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第十七話 兄弟の違和感




 太陽の子殺す月の子、の意味が小さいときも、大きくなっても判らなかった。

 だから、今、意味を知って、はっとする。

 ……その時の、パイロンとシェイの顔が、似た色を浮かべているのに、私とパイロンは気づかなかった。

 複雑な、色に。

「……ハオが来るのが、何時だか判るか、グイ」

「数日後。早くて二日、遅くて五日」

「グイ、グイはいつまで、此処、いる?」

「己か? 己は……今回は、なるべく地上に留まっていろと母達に言われた」

「じゃあ、五日後だね」

「……何でだよ」

「ハオ、グイのこと嫌ってるもの」

 その言葉に、グイは固まるが、すぐに解凍される。

 パイロンが、扇を広げ、再び、口元を隠し、自分を扇ぐ。

「なんにせよ、これで、空の子供が集まるわけだ」


*


 あれから、四日が経った。

 私たちは、街を転々としていた。

 というのも、ユーリ様のお兄さんが私たちの首に、賞金をかけて、指名手配しているからだ。

 空の子供は、いざとなれば空に帰れるけれど、私なんかどうしろっていうのよ。

 街を転々とするにはお金が必要だって?

 それは大丈夫。グイがお金を一杯持ってたので、助かった。どうしてそんなに持ってるの?と聞いたら「賞金稼ぎ」と答えられた。星の子は現実的だ。

 私は、誰も口にしないし誰も疑問に思ってなかったが、何故子供達に無関心な筈の彼らの母達が地上に留まるよう言っていたのか、気になっていた。

 何かよくない予感がする、というのか、なんというか。

 魔法使いのカン? なんて、自分でも皮肉る余裕が出来たのは、パイロンのお陰だろう。

「夕子、どうしたの?」

 シェイが少し大人っぽい表情を浮かべて、私に微笑みかけてきた。

 私は何でもない、といって、寝床を捜す彼らについていく。

 シェイがMASKに取り憑かれて、変わったことと言えば、闇魔法を覚えたことと、少し大人っぽくなったことくらいだろう。

 何だか子供子供していた彼が消えて、少し寂しかった。

 それをパイロンに、シェイが寝ているときに言ってみたら、またしても回りくどい言い方だったので、前半は教えない。

「愛が高まった場合の、最高の感情を知っているか?」

「何それ」

「恋愛感情じゃよ。シェイは恋愛感情を抱いちょる。だから、それ故お前さんに合わせようと、成長が進んでる。MASKが動きだしちょるんじゃ」

 MASKはシェイの中で寄生しているので、シュンが逃げないように結界を施した。

「私に……恋愛感情?」

「左様。いっそその感情を受け止めてみてはどうかね? 竜と人の恋物語、人間界にありそうな下世話な話じゃ」

 私には、その感情はないことははっきりと言って置いた。勿論、シェイにも。

 するとシェイは少しだけ切なそうな表情を浮かべて、判ってる、と短く答えただけだった。

 でも、大好きだからね、というと、彼は嬉しそうに笑う。大好きという言葉が、好物なのだ。愛を知らなかった彼にとっては。

 それを見る度に、パイロンは茶番だと茶化し、馬鹿にしたような溜息をつく。

「男の気持ちなど、永遠に女に判ることはない。また、逆も然り」

「は?」

「どうせなら、嫌われた方が楽、というもんじゃ。生殺しじゃよ」

「厭だ。僕は夕子に、嫌われたくない」

「……変わり種だこと。オレだったら、嫌ってどっか行って貰った方が楽だな!」

「僕は、夕子と居るだけで幸せだもん」

 そういって、シェイは私をぎゅうぎゅうと抱きしめる。この抱きしめる癖は直ってないようだ。成長しても。

「そういえば、人の子、親に連絡しなくていいのか?」

 そう、空の子供に親がいれば、人の子に親が居ないわけがない。

 私は、言われる前に伝書鳩を使った。

 これから、私、ちょっと訳があって、色々でかけるけど、元気だから心配しないでね、と。

 すると、母さんは笑い、父さんは書き殴った手紙をよこした。

 父さんの反応は当然の反応だろう。大事な娘が、自分の知らないところで何かに巻き込まれている。

 その当然の反応が返ってくることが、嬉しくて、私は泣いてしまった。

 最近涙脆い。

 説教を数行したかと思うと、妙に真剣な文字で、「ちゃんと、生きるんだぞ」と書かれていた。

 死ぬんじゃない、という言葉じゃないのは、わざとだろうか?


 四日目、この日は、廃墟ビルに泊まった。

 シェイはすやすやと眠っていて、グイは外を見張るため、入り口をかためていた。

 私とパイロンが二人きりになるなんて、珍しいことだな、と思いながら、窓辺で夜空の月を見上げていた。

「何を考えておる?」

「……月の子、ってどんな人だろうって思って。あと、グイの本当の姿」

「……――お前さんは、本当に空の子供が好きなんじゃなぁ」

 呆れて物も言えぬよ、とパイロンは溜息をついた。それに笑う私。

 それを眺めてから、ふ、とパイロンは珍しく表情を隠さずに笑って見せた。

 扇は手にあるというのに。

 その表情に少しどきりとした。何処か、パイロンは男らしい癖に、艶美なのだ。顔の作りが特別いいわけではない。シェイのほうが美形。それなのに、パイロンには何処か怖い魅力がある。

「何よ」

「……別に」

「嘘、何かあるんでしょ?」

「……別に! ……ただ、お前さんに言われた言葉を思い出していただけじゃわい」

「私が言った言葉?」

「…左様。父上にも母上にも愛されずに育つ方が問題じゃと…」

「…嗚呼」

 あれは、本当に心底思った言葉だ。

 咄嗟に大声で主張したが、今でもそれは出来る自信がある。

「……もしも」

「…え?」

「もしも、父上にも母上にも愛されて育てられたのなら、兄弟の仲も変わったかのう。オレが本当の兄弟だったら……」

 パイロンは、閉じた扇の先で、月を指しながら、いつもは揺るぎない瞳を、少しだけ弱気な物に変えて、言葉を続けた。

「オレ達兄弟の仲は、端から見ると、理解されんじゃろう。兄弟でありながら、他人以下の扱い。オレは全然平気じゃった。シェイが生まれるまでは。兄弟を否定すると、シェイは寂しそうな顔で、何かを我慢して、頷く。そこに、違和感を感じ始めた。ハオに言うと、“あたしはシェイを愛してるわ”と偽善めいたことをぬかし――偽善はオレもかもしれんがな――。グイは“兄弟? そんなの血の繋がりを持つ者のことだろう。己らは繋がってないというより他人だ”とな。母上父上叔母叔父にも相談した。……お前は良い子だ、優しい子だ、だからあれを見守っててくれと。……っは、監視係が、見守るという言葉に変わるとは、思いも寄らんかったわい」

「…それで、監視係に?」

「ああ。じゃから、さぼった。さぼりまくった。そして、誰か、理解してくれる人はいないかと捜した。…居なかった。そんな時に、シェイがお前さんと出会った。…賭けてみようと、思った。賭けは、成功して、シェイは幸せになった。じゃが…MASKが寄生してしまった。……なんとも、なんとも言い難い」


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