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羽のあるヒロインはいかがですか?  作者: 遊雨季
続編:宰相閣下とスズメ
22/26

曲間「恋人練習曲」

 小話を割り込み投稿しています。

 あと、拍手も更新してるので、良かったら見てやってください。


 全開の更新からかなりあいてしまい、申し訳ないのですが、これからも更新遅れます。

 私生活が忙しいので……。テストを捨てる覚悟ができたら更新します(笑)



 今回はデートの話。

 “奇遭曲”とか“艶不曲”のネタが入っています。

 読んでいなくても分かりますが、読んでいればニヤリとできるかも?

 ―――手を繋げるって……良いですね。



   ◇◇◇



 人間の姿に戻れるようになってから一ヵ月が過ぎた今でも、鳥になったり人間に戻ったりと忙しい毎日を送っている。しかし、自分の意思で変わる訳ではないため、飛行許可は下りない。

 セドリックさんへの抗議――ギルバートさん?もちろん、彼も私の飛行反対派だ――も込めて邸の中を歩き回ってみたが、ただ邸の皆から微笑ましそうに見られただけである。


 ちっとも許可が下りないので、歩き方の研究をしてしまった。

 前から言われていたが、私の歩き方は鳥としておかしいようだ。ティーナちゃんに言わせると、カナリアのような鳥――雀っぽい鳥?…異世界の鳥の分類はよく分からない――は“てちてち”と歩いたりはしないらしい。何でも、“ぴょんぴょん”跳ねるように移動するそうだ。…言われてみたら、元の世界でも道端にいた雀は“ぴょんぴょん”跳ねていた…ような気がする。

 この雀跳び――ホッピングと言うらしい――をマスターしてからというもの、移動速度が格段に上がった。疲れやすいのであまり長距離の移動には向かないが、近くの部屋から部屋へは短時間で行けるようになっている。

 ………おかしい。人間に戻ったはずなのに、むしろ鳥に近付いている気がする。




 今日も今日とて、雀跳びをしている。


 ……つ、疲れる…。


 食堂を目指しているものの、もう挫けそうである。

 しかし、諦めてはならない。…何せ、ミルカちゃんに“お送りしましょうか~”と聞かれたのを断ったばかりだ。ここで諦めるのは少し…いや、かなり情けない。


 ううっ、でも…廊下長過ぎ……。


 正直、ギルバートさんの邸は広い。まあ、彼は貴族だし、宰相という位もあるのだから当然かもしれない。これでも貴族の邸宅としてはそんなに大きくない方らしいが。…私のような小鳥には少々辛い現実だ。


 よし!この階段降りたらすぐ……っ!。


 人間、ゴールが見えると頑張れるものである。

 ただし、タイミングが悪かった。


「………え、あ……やばっ!?」


 いるよねー、こういうときに限って問題が起きる人って。…私だけど。


 “いきなり体が重くなる”…ここ最近何度も経験した感覚だ。

 階段で突然人間に戻ると、どうなるか?


 ……お、落ちるっ!!


 そう思い、咄嗟に目を瞑った。


 ………………?


 しかし、体の痛みも固い床の感触もない。…感じるのは、人の体温。


「スズメ」


 目を瞬かせていると、頭の上から溜め息まじりに名前を呼ばれた。

 どうやら、抱き留めてもらったようだ。


「ギルバートさん!?」


 何故ここに彼がいるのか。

 今は、いつもなら仕事をしている時間である。


「少しは気を付けてください。…でないと、歩くことも禁止にしますよ?」

「え、それは嫌です」

「………そう言うと思いました。禁止にはしませんが、本当に気を付けてください」

「はい、すみません」


 素直に謝ると、ゆっくりと床に降ろしてくれる。


 ちょっと、残念。


「……あの、仕事じゃなかったんですか?」


 最近、彼は忙しそうにしている。

 いや、いつも忙しそうなのだが、ここ数日はそれ以上に忙しいようだ。…早朝に邸を出て行くくらいなので、数日前から私の日課であるお見送りができていない。


 何かあったのかな?


 トラブルでもあったのだろうかと心配になってきた。

 私が不安そうな顔をしていたからか、彼は“大丈夫ですよ”と軽く微笑みながら言う。


「実は、今日は休みなんです」

「え?」


 ギルバートさんが休み?…え、天変地異の前触れ?


 何だかんだ言いながらも仕事好きな彼が自主的に休むことなんて今までなかったはずだ。…そんなに疲れが溜まっているのだろうか。

 しかし、その心配は次の言葉で消え去った。


「私と出掛けませんか?」


 彼の求婚を受け入れ、晴れて恋人同士――婚約は彼の実家に行ってからの話らしい――になってから一週間ほど。初めてのデートのお誘いである。



   ◇◇◇



 ギルバートさんが最近忙しかったのは、私と出掛ける時間を作るためだったらしい。


 やっぱり、嬉しいな。


 一緒に出掛けられることもだが、彼が私のために時間を作ってくれたことが何よりも嬉しい。


「スズメ、どこか行きたい場所はありますか?」


 街に出ると、ギルバートさんにそう聞かれた。


「うーん……すぐには思い付きません。…ギルバートさんは?」


 彼にはどこか行きたい場所があるのだろうか。


「そうですね……では、宝飾店にでも…」

「私、市場に行きたいです!」


 彼の言葉を遮って、とりあえず頭に浮かんだ場所を言ってみる。

 市場には、人間に戻ってから一度も行っていない――外出できないので当然だが――ため、行くならそこが良い。


「……あなたが言うのなら、そうしましょうか」


 危ない。もう少しで、初デートが高級店巡りになるところだった。

 意外とギルバートさんは何でも買い与えようとするので、断るのが大変なのだ。…普段鳥の姿だし、ドレスもアクセサリーもいりません。


「しかし、女性は買い物を楽しむものだと教わったのですが……」


 彼の言う“買い物”は男性が女性に物を買うことである。それを人は貢ぐと言う。…彼の女性観はちょっと偏っている気がする。


「それ、人によると思いますよ」


 人によると言うか、額にもよるだろう。

 私としては、恋人にあまり高い物を買ってもらうのは気が引ける…というか、嫌だ。

 歳や立場が違っても、好きな人とは対等でいたい。


「ええ、そのようですね。…今、初めて知りました」


 ミルカちゃん達が言っていたが、彼の家族は女の人ばかりらしい。

 何でも、“男は女に貢ぐもの!”と言って憚らない三人の姉がいるそうだ。…ミルカちゃんは“旦那様も~、よくタカられてます~”と言っていた。

 ……ん?タカる?………彼の家族に会ってみたい気もするが、少し怖い気もする。


「では、市場まで行きましょうか」

「はい!」



   ◇◇◇



 今日は初めて恋人と出掛ける日である。

 楽しそうに隣を歩くスズメを見れただけでも、仕事を急がせた甲斐があるというものだ。


「スズメ、何か欲しい物はありますか?」


 彼女はあまり何も欲しがらないので、こういう機会くらいは何か買ってやりたい。

 悩んでいるのか、彼女は周りに視線を彷徨わせている。


「ええっと……あっ!あれ、食べたいです」


 そう言って、何か見つけたスズメが指差したのは一つの露店。

 辺りに食欲をそそる匂いが漂っている。どうやら、串焼きを売っているようだ。


 ………しかし、これは…。


「お久しぶりです、おばさん!」

「おや、誰だい?すまないが、お客さんのことを忘れちまったみたいで…」

「私、スズメです。ちょっと前までカナリアでしたけど」


 顔見知りなのか、スズメは露店の店主と親しげに話している。…少し説明する必要があったようだが。


 スズメは顔が広いですからね。


 王宮では伝令をしていたため知り合いが多いし、街でもよく飛び回っていたので、多くの人に知られている。

 彼女は結構有名だ。…しゃべるカナリアとして。


「で、スズメちゃん。そっちの美人なお兄さんは恋人かい?」

「え、そ……そうです」


 スズメが店主の質問に顔を赤くしながらも答える。

 何故、自分の恋人はこんなにも愛らしいのか。


「店主。串焼きを二本、頂けますか?」


 顔を俯けてしまった彼女に代わり、串焼きを注文する。普段、市場に来てもこういった物を買わないので新鮮だ。


「はいよ!」


 店主が湯気を立てる出来立ての串焼きを差し出し、それをスズメが受け取った。…火傷しそうだ。


「わあ、美味しそう!」


 思わず、といった様子で彼女が声を上げる。

 持っている手に垂れそうなほどたっぷりと付いたタレの良い匂いに、食欲を刺激されたのだろう。


「では、代金を…」

「お代なんかいいよ、スズメちゃんが人間になったお祝いさ!」


 本当に、彼女は人に好かれている。


「ありがとうございます!」

「いいんだよ。また、いつでも来とくれ」

「はい!」




 貰った串焼きを食べながら歩く。

 少し躊躇いがあるが、こんな場で“行儀が悪い”と言うのも無粋だ。


「…んっ、ん~っ!やっぱり、美味しいです!!」


 本当に美味しいのだろう。スズメは幸せそうに、にこにこと笑っている。

 彼女の言う通り、この串焼きは美味しい。


「そうですね。……“やっぱり”ということは、前にも食べたことが?」

「はい。結構前なんですけど、陽香ちゃんがくれました」


 “結構前”だとすると、スズメがカナリアのままだった頃だろう。


 コウノっ!!


 前から思っていたが、コウノはもっと人を気遣った方が良い。

 ……元々人間だと言っても、カナリアに“鳥の串焼き”を食べさせるのはどうなのか。



   ◇◇◇



「…………………………」


 うわぁ、恥ずかしそう。


 いや、恥ずかしいと言うより、気まずいのかもしれない。

 やはり、ギルバートさんと一緒にケーキ店に入るのはまずかっただろうか。


「えっと……もう出ますか?」


 周りからの視線が気になるので、自然と問い掛ける声が小さくなる。


「いえ。…まだ何も食べていないでしょう?」

「でも、ケーキはテイクアウトできますし」


 まあ、お店限定ケーキもちょっと…かなり捨てがたいが。

 しかし、いざとなったら女友達と来れば良い。


「私のことなら気にしないでください」


 彼はそう言ってくれるが、せっかくのデートなのだから二人で楽しみたい。


「ギルバートさんって、甘い物好きでしたか?」

「ええ、それなりに」

「………本当に?」

「もちろん、本当です」


 嘘ではないのだろうが、本当のことでもないだろう。彼は別に甘党ではなかったはずだ。

 邸でもたまに焼き菓子を摘まむくらいなので、そんなに甘い物を食べているイメージはない。


「スズメ」


 どうしようか悩んでいると、ギルバートさんに名前を呼ばれた。

 私が顔を上げるとメニューを差し出される。…淡いピンク色で可愛いイラストが描かれているメニューは、彼にまったく似合わない。


「……ありがとうございます」


 今日は、彼の言葉に甘えておこう。




「こちらが、ご注文のアップルパイです」


 店員さんが目の前に美味しそうなアップルパイを置いてくれる。

 ミルカちゃんによると、この店のアップルパイはスッキリした甘さで絶品らしい。


 ええっと……オススメのチョコレートケーキは邸の皆に買って帰ろうっと。


「美味しそうですね!」


 運ばれてきた紅茶に口を付けているギルバートさんに声を掛けた。

 彼が頼んだケーキはベイクドチーズケーキだ。…一口くれないかな?


「ええ、有名な店ですし」

「有名?」


 そういえば、ミルカちゃんもティーナちゃんも知っていた。

 陽香ちゃんも団長さんと一緒に来たことがあるらしい。


「陛下が監修した店なんですよ、ここは」

「ええ!?そうなんですか?」


 そんなことまでしてたんだ……。


 この国の国王陛下は多才かつ多趣味な人だ。きっと、この店も彼の趣味の一環だろう。


「ええ。確か…ケーキのレシピも陛下が考えたものだったはずです」


 マジですか。

 陛下、多才過ぎません?



   ◇◇◇



 ケーキ店を出た後も色々な店――ちょっと、食べ物関係のお店が多かったかもしれない――を見て回ったが、ギルバートさんと一緒にいるから、どの店に行っても楽しかった。

 しかし、楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。もう、今は夕方だ。


「そろそろ帰りましょうか」


 ……名残惜しいなあ。


「………………」

「スズメ?」


 そんなことを考えていたら、彼の言葉に返すのが遅れてしまった。

 どうかしたのかと言うように顔を覗きこまれる。


「あ、えっと……ちょっとだけ、帰るのがもったいないなって」


 思ったより彼の顔が近くにあった所為だろうか、ぽろりと本音が漏れた。


 一緒のところに帰るのに、おかしいかな?


 デートが終わっても、帰る場所は同じだ。

 でも、何だか寂しい気がする。……彼はどう思っているのだろう?


「………そうですね。では、また来ましょう」


 そう言って微笑んでくれるのが嬉しかったから、私は彼の手にそっと触れた。

 そして、ゆっくりと手を繋ぐ。…鳥のときはできなかったことだ。


「あの、こうやって帰りませんか?」


 繋いだ手を軽く上げて聞いた。

 彼は少し驚いたように目を見開いていたが、すぐにぎゅっと強く握り返してくれる。


「邸に着いても、繋いでいたいくらいですね」



 そのとき私の顔が赤かったのは、きっと夕日の所為じゃないだろう。







《とあるケーキ店での客達の会話》


客1「今出てった二人、恋人同士かな?」

客2「そうに決まってるじゃない!」

客3「カレシの方さ、すっごい美形だったよね」

客1「そうそう!」

客4「でも、カノジョの子フツーじゃなかった?」

客1「そこが良いのよ!」

客2「分かる~。普通っぽい子と美人系イケメンとか、良いよね!」

客1「でしょ、でしょ~」

客3「分かる気もするけど…」

客4「何て言うか、甘~い空気漂ってたよね」

客2「カレシの人、カノジョ見る目がものすごい甘かったしねぇ」

客4「ちょっと、胸焼け」

客3「ケーキ屋さん来て、ケーキ以外で胸焼けとか…」

客4「仕方ないって。………私達、恋人いないし」

客達「「「……………」」」

客1「今日は食べよう」

客2「うん」

客3「あ、店員さーん!注文、追加しまーす!」


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