第二話 MASK
仮面舞踏会しか、脳裏によぎらない己に悔やむ。そんな貧困な発想しか湧かないのか、自分。
せめて、何かそんな一般的な事じゃなくても良いじゃない、つい最近まで魔法使いを目指していたんだから、人一倍、面白い感性じゃないと!
しかし、それは当然の反応といったように、二人はその反応に興味を示さない。
シェイの顔は暗くなり、パイロンの顔は至って飄々としている。
「人間よ、時に自分の意志と反対のことをしておることはないかね?」
「……――どういう、こと?」
パイロンの言葉が何を言いたいのか判らない。
恐らくは、マスクの説明なんだろうけども。回りくどい言い方をしないで、直球に言って欲しい。
もっと、こう判りやすくリンゴは紅色だとか、脳に入りやすい説明ってあるでしょ?
「突如叫んだり、笑ったり、怒ったり、泣いたり。もっと、悪いものを例に出すと、人を殺していたり、とか、かのう?」
それは……最近、冒険者の中で噂になっている。
冒険者同士で、いつの間にか殺し合ったりしていて、犯人は大体が「いつのまにか」と何も覚えてないのだ。
動機ですら「咄嗟に」とかが多くて、自警団は混乱しているらしい。
「そういうことをしてる奴はのう、MASKに寄生されてるんじゃよ」
「寄生?」
「左様。MASKは人々に寄生して、悪意をなす、歌で言うと不吉な予感じゃ。オレらはそれの大本を抹消せねばならぬ。それを見つける役目が、太陽の子、シェイじゃ。そして、オレはシェイの監視係兼記録係、雲の子、パイロン」
……寄生?
そんなの本当にあるんだろうか?
身に覚えは……ある。
そういえば、自分では抑えたい怒りを他人にぶつけて、とんでもないこと言ったりしてたっけ。
「そんなに害は無いんじゃ……多分、普通に生活するだけなら」
そう言うと、シェイは不思議そうな顔をして、パイロンは馬鹿にするように更に笑った。
「おかしな人間だね、夕子。MASKを庇うなんてさ」
「言ったじゃろう? 最悪の場合、人を殺す、と。それが進化した形が何か、判るか? ……戦争じゃよ。我等が父上母上兄者殿は、そんな人間の上のもと暮らしたくは無いと申されるからな」
「兄者……月の子と星の子ね?」
私は再び、どきどきしながら問いかける。
空の子供、あれだけ気になっていた空の子供!
皆は童謡だからって中々気に掛けて、本気で話題にしてくれる人がいなかった。
けど、私は本人と本気で今この話題をしている!
「うむ。シェイが見つけて、星の子、グイがMASKを抹消する。ただなぁ、MASKは厄介で、鼻がオレと同じできいていて、我等の気配がすると逃げ出すものじゃから、困って、すでに何百年という年月をかけていても尚も見つからずにいる」
「何百年?! そんなに年いってるわけ?! お爺さんなのね、貴方たち」
私が驚くと、パイロンは馬鹿笑いして、シェイは不満げな目を向ける。
「ははっ、爺じゃとよ、シェイ」
「………シェイ、一番若い。爺、違う。」
「左様、シェイは末っ子、一番の若輩者。だから、オレらはその若い感性に期待をしておる」
「もっと若い感性は要らない?」
「む?」
「私も、暫くやることないし、落第しちゃっててひまだから、MASK探し、手伝ってあげる!」
パイロンは一瞬目を見開いたが、その柄の悪い眼を半目にして、扇を取り出して口元を覆い、片眉を吊り上げた。
シェイは私とパイロンを交互に見たが、慌てたように、パイロンに主張する。
「パイ、駄目だよ、人の子は巻き込んではいけない!」
「だがなぁ、シェイ、人故に気づくこともあるとも言えよう…娘、ユウコと申したか」
「日野夕子」
今日何度目か判らない自己紹介をして、こくりと頷く。
覆ってた口元をパイロンは扇をパシンと閉じて、露にして、口の線が孤を描く。
その表情がどことなく、魔性を感じた。人間ではない何かを感じた。
それに、それに私はわくわくしている。どきどきもしている。こんな気持ちを持てるなんて。落第された日に、得るなんて。
落第されたけれど、今日は素敵な拾い物をしたようだ。
シェイという名の、少し幼さの残ったドラゴン。