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第九話 弟として愛してる


 眩しくもある。こんなこと、思っても、素直に言えない。何だか、言った方が負けたような気がして。

 シェイが、ただ物を欲しがるように普通に言ったことで、私にも家族が遠く離れて、少し切ない思いを思い出す。それでも、これは幸せなんだろう。私には、会おうと思えばいつでも会える時間が許されているから。

 「シェイ、大丈夫」

 私は、シェイの首辺りに手を回して、無理矢理抱き寄せた。

 それから、もう片方の手で、背中をぽんぽんと叩いてあげる。

 私が寂しいときに、偶にいてくれたお母さんがやってくれたことのうちの一つだ。

「私は貴方を愛してる。友人として」

「……夕子が? ボクを?」

 声は少し惚けているように聞こえたが、すぐにシェイは私の背中に回した手で、服をぎゅっと握り、震えた。

 「本当!? 本当? 本当? 本当?」

 それしか言葉を知らないように、単語を繰り返すシェイ。

 私は、シェイを離して、シェイの頬を挟んで少し屈ませて、おでことおでこを合わせた。 私が悲しいときに、お父さんがやってくれたことのうちの一つだ。

「本当。嫌いだったら、手当なんてしないでしょ?」

「……えへ。えへへへへへ」

 そうだね、とシェイは頬笑んだ。少し、涙を浮かべてるように見えた。だって、その微笑みがあまりにも…優しくて、悲しくて、…嬉しそうだったから。

 少しだけ、その笑みに見惚れた。

「ボク。ボク、愛される。ボク、愛されてる! 皆に自慢出来る、ボク、愛されてる!」

「うん、愛されてるよ。自慢できるよ。貴方は、私が長い間、想っていた空の子供だもの」

「……それじゃまるで、空の子供じゃないと愛せない、みたい、言い方」

「……普通に人間として出会ってたら、そうね、こんな弟を持ったような感情、持ってなかったと思う」

「ボク、弟みたいなの?」

「友人なんだけど、弟みたいなの」

「分かんない! だけど、嬉しいのは紛れもない!」

 きゃらきゃらとシェイは声を立てて笑い、嬉しそうに、嬉しそうに、端正な顔を歪ませて笑って、私を抱きしめた。

「皆に自慢していい!? 自慢していい!?」

「いいよ。でも、自慢するのは、兄弟だけにしてね?」

「うん、うん! ……弟…弟――夕子、お姉ちゃん…?」

 おそるおそる、それでも声は興奮してるのか、小声でも少し上ずった声。

 ――嗚呼、なんて、可愛らしいんだろう。

 私は頷いて、頭を撫でてやる。猫の毛のように柔らかい髪の毛は、手触りよく、梳くように撫でると、手はすっと下がる。

「夕子、夕子、ボク、パイにこんなに感謝する、初めて! パイが、夕子に話してくれなかったら、ボク、夕子と話せなかった。ただ、包帯貰って終わり! ……えへ、えへへへ、パイ凄い」

 ぎゅうぎゅうと相手のことを考えない、その力加減の握り方が、何故か、心地よかった。

 私は一人っ子で。だから、いつも、兄弟の居る空の子供達を羨ましく思っていた。

 その空の子供が、私が姉と言うと喜ぶなんて! …こっちこそ、嬉しいよ。

 確かに、パイロンが話してくれなかったら、私は不安を残したままシェイと別れていただろう。それに、パイロンは記憶の消去魔法を使えそうな予感がする。

 あの強い眼差しに、何処か催眠的な強さを感じるもの。何か考えるのを止めさせそうな、あの目を見つめることに集中しそうな強さ。

 あれは、魔がさしたもの。魔が混じっているような気がする。空の子供なのに、魔?

 魔物じゃないのに、有り得ない。だけど、パイロンはどこか艶麗さがある。聖なる者に相応しくない、闇が差した何かが。シェイと対になってるような、暗さがある。判らない、底の知れない暗闇が。夜闇のような髪の毛のせいだろうか?

 ――でも、何で私に、空の子供の話をしたんだろう?

 普通は、話を、さっきみたいにそらして、なかったことにするんじゃない?

 シェイを改めて見る。

 ぼろぼろだ。

 なんというか、ずたぼろ? 見ていられない。

 ……何か、頼れる物が必要だ。太陽と月の陰だけじゃ、支えにならない。

 それに寂しい…寂しい?

 ――嗚呼、パイロンは、この子の寂しさを理解していたんだ。この子が、頼れる誰かを知らずに求めていたのを、悟っていたんだ。

 だから、私を巻き込もうとしたんだ。

 パイロンの優しさが判った。…やっぱり、回りくどい奴だなぁ、と思ったのは内緒。


「シェイ、兄弟だけど、パイロンは、兄弟の名を信じていいと思うよ」

「え? いいよ、夕子居るから。パイは凄いけど、無関心だもん。雲の子、欠伸」

 嬉しそうに笑ってから、不思議そうに首をかしげるシェイ。その目には、もう迷いがない。

 私が消してしまったんだろうか。


 消してよかったんだろうか。消してから言うのも、何だけど。

 本当に、この子の兄弟への思いを消して、良かったのだろうか。


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