第七羽
今回はいきなり時間が飛んでいますが、ちょっとしたエピソードなんかは本編が完結してから書きます。
それが“チャック”らしさ。…これ、一応スピンオフですから。
実は、次回は急展開を予定しています。予定は未定。
―――もう、この世界に来て半年が経ちました。……私はいつまで鳥なんでしょうか?
◇◇◇
私が伝書カナリアとして働き始めて、もう四ヵ月ほどが過ぎた。
今日も元気に色々なモノを運んでいる。
「お、スズメちゃん」
「ジルドさん」
飛んでいる私を呼び止めたのはジルドさんだ。
ちょっと軽そうに見えるが、優秀な騎士らしい。…何故か騎士団の人達は“勇者”と言っていた。
「今、ちょっと良い?私用で運んで欲しいものがあるんだけど」
彼にそう聞かれたが、今私はあるモノを運んでいる。
急ぎな訳ではないので、別に運ぶのは構わないのだが……。
「ええと…。もしかして、それ“いつものやつ”ですか?」
「そうそう。すぐじゃなくて良いからさ」
ジルドさんの“いつものやつ”とは、女性への手紙のことである。…不特定多数の。
まあ、この世界ってメールないもんね。
だからどう、ということもないが。
「あの、今私が運んでる手紙……グイドさんのなんです」
グイドさんは、ギルバートさんの直属の部下の一人である。
ジルドさんの双子の兄で、顔も性格も彼にそっくりだ。
「げっ!?……被ってないよね?」
彼らはよく女性と手紙のやり取りをしているのだが…たまに、相手が被っている。
その後はいつも兄弟喧嘩…ではなく、その女性との付き合いを控える。
お互いのことを知られているのは“何かやりにくい”らしい。
しかし、さすがに届ける相手の名前を言う訳にはいかない。
「それは、ちょっと…」
とりあえず、言葉を濁してみた。
「オレの方はエリーちゃんなんだけど…」
「………………」
沈黙が答えだ。
「マジかよ…」
「えーと、すみません?」
「いや、スズメちゃんの所為じゃないし。…はぁ、オレのは良いから、グイドには言わないでね」
「分かりました」
傷心中の彼にそれだけ言って、私は飛び去った。
どうせ、今だけなので慰める必要はないだろう。
◇◇◇
ちょっと色々あった朝も過ぎ、もうお昼である。
ずっと飛んでいたので、空腹を感じる。
しかし、昼食をとる前に宰相執務室に寄らなければならない。
……どうせなら、一緒に食べたいもんね。
「おや、スズメ殿。もう昼食ですか?」
「はい。ギルバートさん、いますか?」
執務室にはローレンスさんとエーリヒさんがいた。
エーリヒさんもギルバートさんの直属の部下で、グイドさんとは同期らしい。…彼らの気が合っているのかは謎だ。
ギルバートさんを探して部屋を見渡していると、エーリヒさんが答えてくれた。
「すまないが、閣下なら少し出ている」
昼食に誘いに来たのだが、いなかったようだ。
「そうですか…」
ションボリと俯いていると、何故かエーリヒさんが焦ったように付け足した。
「い、いや、しかし、閣下はすぐに戻ると言っていた。ここで待っていたらどうだ?」
私が落ち込んだのを気にしてくれたのかもしれない。
何故か、この世界の人達は私が落ち込んだのが分かる。…皆“とりのきもち”でも愛読しているのだろうか。
「ぜひ、そうしてください。…私達もそろそろ休憩にしようと思っていたところなので、閣下が戻られるまで話に付き合って頂けますか?」
ローレンスさんの中では、私がここで待つことは決定してしまっているらしい。
………いつの間に。
「喜んで。……あ、お菓子食べても良いですか?」
結局、ギルバートさんが戻ってくるまでにお菓子を食べすぎてお昼が入らなくなってしまった。
最近甘やかされている所為か、子供っぽくなってきた気がする。
………ううっ、そんなに怒らないでください、ギルバートさん。
◇◇◇
少しお腹が重い気がする午後。
これから、また仕事である。……痩せるために。
鳥のお腹はぽっこりしていても可愛いが、人間に戻ったとき――いつになるのだろう?――が怖い。
「カール殿下!!」
「……ん?ああ、スズメ君か」
カール殿下は書類に集中していたようで、なかなか気付いてくれなかった。
「書類を運んでくれたのか?いつもすまないな」
カールハインツ殿下はこの国の王太子であり、レオン殿下のお兄さんだ。
あの陛下――実は叔父さんにそっくりだ。…え、知ってた?何で!?――の息子だとは思えないほどしっかりした人で、ギルバートさんとも仲が良い。
「ありがとうございます。でも、仕事ですから!」
胸を張ってそう答えると、何故か微笑まれてしまった。
「君は良い子だな。…クリフやレオンにも見習わせたい」
彼の言う“クリフ”は第二王子のクリストフ殿下のことで、カール殿下の弟、レオン殿下の兄にあたる。
顔以外は父親である陛下によく似た人だ。…顔は全然似ていないが。
陛下はあんな性格だが童顔な平凡顔なので、殿下達の容姿は母親似だろう。
ちなみに、王妃様はギルバートさんの叔母で、ものすごい美人である。…ただの鳥でしかない私にも優しくしてくれる良い人だ。
「クリフ殿下もレオン殿下もちゃんと仕事をされていますよ?」
クリフ殿下は“たまに”、レオン殿下は…あれ、仕事あったっけ?
「まあ、二人も頑張ってはいるんだろうが…。特にクリフは父上に似たからな…」
カール殿下は“はぁ”と溜め息を吐く。…どこの世界も、長男は大変らしい。
彼の愚痴を聞いていると、王太子執務室の扉が叩かれた。
「入れ」
「王太子殿下、申し訳ありません。…クリストフ殿下に逃げられました」
クリフ殿下は“たまに”仕事をサボるのではなく“たまに”仕事をしているので、彼の侍従は逃がさないように必死である。…お務め、ご苦労様です。
「そうか…。分かった、私の方で手を打っておく。君は自分の職務に戻れ」
「はい、失礼致します」
クリフ殿下の侍従の人はそう言って部屋から出て行った。
小走りになっている足音が聞こえるので、急いで戻っているようだ。
「スズメ君」
しばらくして、カール殿下から声を掛けられた。
分かってますよ、私の出番ですね?
「悪いがクリフを探して来てくれないか?」
「もちろんです!」
そうして、私は王子様探しの旅に出た。
◇◇◇
「それで、その放蕩王子はどこにいたんですか?」
今日のことを話している――定時報告というやつだ。…たぶん――と、ギルバートさんにそう聞かれた。
少し微笑んでいるので、私との会話を楽しんでくれているのかもしれない。
「実は、結構あっさり見つかったんです。…王宮の庭の木の上で昼寝してました」
起こそうと思って声を掛けても全然起きなかったので、つついてみたら彼が落ちそうになってしまい、あのときはかなり焦った。
その後、ちょっと怒ってたカール殿下に引き渡したが、ちゃんと仕事を終わらせてから遊びに行ったと聞いている。…宿題嫌いの小学生のようだ。
「クリストフ殿下も困ったものですね。…陛下にそっくりです」
ギルバートさんはいつもカール殿下と一緒になってクリフ殿下や陛下を叱っているが、嫌いな訳ではないく、むしろ尊敬しているそうだ。
すぐに“仕方ない”と許してしまうし、彼は他人に少々甘い。……と、ローレンスさんが言っていた。
「陛下はよく大神官様と旅に出て行っちゃいますよね」
大神官様は神殿の一番偉い人で、陛下の大親友である。
王宮と神殿は癒着しているのかもしれない。
「陛下はまだ事前に言ってくださいますから。…正直、予定の変更はかなり厳しいのですが」
それでも、国王を旅に行かせてあげる彼は優しいと思う。
…ていうか、陛下って旅に出ても大丈夫なの?
この国の行く末に少し不安があるが、次代の国王はカール殿下なので心配ないだろう。
「ギルバートさんっていつも大変ですよね…。私に何かできることがあったら言ってください」
彼の周りにいる人達を思い浮かべると、そんな言葉しか出ない。…本当にクセのある人ばかりだ。
私の言ったことがいきなりだった所為か、ちょっと驚いたようだが、彼はふっと笑ってくれた。
「ありがとうございます。………では、早速。歌をお願いしても良いですか?」
いつものように、私達二人…いや、一人と一羽の夜は更けていった。
“チャック”を読んでくださった方になら分かる小ネタを入れています。
読んでいても分からなかった方は、拍手小話も読んでくださいね!(宣伝)
しかし…“羽”読んでて“チャック”読んでない人っているんですかね??