぁ、何をしてたんだ……己は、何をしていたんだよ……」

 グイは、ごめんな、と何度も繰り返して、シェイに謝罪する。空に反抗できなかった自分を悔いて、シェイの兄弟だと言えなかったことを悔いて。


 今、初めてシェイの死の悲しみに直面し、僅かに震える。

 兄弟だという感情が芽生えたのだろう。

 ……ハオも、パイロンもそれを黙って見つめていた。ジャオファだけが興味なさげに、髪をいじっていて。

 今、初めて、兄弟全員に、兄弟だという自覚が出てきたと思う。

 シェイの苦しげな死体を見たら、あの日のことを思い出して仕方ないもの。

 あの日の悲劇。悲しくて寂しくて切ない悲劇。でも、空にとってはただの劇だったようだけどね?

“何をしているの、星の子”

「…! …叔母上」

“そんな汚いもの、触っては駄目よ”

「汚いものですって? それが、ついこの間まで可愛い子可愛い子と褒めてた、相手への言葉?」

「叔母上、いくら何でも言いすぎだ! 訂正しろ!」

 こんな大声って、この人、出せたんだ。恐ろしく獣よりも低い声にびくりとした。ジャオファは、何だか楽しげな笑みを浮かべていた。それを聞くと。

“…星の子、お前まさか…”

「己は、シェイの手を取る。もう、今度は振り払わん。しっかりと握って、歩く。こいつらの兄は、己よ。……ハオは姉だが、己が全員の手を取って、歩く」

 グイが立ち上がり、刀を真っ直ぐと声のする方に向ける。

 ハオと同じやり方、敵対宣言ね。流石兄弟。

“星の子、狂言はお止め。さっさと、そいつらを追っ払え。ジャオファ、御前まで居たの?”

「……面白そうなことを、愚息がしているんでね。それより何か言いたいことがあるようだよ、その星の子が」

 そう言ってジャオファが星の子をちらりと見遣る。にやにやと、まぁ、酷く楽しそうね?

 グイは、刀を振り下ろし、真っ直ぐと何処かを見つめて、精悍な声を。

「己はもう兄弟を裏切らんと決めた。叔母上、己はテメェを追っ払う」

 そういって、グイは光の中へ駆け抜けた。

 ハオもそれに続いて、駆け抜ける。パイロンも、私にシェイを預けて駆け抜ける。ジャオファは私にシールドを張ってから、駆け抜ける。

 私は、シェイを抱えて、走れないけれど、歩いて皆の所へ向かう。


 皆の居るところに行くと、光で眩しくて目が開けられなかった。それに気づいたジャオファと思われる声が何かを唱えると、強く光っていた部分が黒く見えて、目を開けることが出来た。

 ハオは月へ攻撃を。パイロンは雲を散らし、グイは一緒に月へ攻撃していた。

“何なの、これは! これは、何が起きてるの!”

 可愛らしい子供のような声が聞こえた。貴方は誰?

「シェイの弔い合戦よ、星!」

“そんなことをしても、シェイは生き返らないのよ”

“馬鹿な真似はお止し、我が子”

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