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第十九話 僕を忘れないで



「だって、夕子、僕のこと男扱いしてくれないんだもの。こうすると、僕が男だってよく判るでしょ?」

 その言葉に、私は辟易されてしまった。そして次の瞬間には、声を立てて笑っていた。

 だって、貴方、気づいていたんだ?

 弟扱いじゃ駄目かしら? なんて、言ってみる。すると、弟ですらない、と答えられた。

 そう、弟ですらないのかもしれない。


 友達。親友。


 種族を超えた恋愛にはならないけれど、種族を超えた友情は結べた。


 本当に。このまま、時が止まってしまえば、と、何度思っただろう。

 桜が咲いてる場所に着いた時も、また思った。


「綺麗……」

「うん。綺麗。昼の桜より、夜の桜の方が、生き生きとして見える」

「きっと、夜に映えるからよ。薄紫の桜、と、闇色の夜。白と黒、みたいね」

「……ねぇ、夕子。本当に、魔法使いになるつもり?」

「ええ、駄目で元々、目指してみるわ」

「……危険だよ? 冒険に強制参加させられるって、パイがいってた」

「……――あの人は、何で知ってるかな」

「だって、パイ、人に化けて、偶にパーティ参加してたもの」

 ……恐らくそのパーティは、パイロンばかりに頼ってたんだろうなぁ、なんて簡単な想像して、ふと笑いが起こる。

 シェイは、はにかんで、何か唱え始めた。

 すると、金と銀の砂のようなものが現れて、私の頭の上から、降ってくる。

 しゃらしゃらと今にも鳴ってもおかしくないのに、それは氷を割ったような音を出しながら、私に金と銀の砂の雪が降る。きらきらと光り輝いて、純美だ。

 私は、思わず感嘆の息を漏らし、手を広げて、上を見上げて回った。くるくると。

「夕子へ、プレゼント。祝福の魔法。空が、夕子を守ってくれるよ」

「素敵な魔法ね。祝福魔法……確か、未来永劫、かけた人を忘れない限り、自分にシールドをかけてくれるんだったっけ。その人の思いが強ければ、強いほど。物理には聞かないけど…」

「夕子、本当によく知ってるね。いい魔法使いになれるよ、きっと」

 苦笑してシェイは何かをまた唱えだした。今度は何だろう?

「見上げて!」

 言葉に従うと、今度は桜の嵐が起きた。しかも、紫の桜が、ピンク色、白色に変わったりして、綺麗な嵐に。

 桜吹雪……。こんな、三色同時に見られるなんて、なんて贅沢なんだろう。

「シェイ、凄い! 綺麗、綺麗よ!」

「自然に力を借りたんだ、皆、夕子に綺麗って言われて嬉しいッて言ってるよ」

「シェイは自然と喋れる…」

 愚問だ。竜は、自然に一番近い生き物。動物でありながら、神獣であり、知性もある。

 自然と喋れても、なんら不思議はない。

 シェイも愚問だと気づいたのか、ただ優しく笑ってくれた。


 でも、私、来年見ようね、って言ったじゃない。

 何故今見せてくれるの? 何故、来年じゃないの?

 その言葉を言おうとしても、勇気が出なくて飲み込んだまま。

 不安がココロを支配する。シェイと私は、遠い未来でもない頃に引き裂かれるんじゃないだろうかって。


 このまま、居られたら、いいのに。


 次の瞬間、桜吹雪が、黒い鴉の羽吹雪に変わった。

 何だろう、と私はおろおろとしながら辺りを見回す。

 シェイも戸惑い、辺りを見回す。

 ――響くのは、女の笑い声…。


「駄目だ、シェイ。自然界の力は、そう簡単に見せて良い物じゃないのよ?」

 少し低めのテノール声の女。上を見上げると、桜の木の枝に、ロイヤルブルーの男物のスーツを着た、少し凛々しい顔つきの女の人が、長い金髪を靡かせて座っていた。


 月明かりに照らされて、頬笑むのは、月の子。


 月の子にこり。


「初めまして、人の子――夕子ちゃん、だっけ? あたし、ハオ。宜しく」


*


「で、一体何がどうなってるわけよ、このクソトカゲ」

「どうもこうもない、ただなるべくしてなっただけじゃ、泥鴉」

「誰が泥よ、誰が! この綺麗な金髪を見て!」

「それがどうかしたか?」

「シェイの少し混じってる金髪は、あたしゆずりなのよ! シェイは美人! よってあたしも美人!」

「……また弟自慢でも始める気か。それならば、銀髪は誰ゆずりじゃ」

 パイロンとハオはさっきから怒鳴ってばかりだ。そして、それに付き合わされて、パイロンはうんざりといった顔で、やれやれと首を振る。

 グイはただ、見守っているだけだった。

 シェイは怒鳴りあう二人を見て、おろおろと。少しだけ、偶に笑って。

 その度に二人が笑うな、と怒鳴るのだが。

「母様に言われて来てみたら、何、これは。何で、シェイが賞金首になってるの」

 そう言って、パイロンの前に突きつけたのは、似顔絵付の四枚の紙。

 それぞれ、描かれた本人が手に取ってみると、その絵の下には、金額が書かれていて。

 わぁ、私ってこんな価値あったんだ、なんて新たな発見。

「僕が一番高い」

「っちぇ、オレの方が魔法を使えたりで凄いのに」

「……己はヒノより低いのか、金額」

「張り合うな! 問題はそこじゃないの、そこじゃないのよ! なんで、なんで、あたしの可愛いシェイが、賞金首になってるのよ!」

 皆の顔が気まずく鉢合わせし、目配せしてからハオから目をそらす。

 返事に代理として応えたのは、パイロンだった。

「……そりゃあ、逆恨み……が、七割、挑発三割」

「挑発って何よ、挑発って! 男ならしゃっきりはっきりしっかり言いなさいよ! だから、あんたは可愛くないのよ! 回りくどい! 回りくどくて面倒なの!」

「あ、それ、私も思いました」

「夕子ちゃん、気が合うわね」

「……突然の姉は、感動の再会を果たすなり、人間の妄想で書き上げた紙に踊らされ、愛しの弟を苛む。そしてそれにつられ、苦楽を共にしたはずの人間にまで見捨てられる……ふ、可哀想なオレ」

「だぁから、あんたのそういう言葉が回りくどいんだって! 第一妄想じゃなくて、現実に捜されてるでしょう!? だから、こんな暗くてじめじめした廃墟に泊まってるんでしょ!?」

「ハイ、そうです」

 きりっとした顔つきで敬語になって応えるパイロンに、シェイはけたけた笑い、グイは呆れる。

 ハオは、ああもう、と髪の毛を掻き毟っていた。

「素直になったら素直になったで、気味が悪ィのよ!」

「――姉者、ならどうすりゃいいんじゃよ、オレぁ」

 パイロンはこれで、二十回目の深い溜息をつく。

 それを見てから、ハオも溜息をつき、今度はグイに睨みをきかす。

「あんたがついてて、何でこんな事態が起きてるの。慎重さがウリのあんたが。何で」

「仕方がない」

「あんたは、はっきりしすぎてて嫌いよ、ってか淡泊! ええい、皆嫌い! 兄弟内で可愛いのは、シェイだけよ! 何でそんなに可愛くないの、あんたら!」

「ハオ、落ち着いて」

「シェイがそういうなら、落ち着くわ」

 今にもハートがつきそうな、見事な声色の変わり方をして、今度はシェイに抱きつくハオ。シェイはおろおろとしながらも、苦笑して抱きしめ返す。酷く苦い笑いだ。

 パイロンが扇で自分の口元と、私の耳を覆い隠しながら、耳打ちをする。

「凄いブラコンぶりじゃろう」

「偽善じゃないじゃない」

「……端から見ると、そう見えるじゃろうな。でも、生まれた当初はそんなに構ってなかったんだ。それに、役目が――」

「クソトカゲ、何夕子ちゃんに吹き込んでいるのよ」

「ヒノ、離れろ、危険だ」

 グイの言葉に、パイロンは馬鹿笑いして、その後に自分を扇で扇いで、自分に風を送る。

「危険とは、何がだね」

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