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第十五話 闇の魔法の恐ろしさと魅力

「ならぬ! 人の子は、その魔法を覚えてはならぬ! グイ、止めろ!」

「言われなくとも、判っている。いちいち命令するな。己に命令していいのは、母と父だけだ」

 空の子供って、本当に空に忠誠心が溢れてるわ。グイは、刀を抜いて斬って、シールドから抜け出し、ユーリ様達の方向へ向かう。

そして、片手でユーリ様たちに刀の切っ先をつきつけて、片手でサングラスを少し上へあげる。色のある世界を見たかったのだろう。

「人間は自然治癒が掟だ。闇の魔法を使って良いのは、MASKと魔物だけだ」

「何故人間は使ってはいけない?! 人間の方が、使うに相応しい! 自然治癒など、動物だけがしていればいい!」

「人間も動物だ。傲るな。……じゃあ、そいつに、使ってみろ。面白いことが、起きるから。逆恨みするなよ。パイ、ヒノの目を塞いでいろ」

「わ、私、さっき見たから平気……」

「そうではない、気持ちの問題だ。それと、――見たくない物が見えてしまう」

 どういうことだと問う前に、パイロンが防御壁を再び張り直し、その防御壁を真っ黒にしてしまい、何も見せなくしてしまう。

 向こうでは、何が起こっているのかは判らないが、ユーリ様のお兄さんの詠唱する声が聞こえた。

 そして、次の瞬間に聞こえた物。ぞっとした。

 ――今の音、血が弾ける音だ。

 パイロンがその音に顔を一瞬だけ歪ませて、何時聞いても気味の悪い音だ、そう呟いた。

 私は心臓が今にも破裂しそうなくらい、怖かった。見なくて良かった。顔から血の気が引く。パイロンが横目でちろりと私を見遣る。

「人の子、このままシールドを張っておくか? それとも…………」

「目にするわ。私、強くなるの」

「…………強さと、無茶は違うと思うがなぁ……」

 パイロンは苦笑しながらも、シールドの透明度を高めていった。

 そして、段々と……段々と……ユーリ様の弾けた頭が見えた。

 グロテスクで、少し吐き気がした。血の臭いまでが、こちらに入ってこないのが唯一の救いだ。

 パイロンは扇を口にあて、目を細めて、眺めていた。ただ、ただ、冷静に。

 グイも、冷静に、何かを言っている。

 闇の魔法、回復魔法は、確かに傷を無かったことに出来るが、反動がその分酷くて、MASKに寄生されているのならともかく、MASKに寄生されてないものが使うと、下手したら殺してしまうんだそうな。死期を早める魔法でもあるのだ。元は時間の進めを一部早めて老化させて使う回復魔法だから。

 MASKに寄生されてる者でさえ、寄生が終わった後は、弾けるんだそうだ。

 ――魔法の恐ろしさを、闇を知った。

 私は魔法の闇を見たことがない。だから、シェイは私にこれを見せようとしたがらなかったのだ。

 知ってしまったら、きっと使いたがるから。

 闇の魔法、という名に相応しい魔法だ。

「闇の魔法と呼ばれる訳が判ったか、坊主」

「…………っくそ、くそ、くそ、くそぉ! 俺は、俺はただ、太陽の子の鱗が欲しかっただけなのに……! その血が、生命力が欲しかっただけなのに! あの血があれば、不老不死に……」

「誰に言われた? 坊主」

「天のお告げだ!」

 …………それって、自分から教えたって事? 空が。

 グイはユーリ様のお兄さんへ、冷静に向き直る。

「不死にはなれるが、不老にはなれねぇ。墓で眠れねぇんだよ。空に関わってはならんのが、人の常だ。人は人であることに幸せがあり、空には空の幸せがある」

「……そんなの詭弁だ。人の幸せと空の幸せが同じじゃないと、何故言い切れる!?」

「……馬鹿な質問をしてくれるもんだ。それは……」

 グイがユーリ様のお兄さんの顎を思いっきり蹴って、彼の体が倒れたのを確認すると、刀をユーリ様――妹の方――の胸に刺した。

 「己が空の、星の子供だからだ」


*


「シェイ、聞いてるか?」

 グイが昏倒しているユーリ様のお兄さんを足蹴にしながら、グイは静かな声で、だけどはっきりと聞きとれる声で、シェイを呼ぶ。

 シェイはぐるると、喉を鳴らして、グイにすり寄る。

 だが、グイは一瞥もしないで、近寄るなと冷たく言い放ち、枷を手にする。

「これをつけてから、話そう」

「グイ、オレぁ肉体労働が苦手でなぁ……?」

「判ってる。お前のか細い骨だけの手じゃ無理だろうな」

「嗚呼、無理じゃとも。かかか、無駄じゃ、無駄じゃよグイ。オレを煽ろうとするには数十年早い」

 パイロンはやたらにやにやとしながら、自慢げに自身へ扇を扇ぐ。

 グイは思った通りにいかないのが苛立つのか、舌打ちをする。

「長兄の命令が聞けないか?」

「長女の命令だったら、もっと聞けぬがな。オレはオレが思うままに進む」

「私、手伝います」

「ヒノ、テメェはいい。要らん。危険だ、人間には。人間にはな」

 暗に人間は関わるなと聞こえる気がするけど、パイロンが遮って励ましてくれる。

「か弱きオレに何が出来ようか。人間の方が、力があるときがあるもんじゃよ。御前さんは、人を知らんね? 人を知らぬから、そう言えるのじゃ」

「シェイの力を知るものなら、誰だって無理だと言う」

「何故決めつける? 未知の者を、どうして信じられぬ?」

 やたら大げさな身振り手振りでパイロンは、グイを煽る。

 しかし、グイは冷静にサングラスを押し上げて、訝しんでいるようだ。

「…………――テメェは、本当に空の子供か? 信じられないのは、テメェの発言だ」

 グイが溜息のようなものをつきながらそう言うと、パイロンは少しだけ陰りを帯びた目を見せて、自嘲気味に笑った。何だか、これ以上追求させてはいけないと思い、私は名乗り出た。それで話題が変わるなら、幸いだ。パイロンは、私を闇からすくい上げてくれた人。彼にその闇に溺れて欲しくない。どんな闇かは判らないが。

「大丈夫です、シェイなら、私を危険な目に遭わせようとはしないと思いますし」

 「ね?」と首かしげてシェイを見つめると、金と銀の鱗が一回だけ目を塞ぎ、紫の輝きを見せてくれる。その瞳は、本当に澄んでいて綺麗だった。象の目よりも優しげで。

“夕子、危ない”

「大丈夫よ」

 竜が首を振る。それだけで、少し風が起こり、シールド外をばたつかせる。

 勿論、グイの服はゆれて、髪の毛も大揺れだ。

 私はシェイがくしゃみをしませんように、と、祈りながら、防御壁を飛び出した。

 パイロンの制止する声が聞こえたけれど、無視しちゃった。

 私は、シェイが竜になったことで大きくなった枷を、グイと一緒に持ち上げて、手足につけてあげる。

 その間、こんな会話をしていた。

「ヒノ、テメェは怖くないのか?」

 何が、とは聞かない。何が怖いのか、明白だから。

「闇の魔法を見るより、怖くない」

「……まぁ、いいことなんだろうな、闇の魔法に興味を覚えないのは」

「でも、魔法自体には興味あるわ? 魔法使いになりたいもの」

“夕子、なれないって本当?”

「うん、本当。でも、絶対なってみせるわ?」

“良かった、夕子、夕子”

 シェイがおおんと鳴いて、私にすり寄る。私は笑いながら、それを受け止めて、撫でてあげる。

「シェイ、所でな」

“うん?”

「MASK寄生者、あいつだろ? だから、刺したんだが、もう逃げた気配だったぞ」

“…………でも、今もMASKが居るのを感じるんだけど”

 そう言ってからシェイは人の姿に戻り――服は着ている、何かほっとした――、ユーリ様の死体に近づいて、あれ?と首を捻る。

「この子、寄生していた。今居ない。でも、MASK気配、する」

「……そっちの小僧はどうじゃ、シェイ?」

「男のほう、にも、居ない」

「――まさか、シェイ…………シェイに、寄生しちょるのか……?」

「空の子供に寄生するなんて、可能なの?」

「…………人間的感情を教えればな。……人の子よ」


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