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羽のあるヒロインはいかがですか?  作者: 遊雨季
本編:宰相閣下のカナリア
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第三羽

 お気に入り登録・評価してくださった方、ありがとうございます。

 …ええと、感想も頂けると嬉しいです。はい。


 今回の話は長めです。あの夫婦の所為で。

 ―――女神がいるって本当ですか?



   ◇◇◇



 今更だが、さっき、騎士みたいな人とアレンさんが“女神様”とか言っていたような気がする。

 この世界には魔法があるみたいだし、女神もいるんだろうか。


 …神様なら何とかしてくれるかも?


「ギルバートさん、女神様って……」


 アレンさんが戻ってくる前に詳しく話を聞こうと声を掛けたが、彼は何故か苦い顔をしている。


「…“女神サマ”というのは例の“心当たり”の女性ですよ」

「異世界から女神様が来たんですか?」


 女神が違う世界に来ても良いのだろうか。


「……………。スズメ、神という存在は信じる者の前にしか現れないものです」


 長い沈黙が物語っている。…その女神と何かあったようだ。

 いや、さっきのアレンさんの様子からすると彼と何かあったのかもしれない。


「まあ、見れば分かるでしょう。…アレン殿が出迎えに行ったのでもう少し掛かるかもしれませんが」






 再度、扉が叩かれた。

 アレンさん達が来たのだろうか。


「入りなさい」

「失礼致します。騎士団長とコ…女神様をお連れしました」


 騎士みたいな人は扉を開け、報告した。

 案内されて来た人は、まだ部屋に入っていないため姿が見えない。

 それにしても、騎士団長と女神ってどういう組み合わせなんだろうか。


「ご苦労様です。あなたはもう下がって頂いて結構です」

「はい」


 騎士みたいな人は大きく扉を開いて、外にいた人達を招き入れてから出て行く。

 私は入って来た人達を見て……


「…アレンさんっ!?どうしたんですかっ!?」


 戻って来たアレンさんは何故か血塗れだった。

 白かったはずの服が真っ赤に染まっている。

 あの短時間の間に怪我でもしたんだろうか?


「スズメ、そんなものは気にしなくても良いですよ。残念なことに、怪我はもうないはずですから」

「ええぇ??」


 私以外の人は――アレンさんも含め――まったく気にしていないようだ。


 怪我!?“もうない”って何っ!?


「スズメ殿、私は大丈夫ですよ。いつものことです」


 そう言って、アレンさんはにこやかに笑う。

 血に塗れて笑う美形…ちょっとしたホラーだ。…本当に何があった。


「それより、二人を紹介しましょう。この男は…」

「悪魔です!!…そして、こちらのお方が(私の)女神様です!!」


 アレンさんがギルバートさんの言葉に被せてきた。

 何故だろう、変な副音声が聞こえた気がする。


「アレン殿、少し黙っていて頂けますか」


 ギルバートさんは怒っているようだ。

 微笑んでいるが額に青筋を浮かべている。


「…この男は王立騎士団団長のジークフリート、隣の女性は彼の奥方でコウノ・ハルカです」


 “奥方”のところでアレンさんがすごい顔をしていた。

 ………この短い間で、彼の印象が随分変わった気がする。


「私は桐下(きりもと)鈴芽といいます」


 とりあえず、アレンさんのことは放っておいて自己紹介してみた。

 すると、黒髪和風美人――コウノさんが話し掛けてくる。

 たぶん、名前や顔立ちからして日本人だとは思うが、私と同じ人種かどうか怪しい。


 …何この美人。え、女神??


「……本当に人の言葉を話すんですね。

 私は、河野陽香です。たぶん、あなたと同じ日本人だと思いますよ」


 あ、やっぱり日本人なんだ。…女神じゃなかったのか。でも、じゃあ“女神様”って誰?


 コウノさんは特に驚いた風もなくそう言ったが、鳥がしゃべっていることに対してもっと何かないんだろうか。…同じ日本人じゃないかもしれない。

 コウノさんの夫だという団長さんは、何も言わない。

 しかし、私への視線が少し怖い…気がする。

 見た目が怖いからだろうか。

 焦げ茶の短髪に青灰色の瞳の少々強面の男前だが、…何故か威圧感が半端ない。


「あなたも日本人なんですか?でも“女神様”が来るって聞いたんですが…」

「……………。神官長、死んでください」

「ああっ、女神様!!私などに話し掛けてくださるとは!!!」


 アレンさんがヒートアップしてしまった。ちょっと…いや、かなり気持ち悪い。

 しかも、ポジティブなのかネガティブなのか分からない発言だ。


「コウノ、コレに話し掛けないでください。……話が進みませんから。

 アレン殿、その格好では後々困るでしょうから、着替えてきては?用意はありますので」


 ギルバートさんはそう言うが、答えは聞いていなかったようだ。

 抗議するアレンさんを部屋から追い出してしまった。

 アレンさんを預けられた騎士みたいな人が、嫌そうな顔をしていたのが印象的だった。

 ………ご苦労様です。

 アレンさんに着替えを勧めた本当の理由は、彼らの関係をよく知らない私でも分かる。…話が進まないから追い出したんだろう。


「ハルカ。この鳥、土産に持って帰らないか?」


 今までの会話の流れを断ち切るように、団長さんが初めて口を開いたが……。


 ええっ!?土産っ!?持って帰るって…私を??


 団長さんはあまり空気を読まない人のようだ。話を聞いていなかったのかもしれない。

 頭に、鳥籠に入れられて団長さんにお土産にされる私の姿が浮かんだ。何それ、コワイ。


「ジークは黙っててください。というか、何で付いて来たんですか?」


 コウノさんが阻止してくれた。彼女は良い人のようだ。

 しかし、夫に対してかなり辛辣な気がする。…もっと言ってやってください。


「ハルカ一人だと危ないだろう。それに夫婦はいつでも一緒にいるものだ」

「……………。宰相サマ、今日呼ばれた理由をもう一度話してもらって良いですか?」


 団長さんの発言はコウノさんに華麗にスルーされてしまった。

 何も言わないが、彼は奥さんに甘いのだろうか。

 何かコウノさんに向ける視線とかその他モロモロが甘ったるい。


「彼女――スズメは元々人間だったらしいのですが、気が付いたら異世界にいて、カナリアになっていたそうです。元の姿が人間だったということに関しては、私とアレン殿が確認しました」

「えっと、遊園地のジェットコースターに乗ってたら、いきなりここにいたんです。いつこの姿になったのかは分からないんですが……」


 ギルバートさんが簡単に説明してくれたので、私も付け加える。

 何か類似点が見つかるかもしれない。


「…遊園地……。奇遇ですね、私も遊園地で着ぐるみを着ていたら、突然この世界に来てしまったんです」

「着ぐるみ!?…もしかして、バイト中に着ぐるみと一緒に失踪した人ですか?」

「違う……と思いたいですが、そんなカワイソウな目に遭っているのは私くらいでしょうね…」


 どうやら、コウノさんも叔父の遊園地の被害者だったようだ。

 私も被害者だが、加害者の身内でもある……賠償金とか払った方が良いのだろうか。

 ……………。黙っていればバレないだろう。


「コウノさんも気付いたら空から落ちてたんですか?」

「いいえ、着ぐるみのチャックを閉めたらここにいました」


 それはびっくりだ。

 チャックを閉めたら異世界……新し過ぎてついていけない。


「大変だったんですね…。あの、コウノさんがこの世界に来たのは3年前だって聞いたんですが、帰る方法は見つからなかったんですか?」


 いきなり故郷から離され、異世界に放り込まれた彼女には、辛い質問だったかもしれない。

 しかし、帰る方法はあったが団長さんと結婚するために残ったという可能性もある。


「帰る方法?………えっ、帰れるんですか?」

「……………。えっ、帰る方法探さなかったんですか?」


 元の世界に戻りたくない事情でもあったのだろうか。…そっとしておこう。


「ハルカは俺との愛を選んだんだ」


 話を聞いていないのではないかと思っていた団長さんが口を挟んできた。

 やっぱり、団長さんが理由だったみたいだ。

 帰ることを思い出さなかった程、愛し合っているのだろう。


「やっぱり!そうだと思ったんです。…素敵ですね」

「お前は良い鳥だな。うちで飼ってやろう」

「ええっ!!……結構です。お似合いの二人の邪魔をするわけにはいきませんから」


 良い鳥って…やはり、話を聞いていなかったのか。

 とりあえず、丁重にお断りしておこう。


「あの宰相閣下の鳥とは思えない、気遣いのできる鳥だな。遠慮することはない、うちには小さい娘もいる。お前なら良い玩具……ペットになるだろう」


 むしろ、団長さんが気を遣うべきだ。…ギルバートさんは気遣いのできる宰相だと思う。

 それに“あの”って……ギルバートさんはそこにいるんだが。

 ちらりと彼の方を見ると、どうでも良いという顔をしていた。日常茶飯事のようだ。


 んん?…ペット?……玩具?


 今、玩具って言った気がする。…この人は人として大事なものが欠けているのではないか。

 ………………もう、ツッコミが追いつかない。


「…ペット?……。娘さんがいらっしゃるんですね。それなら余計にお邪魔するわけにはいきません。鳥といっても元は人間なので、いつ迷惑をお掛けするか分かりませんから」

「迷惑などと言うことはないぞ。なんなら、動く必要はない。剥製にすれば、迷惑の掛けようもないだろう」


 私は“気遣いのできる人間”として言ったのだが、彼には伝わらなかった。

 正直言うと、団長さんが一番迷惑だ。

 私が働いていた学校のモンスターペアレントより、話が通じない気がする。


「ジークフリート!!あなたは何を言っているんです!彼女は鳥の姿をしていますが、元は人間だと言っているでしょう」

「今は鳥だろう」


 ギルバートさんが注意してくれるが、団長さんにはきかなかった。

 今は鳥だから何なんだろう。…剥製は遠慮したい。


「はぁ、ジークは黙っててくださいって、私言いましたよね」

「………………」


 彼はコウノさんのいうことは大人しく聞くようだ。

 尻に敷かれているのだろうか。

 その方が夫婦は長く続くらしいので、案外うまくいっているのかもしれない。


「一体、何の話をしていたんでしょうね。ジークの所為で忘れてしまいました。ジークの所為で!」


 コウノさんは団長さんにかなりご立腹だ。当然かもしれないが。


 あれ?何の話だったっけ?


「ええと…、団長さんとコウノさんの愛の話?」

「……違いますよ。元の世界に帰る方法の話です」


 私がつい別のことを言ってしまうと、ギルバートさんが訂正してくれた。


「…残念ながら、私は元の世界に帰る方法は知りません。お役に立てなくて申し訳ないですが」

「…いえ!そんなことありません。同じ世界から来た人がいるっていうだけで心強いです。

 ………あの、それで“女神様”のことなんですが…」


『バァーン!!』


 扉を破壊しそうな勢いで部屋に入ってきたのは、まさしく王子様だった。

 ここはギルバートさんの邸のはずだが、勝手に入って来てもいいのだろうか。


「しゃべる鳥を捕獲したとは、本当か!?」


 私の話は、何やらこのキラキラした人に遮られてしまったようです。





 血塗れの神官長の怪我が消えていたのは、彼が治癒魔法を使ったからです。

 実は神官長は治癒魔法の天才なので、怪我をしても一瞬で治ります。…怪物?

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