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第二十四話 放浪し、階段へ向かう

 そういって、額を二人とも抑えている。押さえていた手を離し、パイロンは脂汗を流しながら、また竜を動かそうと手首を捻ったり表に向けたりする。その時に見えた物。……見たことのない、でも、確実に禍々しい呪いの紋章が、額に刻まれていた。

 ハオにもそれは刻まれているようだった。ただ一人、空に味方したグイだけが刻まれていない。

 私は空を睨み付けた。

 悔しい。今の私じゃどうすることもできない。

 ハオのように剣はないし、パイロンのように魔法も使えない。

 こんなに怒っているのに、怒っているのを伝える手段がない!

 なんて悔しいの。

 シェイを守りたいし、シェイの悲しみを叫びたいのに。

“人の子、お前はどうする?”

「……異国の言葉で、聞いたことあるの、こういうとき、相手にどうするか」

 くぃっと親指立てて一線し、逆さまにする。

 最低な空に従うつもりはないわ。シェイを亡くしたのは貴方達のせいだから。

 パイロンも、ハオもそれに満足そうな笑みを浮かべて私を見てから、空を睨んだ。

“星の子、天へ来い。もう役目は済んだ。此方で永住せよ”

「御意に」

 グイは、月への階段を上り、月の光の中へ消えていった。

 眩しかった空が、暗い夜の闇に戻り、静寂が訪れる。

 二匹の竜が消えた。同時にパイロンが倒れた。死んではいない、気絶してるだけのようで、安心した。魔法を使った疲労が、反動がきたのだろう。

 ハオはパイロンに歩み寄り、抱き上げる。

「あんたは嫌いだけど、あんたのシェイへの思いは好きだよ、パイロン…否、パイ……。あんたがきっと誰よりも、兄弟の中でシェイを愛していた……本物の兄弟愛だった。さ、夕子ちゃん、どっか、隠れられる場所に、移動しよっか?」

 パイロンへ頬笑んだハオの顔が忘れられない。

 酷く、繊細で、今にも崩れそうだったから。無くなりそうだったから。そういう脆さというか、儚さでは、シェイに似ているのだろう。


 皆、兄弟だもの。何処かに面影があったって、おかしくないわ。

 だから面影を見つけられて、私は少し嬉しいと同時に、シェイがもういないのだと寂しかった。

 でも、先ほどパイロンが生き返らせる手段があるかもしれないと言っていた。


 だから、生き返る手段に賭けたい――。


*


 シェイ、貴方が死んで、気がつけば、春が終わっていたの。

 夏も秋も、無事にとはいかなかったけど、終わって、もうすぐ冬よ。貴方は寒いから嫌いと言いそうだけれど、雪が降る光景は桜が散る光景に似ていて、とても綺麗なのよ。

 貴方にも少し似ているかもね、シェイ。

「パイは?」

 サングラスをやや上に持ち上げて、私の姿を確認するなり、辺りをきょろきょろとするハオ。額には、呪いの紋章がくっきりと出ていて。

「少し寝かせてくれ、だって」

 私はそう言って、自分の帽子の中で眠っている白トカゲを見せる。

 白トカゲを見ると、ハオはくすくすと笑って、小さいといいわね、と皮肉なのか本気なのか判らない言葉を呟いて、サングラスを取り外し胸のポケットにしまう。

「夕子ちゃんも少し眠る? あたしなら、まだ平気よ」

「大丈夫。まだ眠くない。それに、お荷物になりたくないの」

「貴方がお荷物なら、そのトランクの子はもっとお荷物よ」

 シェイの遺体は持ち運びが大変なのでトランクで運ぶことにした。幸いなことに、シェイの遺体はどれだけ時間が経っても腐ることがないので、助かる。

 でも、その綺麗な遺体ゆえに、未だ生きてるんじゃないだろうか、とか僅かな希望を抱いてしまう。

 シェイの顔は、苦しんだままだった。苦しんだまま、死んだから。その顔を見る度に、笑顔にしたくて顔をいじってみるんだけど、結局は苦しい顔つきのままに留まる。

 あれから、人間にも追われ、魔物にも追われる日々が続いた。

 魔物は天から命令を受けて、私たちを公に殺せるっていうことで、喜んで襲いにかかった。

 でも、悲しいかな、死ぬのはいつも、襲ってくる魔物だった。その度に、パイロンは複雑な色を顔に浮かべていて……。

「そのうち、親玉が襲ってくるんじゃないか?」と、パイロンは細かく気にしていた。

 ハオは剣で、パイロンは魔法で対抗し、私はと言うと、何も出来ないのでお墓を作って死んでしまった魔物を其処に埋めていた。

 私、あれからパイロンに色々な魔法を教えて貰ったの。でも、出来るのは、どれも基本の魔法だけで、攻撃なんてとてもできない。精々出来るのは、ランプに火をともすくらい。

 でも、私はこれはこれで満足しているの。だって、魔法なんて学校に通えなかったのだから習えるなんて夢みたいだもの。

 パイロン曰く、「常人がすぐに大きな魔法を使えたら、皆大魔法使いになって剣士は廃業じゃ」だそうだ。

 基本魔法を使えるだけでも凄くなったと言いたいみたい。

 剣を使う物理攻撃者が全員、攻撃力が強くて安易に走れる魔法に走りたくなるって意味でもあって。

 自分でも魔力が少し強くなったなって、思うの。

 だって、前だったらどの魔物も怖そうで、強そうに見えたんだけど。

 今じゃ、嗚呼この子はパイロンなら勝てそうとか、ハオの剣の方が効きそうだって、目利きが出来るようになったんだもん。

 だから二人に、どっちが誰と戦った方がいいか、とか聞かれるの。

 私たちは、皆から追われながらも、天に昇れる階段を捜しているの。

 皆で話し合った。空を倒そうって。でも、どうにもいい策が出なくて、こうしてうだうだしてる。

 策が出ないってのもあるんだけど、もう一つ。

 私が空に、何処まで行けるか、心配なんだって。

 だから、私は時間があるときは、パイロンに習って飛翔魔法の上級者向けの飛翔を覚えている。空からの許可がないと飛べないんだけど、でも例外の魔法をパイロンってば知っていて、だから、合間に教わってるの。

 ……パイロンは、よく戦ってくれるし、よく教えてくれる。睡眠時間もいつだか判らなくて、疲れるのも無理はない。

 それでもパイロンは、大丈夫だと笑って、弱音を吐かない。

 その姿が、貴方と被るの、シェイ。我慢してばかりの貴方と。

 ねぇ、無理はしすぎてないわよね?

「何考えてるの?」

 此方を見ずに、缶コーヒーのプルタブに苦戦しているハオが聞いてきた。

 私は、素直に答えるべきか言わない方がいいのか、迷う。

「まだお荷物とかくだんないこと考えてたら、三枚におろすわよ」

「じゃあ大丈夫ね、三枚にはおろされない。ただね、ちょっとシェイとパイロンって似てるなぁって思ってたの」

「……和善的孩子おんわでぜんりょうなこども

「え?」

「優しい子、って言ったのよ。二人とも優しい子。ただ、パイの方は、あたしはあんまり好きじゃない回りくどい優しさだけどね」

「……パイロンって何でこんなに回りくどいんでしょうね」

「…――性格じゃない?」

 ハオが首を傾げて考え込み、ぽつりと呟いた。

 その返答に私は尤もだと噴き出してしまう。プルタブをやっと負かしたハオは苦笑してコーヒーを飲む。

「……結構、経ったんだなぁ」

「……――人間にしてみれば、結構経ってるのよね。あたしらから見れば、ほんの一瞬だけど」

「グイはどうしてるのかな」

「……あいつのことは、口にしないで」

 グイの名を口にした途端、厳しい口調になるハオ。ハオはあの件で、すっかりグイのことを嫌ってしまったようだ。否、元から嫌っていたようだが、益々。

 「ごめん」と、つい謝ってしまう。ハオは言葉を聞いたのか聞いてないのか、気にしないでコーヒーを一気飲みする。

 コーヒーを飲み終わると、「コーヒーのブラック飲む奴なんて、味覚音痴じゃないとあり得ないわ」と、渋い顔をした。

「さ、行きましょう、此処には二日も居たんだから、そろそろ集まって来ちゃうわ」

「パイロンはじゃあ預かっていて。私はシェイを…」

「あたしがシェイ、あんたがパイ。パイとあたしが仲良く歩いてたらおかしいでしょ!?」

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