第二羽
9/3 ちょっと文章つけたしました。設定忘れてた…。
―――異世界って信じますか?
◇◇◇
拾ってくれた男性――ギルバートさんとの話し合いの後、私は王宮ではなく彼の邸でお世話になることになった。
……彼は、拾ったものの面倒は最後まで自分で見る人のようだ。
詳細は知らないが、他にも色々便宜を図ってくれたらしい。
昨日“この人が宰相でこの国大丈夫か”とか思って、本当にごめんなさい。
そんなこんなで。色々、本当に色々あった翌日。
窓から見た空に太陽が二つ輝いているのを見た私は、ここは異世界なのではないかという結論を出した。彼にそう言うと、何か思い当たるものがあったようだ。
「“異世界”ですか……。心当たりがないこともないので、私の方で当たってみましょう」
しかし、その“心当たり”は後回しになった。
鳥の姿では不便だろうと、先に私を人間に戻せるかもしれない人を呼んでもらったからだ。
どうやら、彼の邸まで来てもらえるらしい。
元の姿に戻れるかもしれないんだ…、良かったぁ。
鳥になってしまった理由も分からないし、一生このままだったらどうしようかと思っていたところなので、正直かなり安心した。……彼の一言がなければ。
「アレン殿――今日お呼びした方は優秀ですが、あまり頼りたくありませんね」
ギルバートさん、そのセリフ……すごく気になるんですが…。
来てくれた人――アレンさんは優しそうな人だった。
柔らかい色合いの薄茶の髪に新緑の瞳で、にっこりと微笑んでいる。
…同じ美形でも、見た目はギルバートさんより取っ付き易そうだ。
「初めまして。私は神殿で神官長を務めております、アレンと申します」
彼の自己紹介を聞いて驚いたが、かなりの美声である。
神殿の人らしいが、この声で壺とか売られたら買ってしまいそうだ。
……それは神殿ではなく、悪徳商法か。
「こちらこそ、初めまして。私は鈴芽といいます」
返事をすると、彼は驚いたように目を見開いた。
「…本当に言葉を話すのですね。人語を解する鳥とは…。きっと、神の御使いでしょう」
そんなものになった覚えはない。
彼は恍惚とした目で遠くを見つめている。……どこを見ているんだろう。
良い人そうだと思ったが、変な人だったのかもしれない。
ギルバートさんの方を見ると、頭が痛いとでも言うように顔を顰めていた。
「アレン殿、そういう話は結構です。……彼女は元々人間だったそうなのですが、あなたはどう思われますか?」
「………はぁ。呪いの類ではないと思いますよ。存在が掴みにくいので、今の姿が本当の姿ではないということは分かりますが、“人間に戻す”のは無理ですね」
ギルバートさんの質問にアレンさんは溜め息を吐いてから答えたが、ギルバートさんの方が溜め息を吐きたい気分なんじゃないだろうか。
それにしても、話がスムーズに進んでいるところを見ると、彼があらかじめ事情を説明してくれていたようだ。
「…そうですか。“呪いの類ではない”というと?」
「少し、言い表しにくいのですが…何らかの外的要因でこうなったのではないと思います」
「外的…ということは魔法でもありませんね」
「ええ。……魔法ならば宰相殿の方が詳しいでしょう」
「いえ、あなたとは得意分野が違いますから」
二人は真面目に話しているが、それからは専門的な話になったのか、私にはチンプンカンプンだった。
とりあえず、私を元に戻すことは無理らしい。…期待していた所為か、ものすごく落ち込む。
……んん?さっき、魔法って言ってなかった?
…後で聞いてみよう。
難しい顔をしながら話し合っている二人を見ながら、そんなことを考えていると、突然扉を叩く音が聞こえた。
「入りなさい」
この部屋の主であるギルバートさんが許可を出すとすぐに扉が開いた。
「失礼致します。騎士団長とコウノ様…女神様が到着されました」
入って来たのは、騎士のような格好をした人だ。
何故か“女神様”と言ったときにちらりとアレンさんの方を見た気がする。
「分かりました。この部屋まで通してください」
「はっ」
騎士みたいな人は短く返答して、部屋から出て行った。
その後、すぐにアレンさんが立ち上がる。
「宰相殿。女神様が来られたようなので、私は出迎えに参ります」
「……。分かりました」
彼は宣言すると出て行ってしまった。
ギルバートさんの了承も聞いていなかった気がする。
「はぁ。……スズメ」
ギルバートさんは深い溜め息を吐いてから、私に向き直った。
「申し訳ありませんが、今の段階ではあなたを人間に戻すことはできないようです。カナリアになった原因も分かりません」
「いえ!…謝らないでください、迷惑を掛けてるのは私の方ですし」
「そんなことはありませんよ。……今までの話で何か質問はありますか?」
質問と言っても、元の姿に戻れないことがかなりショックだったため、あまり話を覚えていない。
何かあるとしたら…魔法のことくらいだろうか?
「あの、この世界には魔法があるんですか?」
そう尋ねると、彼は一瞬フリーズした。
「………あなたの世界にはないのですか?」
「はい。物語の中にはあるんですけど…」
「…そうですか」
私の返答に短く返して、彼は考え込んでしまった。
何かあったのだろうか?
「3年程前に異世界から来た女性がいます。もしかしたら、あなたも彼女と同じ世界の出身ではないかと思ったのですが…」
「違うんですか?」
「いえ、はっきりとしたことは分かりませんが、彼女は魔法に驚いていませんでしたから」
現代から来て魔法に驚かない人はいないだろうから、きっとその女性は違う世界から来たのだろう。
「そうですか…。その人って、今朝言ってた“心当たり”の人ですか?」
「ええ、今となっては彼女が頼みの綱だったのですが……困りましたね」
早くも頼みの綱が切れ掛かっているようです。
次はあの夫婦が出てきます。
というか、チャックから3年も経ってた…。