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第十四話 羨むのならば綺麗に


“何でもないわけない! 人間も竜も、痛いとき、泣く! 夕子の心が、痛がっている! 爪で引っ掻いたんだ、あいつら!”

「シェイ君、ユウコさんは放っておいた方がよさそうだよ。さぁ、こっちにきて、話そうじゃないか」

 ユーリ様のお兄さんが、シェイを引きずって、どこかの部屋へ行く。

 ユーリ様がそれに続く。人間である私に興味なんて、一欠片も無いみたい。人間じゃなくても、興味はなかっただろう。私みたいな、ただの平凡な奴。

 私は、包帯をどうしようかと、後ろをふりかえった。

 すると、其処にはさっきの人じゃなく、なんていうかな、頭部だけ剃った侍のような人が突っ立っていた。侍なんて、本だけでしか見たこと無い。

 サングラスの奥の瞳は、見えない。もしかしたら、可愛い目をしているのかしらね。

 その人は、立っているだけで、私の包帯を持っていなかったので――持っていた従者は横になっている、気絶しているのだろう――、私は包帯をするすると取った。


 ――シェイの言葉が、脳内をリピートする。

 願っても、なれない。

 願わなきゃ、叶わない。

 願っても、どうしようもないことがある。


 気がつけば、目の前に、小さな白いトカゲ。

 ちろちろと舌を出したり引っ込めたりして、私の様子を伺っている。

 私は苦笑して、涙を拭う。

「ごめん、もうちょっと待って。平気だから、平気になるから」

 ――貴方達と行動するようになった日に、少し期待したの。

 もしかしたら、心が強くなるかもって。だって、本で読んだ竜と戦った登場人物とか、竜のことを知ってる冒険者は大抵、強く見えるんだもの。

 でも、実際は、あんまり変わって無くて。

「私、どうしてこんなに弱いんだろう」

 今更だよ――言葉を飲み込む。考えれば考えるほど、その心の闇は深くなって、抜け出せなくなさそうで、怖かった。怖くて震える。でも、その闇が心地良いような気がして。其処に居ろと誰かの声が今にも聞こえてきそう。

 その時に、声が聞こえた。

「隣の庭を羨む庭師。最初に与えられた庭の差を、嘆く」

 瞬きすれば、パイロンが其処に。いつもの強気な顔つきな何処へやら、少し目を細め、私の頬を触るか触らないか悩んだ末、手を下ろす。静かな柔らかい声色で、言葉を紡ぐ。

「弱くない人間など居らぬ。どうやっても、人は人を羨む。自分以外の庭が輝かしく見える。大事なのは、其処ではない。羨んでばかりでは、庭は枯れる。問題はその自分の庭を如何に綺麗にするか、だ。平気になれる奴は居らん。ただ、枯れるのを無視してるだけだ」

 パイロンは扇を私に扇いでから、何か音が聞こえる方向を指さす。

 その方向は、シェイが連れ去られた方向で……シェイが恐らく何かしているのだろう。

 パイロンが強気な顔に戻り、にやりと笑う。人の悪い笑みだ。

「さぁ、如何に自身の庭を綺麗に魅せる?」

「……現実と戦う」

「……九十点だ、さぁ、行くぞ」

 満足げに頷くと、パイロンは、侍の人にグイと呼びかけて、私を指さす。

「これが、空の子供を知る人の子だ」

「そうか。初めまして。己の名は、グイだ」

「あ、ヒノ・ユウコです、宜しく……」

 この人がグイ…。わぁ、腰に刀がある。後で見せて貰いたい。

 ついでにいうと、この人は元はどんな生き物かも見たい。でも流石に今はそんな場合じゃないってことぐらい判るわ?

 私たちは駆け出して、音がする方向に向かう。

 まだこの屋敷が壊れてない辺り、まだ竜になってはいないだろうけれど、何か嫌な予感がする。

 シェイ、と私が叫ぶと、何かが爆発する。

遮住さえぎる!」

 パイロンが扇を開き、下から上へ扇ぐと防御壁が出来上がり、爆風と飛び舞う瓦礫から守る。ほ、本物の魔法だ…詠唱無しに、現れた!

「凄い! どうやって、出したの!?」

「この扇に、魔力が宿って居る。それも無限に。簡単な作りの物なら、詠唱を覚えさせて居るから、呪文無しでも平気なんじゃ、キーとなる言葉を言えば」

「己らには出来ない柔な芸当だ」

「ふん、オレにだって、刀など野蛮なものは扱えぬよ」

 二人とも…あらぬ方向見て睨んでるんだけど…仲が悪いのかな。

「シェイは? 何処に居る? MASKも」

 グイが顎に手を置き、辺りをきょろきょろとする。

 パイロンは、目だけで捜し、目に頼るのは無理だと思ったのか、目を瞑り、シェイの気配を探ってる……みたいだ。

「こっちだ」

 流石は監視係、すぐにシェイの気配を辿り、私たちをシェイの居る場所へ案内する。

 シェイは、確かに居た。

 ただし、首輪と足枷の外れた姿で。

「シェイ! 何故、それを外してる!? それを外せば、お前さんの力が制御出来ねぇじゃねぇか!」

 シェイは震えている。ぐるると竜の泣き声がお腹に響く。

「……シェイ? どうした? 何があったのか、オレにはまだ把握は出来んのじゃ。お前さんの気配辿って此処へ来てみりゃ、人の子が泣いとった」

“……夕子”

 私を呼んでいる。

私はふらりと歩き出すが、パイロンがすかさず私を捕らえ、シールド内へ収める。

「シェイが呼んでるのよ!」

「痴れ者! シェイの枷を外した力は、空の子供内一だ! くしゃみ一つで壁に叩きつけられ、死ぬぞ!?」

「ヒノ、少し黙って成り行きを見守ろう」

 グイの提案にそれがいいとパイロンは、頷いて、シールドを張ったまま、別の魔法を唱える。……一度に二つの魔法を発動させるなんて。

 長年魔法に憧れた身だからこそ、パイロンの魔力の強さがよく判った。その扇の強さも。空の子供ってだけで、こんなに魔力が高いなんて、卑怯な気もする。でもそれだったら、シェイやグイも魔力が高くて、魔法攻撃してもいいのに……。

 ――少しだけ、違和感を感じた。パイロンの存在に。

 どうして、シェイやグイは魔法攻撃をあまりしないのだろう? もしかして、しないんじゃなくて「できない」からなのかな。


「消去垃圾」

「何て言ったの?!」

「ゴミを消せって言ったんじゃ」

 パイロンが魔法が発動する言葉を口にすると、風が巻き起こり、見えなかった景色を見せてくれる。段々とシェイが見えてきた。

“夕子…夕子、可怕”

「シェイ、大丈夫、大丈夫よ、本当に! 私、もう泣いてないの!」

「……――ヒノ、シェイは怖いと言っている」

「え……怖い? どうして?」

「本人に聞いてみろ」

 なんだか、グイって冷たいなとか思ってしまう。これが本来の空の子供なんだろうか。パイロンのシェイへの対応が、優しく見えてしまう。否、実際優しいのだろうけれど。

「シェイ、どうしたの!?」

 今にも震えていそうな姿が想像出来る声が、脳に直接訴えかけてきた。

 “枷を、ユーリ様が取って……蹴ったら……”

「蹴った、蹴ったのか、テメェ。…死んだか」

“……違う、微かに息している。でも、殺せって、ボクの心が騒いでる。騒いでる…? 何で、騒いでる…? 可怕、可怕? どうして?”

 グイを振り返ると、少し用心深く目を凝らしていた。

 それから、パイロンにもっと風を、と要求して、光景を見つめていた。

 煙がなくなり…段々と露わになっていく。

 そこは、血だらけの惨状で、シェイの尻尾がゆらゆらと揺れている。

 竜の影が、人の影になる。人だった影が、竜の影になる。

 シェイはぶうるると鳴いていた。ユーリ様を捜すと、ユーリ様はその足下で、お兄さんに抱えられていた。

 「ユーリ! しっかりするんだ、今、回復させるから…!」


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