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第二十八話 一つの仮説と大きな可能性

「ハオ、シェイはきっとあのゲームの唄を知らなかったら、幸せで居られたと思うの。私が諭さなかったら、幸せで居られたかもしれない。でも、現実をあの子は受け止めた。受け止めても、シェイは、言ってたじゃない。最後の言葉を忘れたの? 皆、大好きだって、大好きだって言ってたじゃない」

「ハオ」

 パイロンも並んで、鳥籠越しに、扇でハオを指し示す。顔はにっこりと頬笑んでいて、幾分かいつもより、男の色が消えて、少し中性的だった。

「愚姉、とお前さんを呼ぶのが楽しいと言ったら怒るか? ……オレもシェイのように、兄弟に縋れたらと思う。素直に縋れていたら、あんなことは起きなかったじゃろう。まぁ、別の意味で縋っていたんじゃがな。笑うか? オレは雲の子という名前だけに縋り付いていたんじゃよ。魔物の子なのにな? だから、兄弟と言われる度に怯えていた。兄弟の名を否定していた。シェイの前で否定したくなくても……否定せざるをえなかった。魔物の子である自分が、酷く怖かった…。自分だけ魔法が使えるのが怖かった。だから、何をしていても欠伸を、無関心をせねばならなかった。だが、これはこれで、また一つの道。運命? いいや違う、運命なんて響きは嫌いじゃ。運命はあの唄で、この旅は、運命からかけ離れた行動じゃ。そのかけ離れた行動を起こすのは、中々に楽しい。ただ、そのかけ離れた行動の犠牲がお前さんというのは気にくわん」

「パイ、あんたはやっぱり、回りくどいわ」

「ジャオファ。契約を変えよ。結婚ではなく、婚約だ。それなら、何時でも解消出来る」

「……あんまり変わってない気がする」

 私が噴き出すと、パイロンはじろりと横目で睨む。目が鋭いので、中々に怖い。

 ハオは苦笑して、サインする、とペンを要求する。

 ジャオファは、これ以上粘っても何も得られなくなるだろうと思ったのか、頷いて、ペンを取り出して、ハオに渡す。


 ハオは、ゆっくりと綺麗な字でサインした。

 サインした途端契約書が燃えて、ハオの体に吸い込まれる。

 ハオは熱いと言って、服の中をちらりと見て確かめる。

 ハオが何かを言う前に、ジャオファが、先に説明を。

「契約書は体に刻まれる。契約を破ったら、お互い燃えさかるぞ」

「婚約を解消するのは、契約違反?」

「今すぐするのは契約違反だが、何百年後なら契約違反ではなかろう」

「オーケイ。それじゃあ、いい加減、この鳥籠どうにかしてよ」


 鳥籠から鳥は放たれ、自由を得た。

 ただ、足に枷をつけられてはいるけれど。

 そして、その鳥のお陰で、私は空にも行けるし、命の保証もされるのだろう。


*


 「空高く行くにはどうすればいいか、もう判ってるの?」

 ジャオファは魔物数人を従え、全員にこの三人には手を出すなと命令をしてそれを全世界に伝えるように言うと、私の言葉に向き直る。

 魔物は、ちらりと私の方を見て涎を垂らしたので、少し怖かったけど、弱さを見せるつもりはなかった。

 それに、怖がってもしょうがないから。

「空の反対は、何だと思う?」

「……海?」

「そんな貧困な発想だから、大魔法使いになれな……いや、お前ならなれる、うん」

 発言を途中で変えたのは、ハオがジャオファの後ろで殺気立っているからだろう。

 流石の魔王も、フィアンセには弱いんだなぁと、苦笑した。少しだけ、ほんの少しだけ魔王が可愛らしく見えた。

「空の反対にある物は、地上だ。僕らは地上に好かれているから、この地から離れられないんだ。それならば、嫌われて、跳ね返されればいいんだ。その跳ね返す力で、空まで行けると思う。お前らの望む、太陽と月の居る世界にな。ただ、お前、人間だろう?熱は大丈夫なのか?」

「その点ならご心配なく。耐熱魔法を人の子にかける」

「ほう……お前、耐熱魔法を取得しているのか、腕はいいようだな。僕の血の所為か」

 ジャオファの言葉は無視だ。耐熱魔法。これもまた、取得するのが難しく、詠唱の呪文なんか本にすると三十ページくらいの長さだ。

 ただ、どんな熱さにも耐える代わりに、強い魔力の消耗を要求される。

「パイロン、そしたら、戦えないじゃない」

「耐熱魔法はオレが取得しとるんじゃない、こいつじゃ」

 そういって、パイロンは扇を誇らしげにばさっと開いてみせる。

 それからかかかと笑い、自慢げに扇で自らを扇ぐ。金色の前髪が少し靡いた。

「だけど、地に嫌われたら帰れないんじゃないの? ユウコちゃんは。あたし達は空にいるからいいけれど…」

「……そしたら、今度は空が嫌えばいい。空が、お前らが追放すれば、地上は彼女を受け入れるだろう」

 尤もな答えなんだけど、私たちは言葉を失った。

 何と言えば良いんだろう。これまでに生まれてきた連帯感。これが崩れるときがいよいよきたんだなと思うと同時に、彼らとの別れが寂しくなってきた。

「人の子」

 パイがそんな私に気づいたのか、優しく頭を撫でてくれた。髪を梳くように。

「何時でもオレぁお前さんを見守ってる。見られて恥ずかしい真似は、するんじゃないぞ」

「あたしも、よ。あたしも、月になってあんたを暗闇から守ってみせる」

「……シェイはどうするの?」

 私がそう首をかしげると、二人は顔を見合わせてから、パイロンが口を開く。

「人の子、頼みがある」

「何?」

「シェイはあの日からずっと変わりない。老いも若くもなりゃせん。腐りもせん。きっとシェイの時が、死んだから、進まなくなったんじゃろう。空の子供は、時が止まる。新しい発見じゃ――故に、一つ希望論がオレとハオに仮説として出てきて、な」

「仮説?」

「お前さんが大魔法使いになった時……、もしかしたら、シェイの止まった時を動かせるのではないかと。本当に死んでおるのなら、この姿でなくとも良いはずなんじゃ。竜じゃない、人の姿。シェイは人になりたいのではないかと」

「……なれる、かな。シェイを生き返らせる程の魔法使いに」

 不安を告げてみる。一気に舞い上がった不安に、押しつぶされそうで怖い。

 私が少し顔を俯かせると、ハオが今度は歩み寄ってきて、抱きしめてくれた。

 シェイのような暖かさと匂いがして、何だか無性に泣きたくなった。

「離れていても、あたし達は一緒よ、いつまでも。あんたが死んでも、見守ってる。風化しても、風を見守る。人間があんたを追放しても、あたし達はずっとあんたの味方。いつも、傍にいる。一人の時は、空を見上げて? 空には、あたしとパイがいる。その空の下でそんな顔しないの」

「私もね、私もいつまでも、空を見上げている。空を忘れない。貴方達を忘れない! シェイも、シェイも忘れない……あの、桜吹雪を忘れないわ。だから……だから、あの桜吹雪を見る為に、頑張りたいの」

「それでよし。さぁ、じゃあ行きましょう。時間は早いほうが良いわ。でないと、奇襲になんない」

 ハオは離れて、ジャオファと何か話している。

 私がハオの持つトランクを見つめていると、パイロンは人の子、と呼びかけた。

「何?」

 振り向いて頬笑むと、パイロンは伸ばしていた手を、所在なさげにうろうろとさせて、それから目を伏せ、手を下ろす。

「……何でもない」

「何か言いたいことがあるんでしょ、はっきり言ってよ」

「何でもないと言っておろう」

「言ってよ!」

「人の子と話すには、知能レベルをさげんとなぁ」

「なんですって!?」

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