序曲「婚羽ファンタジー」
タイトルの解説(?)はあとがきにあります。
拍手でこっそりやってたアンケートの結果、鈴芽ちゃんと宰相サマの結婚に至るまでの話を書くことにしました。
ご協力してくださった方、ありがとうございました。
他の話も、この連載(?)が終わったら書きますね。…たぶん。
昨日、私は人間に戻ることができた。…できた、はずなのだが………。
「な、何で……!?」
―――朝起きたら、またカナリアになってました。
◇◇◇
「スズメ様~、そんなに落ち込まないでください~」
私が辛すぎる現実に打ちひしがれていると、ミルカちゃんが慰めてくれた。
年下の女の子に慰められるのは少々情けない気もするが、この場合は仕方ないだろう。
“やっと戻れた!”と喜んでいた次の日にコレである。…泣いても良いですか。
「だって、だって………っ」
「一度戻れたんですから、きっとまた戻れますよ」
ティーナちゃん――この邸の侍女の一人で、ミルカちゃんと一番仲が良い子だ――も慰めてくれるが、私がこの世界に来てから…いや、鳥になってから人間に戻るまでに掛かった時間を考えると、次に戻るのは半年以上先になってしまうはずだ。
「でも、もう二度と戻れないかも………」
戻れたのが奇跡だったのかもしれない。…あっ、目から汗が………。
「あ~、ティーナがスズメ様泣かせた~」
「えっ!?私の所為なの!?………す、すみません、スズメ様」
私が目から汗…ではなく涙を流していると、ティーナちゃんに泣かされたことになっていた。
彼女の所為ではないのだが……。ううっ、ダメな大人ですみません。
「別にティーナちゃんの所為じゃないよ。…私、きっと元々鳥だったんだ!」
「………………」
「………………」
雰囲気を明るくしようとしてみたのだが、すべったようだ。
半分本気で言ってたとか、そういうことはない。…たぶん。
「スズメ様~。とりあえず~、旦那様に言いに行きましょう~?」
「そうですよ。旦那様なら何とかしてくれるかもしれません」
ミルカちゃんとティーナちゃんに気を遣われてしまった。…話を変えてくれてありがとう、その優しさにまた泣きそうです。
………行きたくないなぁ。
実は今、ギルバートさんに“鳥に戻っちゃった!”と言いに行く途中なのだ。
正直、私は彼に鳥になったことを報告したくない。…せっかく、人に戻ったのにすぐ鳥になるなんて情けない気がする。
「………あとで行こう?」
嫌なことは後回しにするべし。
「………それは…」
私を運んでくれているティーナちゃんに言ってみたが、さすがに頷いてくれない。
仕方ないので、鳥になってから身に付けた“おねだり”スキルを駆使してみる。…といっても、上目遣いで彼女を見るだけだ。
「ダメ?」
「……っ!!ス、スズメ様がそう仰るなら………っ!」
小動物好きの彼女には効果抜群だった。
あまりにもアッサリ負けるので、彼女の将来が心配になる。…変な人に付いてっちゃダメだよ。
「ダメですよ、スズメ様」
いつの間にか、私は違う人の手のひらに乗せられていた。
ク、クロエさん……。
「ティーナ、あなたがスズメ様に弱いことは知っていますが、これはいけませんよ」
「……すみません」
私がワガママを言った所為でティーナちゃんが怒られてしまう。
クロエさんは優しい人だが、仕事には厳しい。…もちろん、私の“おねだり”は効かない。
「クロエさん!ティーナちゃんは悪くないんです!私が…」
クロエさんにそう訴えると、彼女はにっこりと笑って………。
「ええ、スズメ様も良くないことをしましたね?……あとでお説教です」
ごめんなさい。もうしません。
クロエさんの笑顔はちょっと…いや、かなり怖い。
動物の本能か、逆らっちゃいけない気がする。
「スズメ様も~、ティーナも~、近くにクロエさんが来てたの分からなかったんですか~?」
今まで口を開かなかったミルカちゃんがそう言われた。…気付いてたんなら教えてください。
「では、先に旦那様のところへ行きましょうか」
“お説教の間にギルバートさんは仕事に行っちゃうはず!”と軽く考えていたが、クロエさんにはお見通しだったようだ。
彼女は私を手に乗せたまま歩き出してしまった。…拒否権はないんですね。
「……………はい、行きます」
この姿を見て、彼はどう思うんだろう?
タイトルの“婚羽”については、goo辞書参照。
婚衣:一部の鳥の繁殖期だけにみられる美しい羽色。一般に雄のほうに著しい。婚羽。
…鈴芽ちゃんは色が変わるのではなく、種族が変わってますね(笑)
婚羽って単語は初めて見たんですが、字面が綺麗だったので使いました。あんまり意味はありません。
“ファンタジー”は幻想曲のことです。
鈴芽ちゃんの生態ってファンタジー…とか思ってません。
むしろ、彼女はミステリアスな人です。…初期設定では“ちょっと大人なツッコミ属性”だったのに、何故かボケになってる不思議。
ちなみに、作者は音楽知識ありません。タイトルは語感で決めました、テキトーに。




