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第十一話 空の魔法講義


「空は、人の物じゃない。皆が住む場所、星が奏でる場所、雲が泳ぐ場所、月が夜を謡う場所、太陽が頬笑む場所。だから、空を飛ぶには、皆の許可を貰わなきゃ」

「……そういう、ものなの?」

「うん。そうだ、夕子、飛翔魔法だったら、匿ってくれてるお礼に、教えてあげるよ」

 私は、味見用の小皿を落としてしまった。

 割れたか、という心配が来たのは、後から。でも、割れては居なかった、からんからんと音を立てて回っている。

 ……どうしよう。泣きそうだ。

 この感情を何と言おう。胸の底から沸き上がってくる、春のような、暖かみ。優しく私を包み込んでくれそうで、ひなたぼっこしているときのお日様の日差しに揺られているような、暖かみ。

 そして、それと同時に、懐かしい感情が沸いてくる。懐かしい思いが蘇る。素直な感情。嗚呼、私の中に無理矢理に消していた願いがあふれ出てくる。

 ――魔法を習いたい。


「夕子? また、オミソシリ、しょっぱいの? 夕子、夕子?」

 シェイが、首をかしげて、心配そうに私を見つめる。私は、笑って大丈夫、と頬笑む。

 うん、嬉しいだけ。きっと、そう。だから、こんな、滴が頬を伝ってしまったんだ。

「シェイ、じゃあ、ご飯を食べ終わったら、教えてね」

「……うん。夕子」

 私が首をかしげると、シェイは頬笑んで「絶対空を飛ぼうね」とガッツポーズを見せてくれた。それに思わず私は、嬉笑を零した。



 ご飯を食べ終わったら、洗濯して、洗濯物を干して、掃除機かけて、皿を洗う。

 そして、それが終わったら、楽しみな「授業」が始まる!

 学校に行けなかったのに、竜から、それも空の子供から教わるなんて!

 家事が終わったら、私は速攻シェイに何処で魔法の練習をするか尋ねた。

「空き地でいいと思う」

「陣とか書かないの?魔術書は?」

「ボク一人居れば、大丈夫」

 にこにこと、私に何か恩返しが出来るのが嬉しいのか、シェイは笑みの眉開く。

 私は何も要らないと言われれば、それまで持っていた魔術書を放り出して、シェイについて歩き、隣の空き地まで行く。


 シェイは、まず空を見上げて、空のご機嫌を伺った。

 それから、人差し指を舐めて、空に向かって指さすように突き刺して、風向きを確かめる。

「うん、絶好だ」

「どうやるの?」

「最初に言っておくよ、ボクの教える飛翔魔法は、人間と少しやり方が違う。だから、人間にあったやり方かどうかは判らないけれど、あの子……ユーリサマの飛翔時間より、長く、高く、飛べる」

 ……その分、後で返ってくる重力が凄そうだ、と呟いたら、シェイはきょとんとしてから首をぶんぶんと、首が取れるんじゃないだろうかという勢いで横に振った。

「空に許可を得たから、少しの間だけで済む」

「……空に許可を得るのって、そんな効果もあるんだ」

「本当ならパイの方が詳しいんだけどね。魔法については」

「何で?」

「パイは非力だから、皆から力を貰わないと攻撃出来ない。空を飛べる翼も、敵をひっかく爪も無い。だから、魔術には、人間よりボクより詳しい。空の子供で唯一の、魔法使いだ」

「ふぅん。でも、パイロンだと回りくどいから、理解するのに時間がかかりそうね」

「そこが唯一の難点」

 くすくすと、シェイと私は笑う。脳裏に、文句を言いたそうなパイロンを思い浮かべながら。

 パイロンにこの会話が聞かれてませんように、と私は密かにお祈りした。

「さぁ、始めよう!」

「まずは何をすればいいの?」

「階段を見つけるんだ」

 階段? この少し雑草が生えた程度の枯れた空き地の何処に、階段が?

 馬鹿にしているわけではないとは、判ってはいる。だって、シェイは純粋だから。それに、嘘をつくような子ではない。

 だから、真剣に言ってるんだと判って居るんだけど、どうしても可笑しい話にしか聞こえない。

「階段なんてないわよ」

「階段は、あるよ。空へ続く階段が。そして、空には、落とし穴付の地層があるの!」

「地層…?」

「ほら、ユーリサマだって、空に足をつけて、体勢を立て直していたでしょ?あそこが、地面。さっき本読んだとき、書いてなかったから、人間は無意識に踏んでるんだと思うけど、空には地面があって、何層も重なっているの」

 言われて思い出す、彼女の動作。確かに、何度も空に足をつけて、体勢を立て直していた。空の大地、って思ったことも思い出す。まさか、本当に大地があるなんて。

 しかも、落とし穴付?それを踏んだら、大変じゃないの。

「どうやって、見つけるの、階段は」

「まず空に許可を得るの。で、空に祈ったら、飛翔魔法の呪文。やっぱり、呪文はないと、言葉の陣が成立しないしね」

 言葉の陣。それは、陣を描く代わりに、言葉で表現することによって現れる姿無き陣形と聞いたことがある。

 喜んでいるよって、心臓が騒いでいるのが判る。二度と聞くことのない言葉が、飛び出てくるから、不意打ちだ。

 「それで?」と私は続きを促す。

 シェイは、ふわりと靡く髪を――今日は風が凄い――抑えながら、私を見つめて、無垢な瞳に小さな私を閉じこめる。

「飛翔魔法の呪文を唱えたら、階段を上る。そして、階段を三段上ったら、ジャンプしてみる。それだけ」

「本当に、人間とはやり方が違うのね」

 人間は確か、呪文を唱えて魔力を浪費して、精神力も浪費する。

 それから、足に羽が生えたように、軽いジャンプをすると、高く飛べて、その後で重力が来る。

 飛翔魔法というよりは、重力操り魔法に近いのかな。何でも魔法、ってつければいいわけじゃないと思うけれど。

 私は、まず階段を見つけるために、空に許可を得て、祈る。

そして、言葉の陣が出来上がると――言葉の陣が本当に出来上がっているか自信がないのだが――、階段を見つけようと、目をこらす。


 ――見つけられない。


「無いよ、シェイ。階段なんて」

「じゃあ、おまじないかけてあげる。“君にも翼を”」

 そう言って、シェイは私の瞼にキスを落とした。吃驚して、声も出なかったが、次の瞬間、階段が一瞬だけうっすらと見えたので、そこに目指して駆ける!

 階段は三段だけあがるんだっけ? 三段上って、はい、ジャンプ!

 ふわりと、体が一瞬だけ無重力になって、宙を飛べた。

 でもそれも五秒だけ。すぐに、地面に足が着いてしまった。

 それでも。それでも、飛べた。魔法は、まだ学べていなかった、私が。魔法を使ったことのない私が、初めて魔法を使えた…。

 魔法が、魔法が、魔法が…!

「シェイ……」

「うん?」

 シェイはにこにことしている。少し飛べたのを、確かにその目で見てくれていたのだろう。私の魔法を、見ていてくれたのだろう。私が飛んでいる姿を見ていてくれたのだろう!

 「どうしよう、すっごい楽しい」

 体に感じる重力は、なくて。今の時間数なら、無くて当然とシェイは指を振った。

 シェイは私が、打ち震えているのを見ると、満足げに綻んで、頭を撫でてくれた。

「この調子なら、すぐに覚える」

「すぐに覚えるどころか、簡単に扱えるようになってみせるわ!」

「うん、その調子。夕子、頑張ろう?」

 私は返事の代わりに、にこりと笑った。

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