第十話 空の魔法の習い方
次の日には、やっぱり、シェイの怪我は治っていて、竜の生命力は改めて凄いと思った。
生きたいと、体中が叫んで暴れているのだろう。
あれから、シェイは私にべったりだ。
まるで、ひよこが親鳥にくっつくみたいで、面白い。流石にトイレとお風呂はついてこなかったけど。
「夕子、夕子」
シェイが魔術について基本を書いた本を持ってきて、私に見せる。
……それを何で持ってくるかな、と私は少し落ち込んだ。
もう、踏ん切りがついた筈なのに。
この間のシェイの言葉で諦められた筈なのに。
――心の奥底で、また私じゃない私が魔法を学びたいと叫ぶ。何故、ユーリ様は魔法が使えるのに、私は使えないのかと。暗がりから抜け出したいのに、抜け出せない自分が、居る気がする、それを見ると。
もうそろそろ諦めてもいい頃じゃないのって思う自分と、まだ諦めたくない自分が戦う。
魔法は学校に行けないと学べないのに――。
「夕子? どうしたの?」
「……何でもない。どうしたの?」
「この間、あの子、飛んでた理由判った! これだ!」
「そう、多分飛翔魔法ね」
私は、シェイが開いたページをちらりと見遣ってから、朝ご飯作りの続きをする。おみそ汁は、今日はいい加減の味に出来たようだ。
辛いとか言いつつも味噌汁はシェイのお気に入りになっているようで、野菜たっぷりのトマトスープを出すと、シェイは密かにしょんぼりとするのだ。
「簡単な作りだ、コツさえ掴めば。あと相性か。夕子でも出来るね」
ぶっと思わず、みそ汁を噴き出して咽せていた。
飛翔魔法って、そんな、簡単にできる物なの?!
「本当に? 本当なの?」
私はわき上がる鼓動に、震えながら問いかけると、シェイは天真爛漫な笑みを見せる。
「うん。飛翔魔法っていうのは、空に愛された物が出来る魔法だからね。魔力が高くなると、例外だけど。空の子供のボクが好きな夕子が、出来ないわけがない。夕子、“私は、空が好きです”って言ってみて?」
「な、何で?」
「いいから」
私は、言われたとおりに、私は空が好きです、と言ってみた。
そうすると、シェイがベランダに出て、空を見上げる。
外はいい天気で、朝日が眩しいのか、目を細めながら、シェイは空を見つめる。
それから、ベランダから部屋に戻ってきて、私に頷く。
「空からの許しは得たよ」
「……飛翔魔法って、許しが必要なの?」
その本は、すり切れるほど何度も読んだが、そんなこと一文字だって本には書いてなかった!
でも、空に詳しいシェイだし……、頷いてるし。




