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第二十六話 ジャオファの要求、パイロンとの関係

「……空を倒すというのは、そういうことになるんじゃないのか? 太陽を殺せば、空に闇が訪れ、月を殺せば暗躍者が増え、星を殺せば彩り無く、雲を殺せば雨は途絶え水を得られない」

 この魔物、まるで私たちの心を見透かしているようだ。

 それどころか、それをした場合のデメリットまで考えている。

 魔物は愉快げに綺麗な笑顔を浮かべて、私にそっと近づく。

 私が警戒しているのも理解した上で、私が皆の意思を決めるリーダーだって確信して、近づく奴の顔つきだった。

「確かにお前が望む大魔法使いにはなるだろうね、ユウコ。悪名高い魔力のない人間として。命も狙われやすくなるだろう。そして、魔力のないお前は、すぐにおっ死ぬ」

「……ッさせん! 死なせはせん! 愚弟が守ろうとしていた、愛していた人の子だけは!」

 反応するのは、パイロン。自分の口元を隠していた扇を開かせたまま、魔物に向けて、睨み付ける。ハオも、今にも噛みつきそうな顔で睨み付ける。

 二人の凄惨な睨みを受けても、尚、飄々と居られるこの魔物は、ただ者じゃない。

「人の子を愚弄するつもりなら、黙ってないぞ、……何と、呼べばいい?」

 パイロンは気まずそうに睨み付ける。

 どうしてパイロンがそんな態度をとり続けるのか判らなかったけれど、次の瞬間に判明する。

「知ってる癖に。知らないふりしなくても良いよ、もう、判ってるんだから。よく生きてたね、我が子」

 艶やかな笑みで人型魔物は、今度はパイロンに近づいて、パイロンの頭を撫でる。

 パイロンは心から嫌悪している表情だった――私は驚きが隠せない。

 パイロンの親が、魔物?

 そんな……だって、パイロンは雲の子でしょう?

「……僕は、ジャオファ。愚弄するつもりはない、この女に未来を教えてるんだ。お前らも予測している未来を。何故口にしない?」

 ジャオファは、指先で白い髪をいじりながら、にやにやとしている。

 それから、流し目で私を見つめる。

 でも興味がないのかすぐに視線はハオに戻される。

「闇のない人間は嫌いだ」

「気に入られなくて良かったのう、人の子。オレが知る限り、ジャオファという名を持つのはただ一人じゃ。――魔王ジャオファ」

「魔王?」

 私が首をかしげると、ジャオファは自分を知っているのをさも当然な顔つきで、パイロンを指さした。

「雲は元気にしてたか、愚息よ。よく、僕の正体が判ったな」

「自分の親を知らないわけにはいくまい。これでも長く生きてる。非道冷酷傲慢の魔王サマ?」

 パイロンが震えているのに気丈な声を出しているのは、父親相手だったから……?

 ちょっと、待って、パイロンは雲の子じゃないの!?

「パイロンは、魔王の子なの!?」

 その言葉に答えたのは、ハオでもパイロンでもなく、ジャオファだった。

「数千年前、気まぐれで子を空と作っただけだ。それが平和協定になったのだがな。可笑しいだろ。神獣の兄弟の中に、魔物が潜んでいたんだぜ? しれっとした顔で、皆を騙して。そんな馬鹿に、あの竜は気づいていたから懐かなかったのかな?」

「……ジャオファ!」

 ハオが静止しようとする声を聞こえてないように、ジャオファは続ける。

「空の子供だが、そいつは魔物の子なんだよ。雲の子、と聞く度に、僕は可笑しくて笑い転げそうだったね。秘密をばらすなと言われていたのだが、もう時効だろう」

「……何も、……直接我が子に言わなくたって、良かったじゃないの……良かったじゃないの、この豆腐色ファッション!」

「と、豆腐?!」

 ジャオファが密かにショックを受けている。

 今にも逃げ出したいように、自身を抱えて震えるパイロン。何をそんなに怯えているのだろう? 魔王が怖いのだろうか?

「パイロン?」

「――ハオ、気をつけろ。魔王というのは魔物の頂点に立つ者で、自ら契約書を出すのはおかしい。人間の大魔法使いでも召還に成功したという話は聞いたことなどないわ」

「こんなに人を馬鹿にした奴が、そんなに強い魔力を持ってるの?」

「持ってる」

「あんたに聞いてるんじゃないわよ、ジャオファ! 第一…」

「空を暗黒に纏うのに協力してもいいぞ」

 その言葉に私たちは時を無くした。否、違う、時が止まった、だ。

 そして次の瞬間には、パイロンは飛翔魔法を唱えずに、扇を叩くだけで、私を抱え飛び立ち、ハオは背中に黒い鴉の翼を出して、羽ばたき、陣から退いて、剣でジャオファを狙う。

 ジャオファは剣の切っ先をいとも簡単に人差し指と親指で摘むように白刃取りをして、くすくすと笑った。

「話を最後まで」

「聞く気はない」

「何故だ? 雲の子の秘密をばらしたから? 心の底を盗み見したからか?」

 さっきの見た、という発言はそういう意味か。ハオの心には、闇が沢山あるの?

「あんなに綺麗な闇だったのに。誇りに思えよ、なぁ? 最高に暗闇に満ちていて、後悔と自己嫌悪が混ざっていた。人間では当たり前の感情も、空の子が持つとこんなに違うのかと、思ってしまうくらいに。雲の子の闇も濃かったが、お前の闇は僕達よりも奥深い。美しい顔の裏で持つ闇が、とてもどろどろに真っ黒くて粘っこくて綺麗だ」

 ハオは無表情で、ジャオファを見つめる。でもきっと瞳の向こうには畏怖があるのだろう。自分の心を言い当てられた場合――何も言い返さないと言うことは、言い当ててるのだろう――何も言えなくなって、言い当てた相手が怖くなる。

 剣を持つ手が震えてる、剣を持つ手に力を入れて、一突きしようとしているのだろう。

「魔物を、魔王をどう信用しろっていうの」

「その為に契約書がある。何があっても契約書だけは嘘をつかぬ、魔物のルールだ。覚えておけ」

「質問を変えるわ。何故、人間の夕子でなく、魔力のあるパイではなく、あたしと?」

「言っただろう、心地良い闇を持ってると。闇を隠すと益々闇は際だち、光の隣にいると更に闇は増す。今のお前は誰よりも醜くて深い闇を持っている。ユウコの隣にいる故に、な」

「……ほんっとうに、失礼な男だねッ」

 剣を横に薙いで、ジャオファの手から離れさせ、改めて斬りかかる。

 今度は上から下へ。胴体の開きをするつもりだ。

 だが、ジャオファはその前にシールドを唱えて張って、剣を弾いた。

「魔法の厄介さを、パイ以外に教えられるとは思わなかったわ」

 ハオは悔しげに弾かれた剣を見つめてから、ジャオファを睨み、パイロンに声をかける。

「こいつ信用出来ると思う?」

「契約書に一切都合の悪いことが書かれてなかったら、一切信用するな! 契約書だけは嘘はつかん!」

「ジャオファ、契約書を見るわ」

「じゃあ、地に降りておいで、何もせん。僕はこう見えて、礼儀に五月蠅い」

 そう言うので、私はパイロン、と声をかけると、パイロンはまだ何か訝しんでいた。

 ハオが地上に降りる。

 すると、地上に陣が張られ、一瞬で黒い鉄のような物が何本か上へ向かって籠を作る。鳥籠だ。

 騒ぐわけでもなく、ハオはじろりとジャオファを睨むだけ。

「ジャオファ、どういうつもり?」

「狙った獲物は逃がさない、ということだ」

「礼儀に五月蠅いんじゃなかった?」

「魔物を、魔王をどう信じろって問うたのは、お前だろ?」

「……そうね、信じたあたしが悪かったわ」

「でも、契約したいというのは、本当だ。この世が闇に満ちて人々が闇に怯える姿が見たい」

「悪趣味」

 ハオの目の前で羊皮紙をひらひらとさせると、ハオはそれを籠の中からつかみ取って契約書を見て、固まる。何か都合の悪いことが書かれていたのだろうか。

「ハオ、どうしたのー?」

 大声で問いかけると、ジャオファがお前達には何もしない、と興味なさげに言うので、パイはそろそろ呪文無しで飛翔し続けるのも辛いのだろう、まだ訝しんでいたが、素直に降りることにした。今度は何もされなかった。興味があるのは、ハオだけらしい。

「……パイ」

「どうした、愚姉。何が書かれておった?」

「……結婚」

「は」

「結婚しろって……」

「はぁ?!」

 パイロンは私を下ろすなり、鳥籠の鉄格子を掴み、手を伸ばす、契約書を見せろと。

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