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第二十三話 空の子供の怒り

 貴方の体を私は抱き、心への大打撃を泣き叫んで、空を憎んだ。


 人の姿のまま、死んだのは、何故?

 貴方なら、竜の姿が本当の姿なんだから、竜の姿で死ねたのに。


 貴方は、私と一緒の種族でありたいの?


 シェイの言葉が、脳内でリピートされる。


 ――同じ空の子供だったらよかったのに。


 シェイ、でも、私、人間で良かったよ。

 だって、そうじゃなければ、グイみたいに冷静に貴方を斬っていたかもしれない。

 そうじゃなければ、ハオみたいに貴方を殺せないと泣き叫んでいたかもしれない。

 そうじゃなければ、パイロンみたいに寝ている間に貴方が死んでいたかもしれない。


 空の子供であっても、愛せる自信はあるけども、人間でよかった。


 だって、人間である方が、貴方への愛が深まってる筈だから。


 空の子供、太陽の子、シェイ。

 貴方が好きよ。


*


 誰も何も喋ろうとはしなかった。

 ただ、ハオの泣くのを押さえようとするしゃくりだけが、響いて。

 桜吹雪がそれを慰めるように、ハオを包む。だけどシェイが死んだと同時にその勢いは消えていて、最後には撫でるような風が、ハオの髪を弄ぶだけだった。

 「……何が、起こった?」

 頼りない、弱気な声が聞こえた。

 何かを恐れているような、震えた、怯えた声だった。

 ……――パイロン。

 パイロンが、よろめきながら、私たちへ近づく。

「何が、起きた?」

 誰も答えられない。現実を認めたくなくて。

「末っ子、何故横たわってる?」

 誰も答えないから、シェイに問いかける。答えられない。現実が厳しいから。

 パイロンがシェイの方に歩み寄り、屈んでシェイの頬を触る。

「末っ子、どうしたね」

「パイロン、死んでる」

「末っ子、起きろ。男は女を泣かしてはいけない」

「パイロン」

「末っ子、ほら、起きんか。MASKはもう逃げたんじゃろう? 殺される必要はなくなったんじゃろう?」

「パイロン、死んでるの」

「人の子、愚弟がすまんなぁ。重かろう、その膝に乗っけていては」

 そういって、私が抱きしめていたシェイを奪おうとする。私は首を振り、益々シェイをぎゅうと抱きしめる。

 ――パイロン、死んでいるの。シェイは。

 パイロンは、ショックを受けたような顔をした後、行き場のない手を握りしめ、拳を作って、地面へ叩きつける。

 それから、畜生、と呟いた。

 「……シェイは、誰よりも空に忠実だった。独りで寂しくても我慢して、独りで辛くても泣き言は言わないで。……そんなお前を、何故空が、母上父上が殺す?」

 パイロンは、震える手で、シェイの冷たくて青白い頬に触れる。

「誰よりも! 誰よりも、貴方達を慕っていたシェイを何故殺すんだ、空よ! 答えやがれ、この馬鹿どもが!」

「パイロン……」

「……愛は危険じゃ。やっぱり、危険じゃ。……こんなにも、憎しみを与える。こんなにも、殺意を与える。……何もしなかった自分も憎いが……嗚呼……嗚呼ぁああ!!」

 もう一度、今度は両手で地面に拳を叩きつける。俯かせたその顔に光る物が一瞬だけ見えたが、それはすぐに消える。

 “雲の子、雲の子、泣かないでくれ、悲しいと”

「五月蠅い、泣いてなんかおらん! ただ、貴様らとオレの愚かさにむかついてるだけじゃ!」

“雲の子、これはゲームなんだ、たかがゲームの駒に感情など抱くな”

「…ゲームですって?」

 その言葉に反応したのは、ハオだった。

 元々鋭い顔つきで怖かった外見に磨きをかけて、より一層怖い顔つきになって、空を見上げる。

 「ゲーム? ゲームと仰った? 母さま」

“そう、ゲーム。私たちの作った「物」が制作者に逆らえるかどうか、賭けていたんだ”

「…なんですっ…て…?」

 私が怒鳴り声を上げる前に、ハオが怒鳴っていた。

「母さま、何よそれ! それじゃまるで、あたしたち、その遊戯に付き合わされるために、こんな苦悶を繰り返したの? シェイを独りに? 兄弟をバラバラに?」

“月の子、優しい月の子。お願いだ、心中で叫ばないでくれ。辛いと”

「……人の心を……人の心を、何だと思っているのよ!」

 ハオは涙をそのままに、立ち上がり、剣をシェイから抜いて、光り輝く月に向ける。

 敵対宣言、だろう。これは、明らかに。

 シェイの体が宙に浮きかける。

 空が、シェイを連れ戻そうとしているんだろう。

「駄目よ、渡さないわ」

「? 人の子、どうした」

「シェイを空が奪おうとしている」

「……絶対に、その手を離してはならんぞ、もしや生き返らせる手段があるやもしれぬ」

「判ってるわよ」

“愚かな。人の子、お前まで私たちに逆らうのか?”

「私はね、小さな頃は貴方達の唄が大好きだったわ。でも、今は大嫌い。こんな悲しい出来事をゲームと名付け、遊んでいた、予測していた唄なのね。大嫌いよ。そんな唄にシェイは渡さない」

“……良かろう、シェイはお前に預ける。だから、叫ぶな、心中で酷いと。どれも、私には耳障りだ”

「もっと耳障りにしてやろうか」

 パイロンが馬鹿にするような笑い方をして、何か詠唱をする。

 それも、いつもより長く、難しい単語が時折混ざり、光と桜がパイロンを包む。

 風が地面下から沸きあがり、パイロンの髪を靡かせる。

 「召還具現化魔法ね」

 ハオが小さな声で呟いた。その言葉に、昔見た物語でしか存在しない魔法のことを思い出した。

 召還具現化魔法。それは、自分のイメージに沿った魔物を召還…否、作り出して、それを敵に向けて、自分のイメージで操り、戦うという。想像力が大量に必要な魔法だ。そもそも魔法には想像力が必要で、常人以上の想像力を持ってないと使えないと聞いた。

 大抵この魔法を使う魔法使いは、命を犠牲にしていた。それ程強い代償がいる魔法なのだ。

それでも、それを惜しげもなく大声ではつらつと呪文を唱えるパイロン。

 扇を開き、外へ向かって扇ぐ。現れたのは、金色と銀色の二匹の竜。嗚呼、シェイをイメージしたんだな、シェイの悔しさを具現化したんだなってのが一目でわかった。


 空へ竜が登ろうとしたとき、グイが飛び上がり、二匹の竜に立ちはだかる。

 空へは行かせまいと、刀一本で二匹を相手する。

 それに驚いたハオが、目つきをより厳しくして、唇を噛みしめた。

「だから、嫌いなのよ、あんたって。淡泊すぎて」

「嫌われても結構。空が己の全てだ。唄が己の全てだ。これがゲームだと言うのなら、仕方がなかったことなんだ」

「仕方がないことなんて、何一つありゃせんわ! 愚兄よ!」

 パイロンが怒鳴るように、言霊を作る。二匹の竜は、何か命令されたのか、空への狙いをグイへの狙いに変えて、パイロンの手の動きに合わせるように、くねり、咆哮を。

 一匹は、火の息を。もう一匹は雷の息を浴びせた。…だが、グイは無事だった。

 グイ自身が何かをした訳じゃないと見える。

 だって、魔法は使えないような発言を以前にしていたからだ。

 「空の守護か…!」

 パイロンが悔しげに、そう呟く。

 その途端、パイロンが弾かれるように倒れた!ハオまで!

 「大丈夫? どうしたの!?」

「……親認定の悪ガキだとさ、オレらは」

「は?」

「……呪われたのよ」

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