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第二十話 否定しない空の子供




「お前の話術は、訳の判らない力があるんだ」

「そんなこたぁないよ。オレはただの小さな白トカゲじゃ」

 思わずグイの言葉に、私は噴き出してしまった。確かに、パイロンの言葉には、何処か説得力があるような無いような。回りくどいけれど、慣れれば、それもまた彼の味だと思える。

 パイロンは噴き出した私をじと目で見遣って、暫く無言で扇いでから、賞金首の紙をぐしゃりと握りつぶす。

「まぁ、なんにせよ、オレらには、関係ない事じゃ。いざとなりゃ、オレらは空に逃げられるからな」

「……夕子は、どうするの?」

「ぬ?」

 シェイの言葉に、パイロンがはっとしてシェイを見つめてから黙り込む。

「夕子は、人の子。空には逃げられない。どうするの?」

「人の心配なんて、するの、あんた」

 ハオの言葉はよく聞けば酷い発言だけど、一切人と関わりの無かったシェイへの発言なら、それなりに正しく聞こえる。気がする。あくまで、気。

 シェイは聞き返すハオに、こくりと頷いて、ハオから離れ、私の傍に走り寄って、ぎゅうぎゅうと抱きしめる。

 それを呆然と見つめ、それから私を見るハオ。その目には嫉妬など一切宿ってなかった。

 ただ、切ないような、悲しいような感情が隠れていて、苦笑するだけだった。

 ……可愛い弟に突然思い人が出来たら、嫉妬が少しくらいは宿っても良いはずなのに、ハオには一切嫉妬が宿っては居なかった。

 パイロンの偽善的、の言葉に頷けるような。

「夕子は大事」

「シェイが人の心配するようになったなんて……っふ」

 ハオが頭を抱えて、泣き叫ぶ。

「成長しちゃったよ、おかーさぁあん!! あたしの知らないシェイが居るよー!!」

 前言撤回。ブラコンだこの人。

「もう一つ、面白いことを教えてやろうかえ?」

「何よ、あんたから教えるなんて不吉な事ね、寧ろ不吉そのものよ」

 そうは言いつつも、パイロンから耳打ちされて、目を見開くハオ。

 すん、と鼻を鳴らして、ハオはパイロンを睨んだ。

「愛なんて、あたしだって与えていたじゃない。危険じゃないわ」

「それ故にMASKに寄生されたと言ったら、どう思うかえ?」

「……シェイ」

 ……じっとこっちを、否、シェイを見つめるハオ。

 髪をかき上げ、じぃっとただ黙ってシェイを見つめる。そして、にこりと笑い、おいで、と手招きする。

 シェイは、益々私を抱きしめる力を強めて、じりじりと後退した。

「夕子を愛して判った。ハオの愛は、何かが違う。愛じゃない」

「シェイ……」

「……愛よ? これも愛よ? 色んな形があるのよ、愛は」

「違う。ハオのは、”自分への”愛だ!! 僕への愛じゃない! もう騙されない! この兄弟の中で、僕のことを愛してくれる人はいない! 夕子だけしか、愛してくれない!」

 誰か、誰か否定してよ。

 でないと、可哀想じゃない。こんなに思ってるのに、それが拒否されたようで、可哀想じゃない。こんな悲しい事ってある? シェイは寂しい子なのよ。私と同じで、誰一人味方が居なかったのよ。パイロンは密かに味方してたけど、その思いは、今肯定しないと無かったことになるのよ、ねぇ、パイロン。

 誰か、誰か。

 「誰か……否定しようよ」

 

 でないと、本当に。


「否定しなさいよ!!」


 ――本当に、シェイには、私しか居なくなる。


 皆、顔を俯かせて、何処か別の方向を見ている。

 パイロン、貴方は違うでしょう? 何でそんなに自信が持てないの?

 シェイのこと思ってなかったら、嫌いになってくれなんて、言えないでしょう?

 グイ、貴方も違うでしょう? 何でそんなに無関心のふりをするの。

 シェイのこと好きじゃなかったら、MASKのことで悩んだりしなかったはずだ。

 ハオ、貴方のことはよく知らないけれど、今否定しないとシェイの思いが無効化されてしまうことくらい判るでしょう? 何で否定しないの。

 シェイは、ひっくと、しゃくりを。

 上を見上げれば、頬に冷たい水が落ちてきて。

 シェイの涙だ。シェイ、と私が声をかけると、びくっとして。

「夕子」

「シェイ……」

 シェイ、何も言わないで。


「……ごめんね、幻滅させて。空の子供は、こんなにも仲が悪いんだ」

「シェイ……もういいの」

 シェイもう自分を傷つけて、痛いって泣き叫ばないで。


「君の好きな仲の良い空の子供は、存在しない。なぜなら、僕もまた」


 この時から、何かが綻びだしていた――。

 否、元からもつれたまま繋がっていた布が、一気にほどけて、ばらばらになってしまったんだ、きっと。

 可哀想な子。悲しい子。誰よりも愛を望んでいるのに、近くの愛に気づけなくて、あるいは望んだ形の愛じゃなくて、独りで寂しい寂しいと泣いている。孤独に耐え続け、その仕打ちがこれだなんて、あんまりだ。

 なぜだか、小さな頃、空を見上げてばかりの私と被った。


「僕もまた、彼らが嫌いだからだ。大嫌いだ、皆! 皆、皆、皆! 太陽も、月も、雲も、星も、パイも、グイも、ハオも! ……夕子、君が」


 シェイが小さく呟く。今にも途切れそうな程、か細い、小さな声で。


 ――君ダケガ愛シイ。君ガ同ジ空の子供ナラヨカッタノニ。


「シェイ!!」

 シェイは、私を離し、窓から、飛び、どこかへ飛んでいく。

 追いかけようにも、階段が何故か見えなくて――嗚呼、これ涙だ。涙で滲んで見えなくて、ただ、私は空に吠える。シェイの名を――。


*


「……何で、何で、誰も何も言わなかったのよ!」

 その言葉に誰も反応しない。

 反応を遅れながらも、パイロンが少しだけ口元を扇で隠して、ハオを見遣る。

「誰も、ハオの役目を知っているから、言えやしえん。……唄を、覚えているか、人の子?」

「唄? こんな時に何を言ってるの?」

「唄が己らの全てを現している」

 グイが静かに言って、それから、窓から飛び降り、飛翔魔法でシェイの後を追う。

 何も言えなかったから、せめて追いかけて、此処へ連れ戻そうと思ったのだろう。

 それとも、まさか……。

(嫌な 嫌な

嫌な 嫌な 嫌な予感。


太陽の子、嫌な予感感じて

星の子、弟思い、嫌な予感殺しちゃう

雲の子、それ見て欠伸。


でも本当の嫌な予感は

太陽の子殺す月の子

月の子、血を浴びて、にこり笑い

雲の子やっぱり欠伸)


「どんなに、言い繕ったって、あたしの愛は、偽善だ――」


 (でも本当の嫌な予感は)


「小さな頃は、殺すのも仕方ないと思ったよ。でも、段々と寂しがるあの子が可愛くて」


 (太陽の子殺す月の子)


「一時期仲は良かった。とても。でも、ある日、その唄を知ってしまったシェイが居た」


 (月の子、血を浴びて、にこり笑い)


「自分を殺す予定の奴と、仲良くできると思う?」

 できるわけがないって返事は当たり前だ、だから私は次の言葉を待つ。

「それを承知した上で、愛してるというあたしは、そんなに偽善的?」

「……偽善も何も、仕方がないとしか言えん」

 二人を見て、ふと不思議に思った物を言葉にしてみる。

「空に反抗しようとは思わなかったの? 唄に反抗しようとは思わなかったの? 馬鹿みたいじゃない、唄に支配される人生なんて」

 私がそう問うと、二人は自嘲的な笑みを浮かべて、互いを見合う。

 「確かに、オレらは馬鹿じゃ。それが出来たら、どんなに楽じゃったろうか」

「否、それすらの勇気さえ、なかったね。思いつかなかった」

「……貴方達って、前々から思ってたんだけど、空には凄い忠誠心が溢れているのね」

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