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第二十五話 美しい人型魔物

 歩くも何も、この姿のまま、帽子に入れたまま連れて歩くだけだから、別に可笑しくないのに、と思いながら、パイロンを連れて歩く方が歩くのが楽なので頷いた。

 軽々とトランクを片手で持ち歩き始めるハオに、私はついていく。


「けど、いいの? このままだと、あんた史上最凶の魔法使いのレッテルが貼られるわよ?」

「それも、また一つの道よ。面白いじゃない、最凶の魔法使い」

「……――あたし達が何時までも一緒に居られるわけじゃないのも、知ってるんでしょう?」

「独りでも強く生きられる。

それを証明してくれたのはシェイで、また人が恋しくなるということを教えてくれたのはシェイ。

それでもいつかはその寂しさは消せる人が現れる」

「……――パイがね、言ってた。

“そうやって、前に向ける強さを持つ奴を、久しぶりに見た気がしよる。幾分か、強くなったんじゃないか?人の子は……”って。

あたしも、久しぶりに、見た気がする。あたしは駄目ね、まだシェイのあの泣き顔と笑顔が忘れられないわ。あの子を斬った感触が忘れられない。……あの子の叫んだ、『自分への愛だ』という言葉が忘れられない……」

 ……ハオは先導を歩いていて、どんな顔をしていたかは判らないけれど、背中はまだ泣いているような気がして。何だか寂しげな背中に見えた。

 ハオ、パイロン、貴方達は私を誤解している。前に向いてるんじゃなくて、前を向こうとしているの。いつでも後ろを振り返りそうなのは、一緒よ。

 だけどその度に私は、シェイが生きたいと呟いたことを思い出して、生者として死者を振り返って死者が苦しまないように前を向こうと、意識するの。

「ハオ、強さって何だろうね」

「……強さの定義なんて、曖昧な物だよ。強いと思えば、強いんだ」

「そうなると、私から見るとハオもパイロンも強いわ?」

「……――夕子ちゃんって口が巧いね。パイの“強さ”が移った?」

 ハオの言葉に、私たちは一瞬黙ってからげらげらと笑った。

 ハオはふと空を見上げて、話しかけた。

「ねぇ、聞いてた? 強さが全ての、人型魔物。強さには色んな形があるのよ」

 ハオが語りかけた途端に空が歪んだ。ぐにゃりと歪み、地上には大型の魔法陣が現れ、空から人が……否、人の形をした魔物が現れると同時に魔法陣が光った。他の場所からも魔法陣が現れ、魔物が現れる。何時の間に、囲まれていたんだろう。私が気づかないなんて。

 人型魔物は、白い髪に金色の目。少し長い獣耳をサイドに垂れさせる。何処かガラスのような繊細さを感じたが、加虐的な笑みを見るとそれは消え失せた。

 金色の瞳は幽玄な香りがし、色香が漂う。くぃっと微笑む姿は美しく、絵本で見る王子様みたいな人型魔物だった。

「強さはただ一つ。力だけだ」

「そんなんだから、あんた魔物なのよ。夕子ちゃん、パイ向き? あたし向き?」

 トランクを地に下ろし、ハオは問いかける。私は魔物を見つめて、多分、と付け加えてから、ハオ向きだと言った。

「地上に留まらせることが出来るのなら、ハオ。このまま空中なら、パイロン」

「魔法系なのね」

 魔法系統を使う奴は、詠唱してる間、無防備になるので接近戦に持ち込めば有利なのだ。

 パイロンみたいに、魔道具を使ってない場合は。

「僕は別に攻撃しに来たのではないよ」

 ふん、と鼻で冷ら笑ってから、ハオをじっと見つめる。

 ハオは、好戦的な目をして見返し、パイを起こして、と私に頼んだ。

 パイロンを起こそうと、帽子の中のトカゲを見ようとしたら、其処には居なくて、隣にパイロンが欠伸しながら立っていた。

「何の騒ぎじゃ? あと二時間は寝られると思ったんじゃがなぁ」

「文句を言わないの、パイロン。敵よ」

「やぁ、神獣――雲の子。いいや、間抜けな虎になりきれぬ、トカゲかな。敵と決めつけるな、尤も僕だけ、の場合だが」

 にやぁと魔物は笑い、そして地上に降りてくる。その動作は優雅で、魔物の癖にアフタヌーンティーとか似合いそうと思ってしまった。

 魔物にしては綺麗な造形だと思う。今まで出会った人型魔物は普通のそこら辺に居そうな人間の形でもなく、どちらかというと、影を真似ただけの造形だった。魔物は基本的に獣なのだ。ほら代わりに他の魔物が、ちょっとグロテスクな獣に見える。なのに、この魔物は、普通に居そうな形で、しかも少し美形だ。

 白いレザーコートがよく似合う、イメージカラーが白と決まっているような魔物だった。

「月の子、と人間と、――雲の子か」

 人型魔物がパイロンを見遣ると、パイロンの動きが止まる。それから、微震する。……パイロン?

 パイロンは青ざめていて、怯えと憎しみが混ざった眼差しで、人型魔物を見つめた。

 ハオがパイロンを庇うタイミングで怒鳴る。

「今更ね。判ってて来たんでしょ?さぁ、この二人には近づかないで、あたしがぶっ殺してあげるから」

「言っただろ。僕だけは攻撃しに来た訳じゃないと」

 魔物は馬鹿にでもするような顔で、ハオに近づき、ハオの顔を見て、頷く。

「合格だ、強そうな顔の癖に、計り知れないほどの心地良い闇を持っている。そっちの……雲の子も、持っているね? 否、お前は恐怖か」

「何のこと? 意味不明よ」

 私は思わず口にした。確かに意味不明なのに、ハオとパイロンは何処か険しい顔つきに変わった。警戒心を剥き出しにしたような。否、パイロンは先ほどよりもっと怯えているような気がする。

「あんたっ、魔物の癖に“見た”のね?! 生意気!」

 ハオは、剣を鞘から抜き出して、切っ先を魔物に定まらせる。

 それを見て、パイロンが片眉をつり上げて、扇で口元を隠す。そして、隠した口元で詠唱して、他の魔物を燃やした。燃える魔物をハオは誰でも斬ってしまいそうな勢いで斬りつけて、殺す。

「強さも、二人とも合格。人間の方は目利きが出来るから、合格にしてやろう」

 偉そうな口ぶりで、白い魔物は口の端をつり上げた。

「どうしたの? 何を見たの」

「そりゃ、自分の口から言えないだろうな? なぁ、月の子、雲の子」

「五月蠅いっ、黙れ、この下司げすがっ!」

 ハオは駆ける間もなく剣を振りかぶるが、その隙に魔物は高く回転しながら飛翔して、私たちの後ろに立ち、何事か叫ぶ。

 すると、私たちの下に、陣形が出来ていて…。この陣形は、炎を起こし、陣形内の者を燃やす魔法だ。よく先生達が、要らない書類を燃やすのに使っていたので、覚えている。

 あと一言「燃やせ」と言えば、私たちは焦がれる。

「トラップか」

「そうでもしないと、落ち着いて話せないじゃないか」

「……いいわ、話をしようじゃないの」

 ハオは剣を鞘に収めるが、手はかけて何時でも抜き出せる姿勢で、魔物を睨んだ。

 魔物は満足そうに頷いて、レザーコートのポケットから、一枚の羊皮紙を取り出す。

 …初めて見るわ。魔物が自ら…契約書を出すところなんて。

 魔物の契約書とは、契約者が魔力を与える代わりに、魔物はその者の命令を聞くシステムを証明し、証拠となる紙だ。

 ただ、魔物は知能があまり無いので、自ら契約書を広げて、首輪に繋がれるつもりはない。

 ……この魔物、どういうつもりだろう。

「これに、サインするつもりはないか、月の子」

「……あたし、魔力は生憎と全くないの。それに、契約する必要もないわ」

「……風の噂だが、そこの人間が空へ行く方法を捜している、と聞いた」

 それを聞くと、私とハオの動きがピタリと止まる。……何処で、そんな情報を?

 魔物は、話を続ける。

「そして、人々から空を奪おうとしている」

「奪うつもりなんてない」

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